第21話 都市伝説のメリーさん、ジェネレーションギャップを感じる。

「こんこんこんばんコックリさーん! ぬっくん見て見てじゃんねー新しいスキンが実装されたじゃんねーゴボゴボゴボ」


「あたしメリーさん。今ヌクトに露出の上がった服を見せびらかして色仕掛けをしようとしてる女狐を締め上げてるのゴボゴボゴボ」


「露出っていうか、夏服じゃん」


 メリーさんからの電話に出ると、背後にコックリさんが現れて、そのコックリさんの頭をメリーさんが締め上げて、二人して湯船に沈んだ。

 コックリさんはこれまでの長袖のセーラー服からリニューアルして、半袖のセーラー服になっている。




「いやーこないだの配信が大人気でいっぱい投げ銭もらっちゃったじゃんねー! ウハウハじゃんねー!

 そのおかげでこうやって新しいスキンを実装できたじゃんねー!」


「あのネタはあたしがコックリを縛ったおかげなの。感謝するの」


「例の縛り縛られ配信、そのレベルで大人気だったんだ」


 コックリさんをロープで縛ったりしたのをネタにした配信、人気だったのは知ってるけど。

 視聴者さん、マニアックな人が多いんだろうか。


 そして新しいスキンという夏服アバターのコックリさんは、上機嫌で湯船に浸かっている。

 あの、冬服より生地が薄いから、お湯で肌に張りついて透けてるんですが。胸のボリュームが強調されるし、黒い色が透けてるんですが。いや下着の色じゃなくて黒塗りなのは知ってるんだけど。

 メリーさんそんな目で見ないで。無表情のまま鬼のような視線で見ないで。べつにいやらしい目では見てないから。たぶん。きっと。めいびー。


「やっぱりコックリ縛って捨てるの……いや縛ったらよけいに体つきが強調されるの……塩まいて昇天させるの……」


「メリーさん割とシャレにならないからやめてあげて?」


 このままだとコックリさんが成仏させられかねないので、僕は話題をふることにした。


「あーコックリさん、新しいアバターでも学生服なのは変わらないんだね? もっといろいろおしゃれしたりもできるだろうに」


「んっふっふー、あーしら都市伝説にとっちゃねー、学生服ってちょっとしたあこがれなんじゃんねー!

 ねーメリメリ?」


「あたしは別に……まあ、セーラー服とかブレザーとか、着てみたいか着てみたくないかでいえば、着てみたいとは思うの」


「そうなの?」


 コックリさんはお湯をぱちゃぱちゃしながら、語った。


「あーしら都市伝説って、子供たちの間で伝承されるかどうかが知名度のカギみたいなトコあるじゃんねー。

 だから学校に登場する都市伝説がちょーっとうらやましかったりするし、あーしらも学校に行きたいなーって思うじゃんね」


「『トイレの花子さん』に『二宮金次郎像』に……一九九〇年代までの都市伝説ブームの花形は学校絡みの怪談なの」


「ああ確かに……でも『口裂け女』とかは」


「あれも子供たちが学校帰りに遭遇するかもってことで、うわさが広がったの。

 コックリだって、学校で子供たちがやりだして広まったところがあるの」


「いやいやーあーしなんてそんなたいしたことないじゃんねー。

 それ言ったら、学校と特に縁もないのに知名度あるメリメリはすごいじゃんね! かわいさの勝利じゃんね!」


「べっ、別にあたし、かわいくなんてないの。コックリたちみたいにブームになったりしてないの。たいしたことないの」


「またまたー謙遜けんそんしてるじゃんねー!」


 二人でわいわい盛り上がる。

 同じ都市伝説同士、盛り上がる話題があるんだね。


 そう思ってほっこりしてると、コックリさんたちが僕の方を見てきた。


「ちなみにー、ぬっくんは子供時代はどんなんだったんじゃんね?

 都市伝説に怖がったりしたんじゃんね? ポッケにべっこう飴とか入れてたじゃんね?」


「ヌクトは、小さいころからあたしのこと知ってたの?

 別に、知ってたらうれしいとかじゃないけど、あたしのうわさがヌクトの耳にも届いてて気にしてたとかなら、なんというか、ちょっとうれしい気はしないでもないの」


 コックリさんはわくわく顔で、メリーさんはあいかわらずの無表情で、でも二人とも興味津々で、僕のことを見てくる。

 うーん、でもなあ。この楽しそうなのに水を差すのは悪いんだけど、まあ実際のところだし。


「僕、一九九〇年代って、生まれてないんだけど」


 ぴきりと、メリーさんたちは固まった。

 メリーさんは無表情のまま、コックリさんは狐耳をぺたんとして、ぶくぶくと湯船に沈んでいった。


「ジェネレーションギャップなの……妖怪は古臭いとか言っときながら、あたし自身も全盛期のときに生まれてなかった人間が大人になってるくらい古臭い存在だったのゴボゴボゴボ……」


JKじょしこーせーの格好してはしゃでるの、めちゃくちゃキツイことしてるんじゃないかって思えてきたじゃんねゴボゴボゴボ……」


「いやいや、二人とも人形とお化けなんだから歳取らないし、気にすることないって!

 ほら、年を経ても変わらぬ新鮮さというか、時代を超えて愛される存在というか、なんかそういうのでさ、いいことだって!」


「もう無理なの……あたしはヘコんでしばらく立ち直れないの……バイバイなの」


「そんなバイバイでもいつもと変わらず目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。


「……まあ、当人からしてみたら、ジェネレーションギャップって胸にクるものなのかなあ」


 二人ともかわいいし、気にすることないと思うんだけどな。

 まあそれはそれとして、ヘコんでる二人はちょっとおもしろかったけど。


「敬意を表して、今度からメリーおばあちゃんって呼んであげようかな」






「おばあちゃんはガチでやめろなのそこまでは歳食ってないの」


BBAババァ呼ばわりはさすがにぬっくんでもあーしブチギレるじゃんね!?」


「ごめんて冗談だって二人がかりはやめて!?

 肌にロープが食い込むし目にシャンプーがーッ!?」

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