第19話 都市伝説のメリーさん、縛り縛られる。

「こんこんこんばんコックリさーん! コックリさん系配信者のってメリメリなんであーしのこと縛ってるんじゃんね!?」


「あたしメリーさん。今コックリのスカートを封印してるのゴボゴボゴボ」


 メリーさんからの電話に出ると、背後にコックリさんが出現して、そのスカートをロープで縛るべくメリーさんがまとわりついていた。

 コックリさんは湯船に浸かっているので、そのスカートは当然水の中であり、メリーさんは風呂に沈んだ。




「いやメリメリこれギッチギチに縛りすぎじゃんね!? なんでスカートだけじゃなくて全身縛ってるんじゃんね!?」


「ヌクトが万が一にも変な気を起こさないよう、万全を期すの。

 変態サルヤローのヌクトはスカート以外にもどんなチラリズムで興奮するか分かったものじゃないから、全身スキなく封印するの」


「僕ってそんな変態だと思われてるの?」


 現在、僕の正面には、コックリさんの頭の上でロープを持って無表情でドヤっているメリーさんと、全身ぐるぐるに縛られて後ろ手で湯船に正座しているコックリさん。

 いやあの、これはこれで、絵面がよろしくないよ? 全身縛られて水に濡れる狐耳セーラー服ギャルって、ちょっとマニアックすぎない?


「ヌクトがまたよこしまなこと考えてる気がするの」


「いやそんなことないソンナコトナイヨ?」


「ちょっメリメリ、頭の上でそんな動かれたらゴボゴボゴボ」


 メリーさんが僕に向けて身を乗り出してきて、重心が崩れたコックリさんは正座姿勢を維持できずに倒れて、風呂に沈んだ。

 あ、これよくないな。縛られてるから自分で起きられないな。

 あわてて引き上げて、洗い場の方に出して転がしてあげた。

 コックリさんはほっと一息ついて、それからくわっと目を見開いた。


「いやほどいてほしいじゃんね!!」


「水に濡れて縛られて洗い場に転がされる狐耳セーラー服ギャル、マニアックな絵面だなぁ〜」


「あっちょっとぬっくんおもしろがってるじゃんね!? 二人してあーしの扱いひどいじゃんね!?

 てゆーか床に寝そべって顔が近いから気づいたけど、ちょっと赤カビ残ってるじゃんね!? やっぱぬっくんマジメにお風呂掃除してないじゃんね!?」


「それは本気でごめんなさい……」


 非常に申し訳なく思って、コックリさんを起こしてロープをほどいてあげた。

 コックリさんはぷんすことふくれっつらをした。


「もーサイアクじゃんねぬっくん! こんな間近で汚れを見せつけられて!

 こないだの排水口といいあーし汚いの見る担当みたいになってるじゃんね!」


「あれはコックリさんが勝手に……でもごめんなさい」


 排水口は自分で開けて見たんだけど、非常にお見苦しいものを見せたのは間違いないから申し訳ない。

 で、そのコックリさん、手にロープを持って、ぐふふと悪い顔をし始めた。


「あーしだけ縛られたりして不公平じゃんね!

 ここは平等に、ぬっくんとメリメリにも縛られてもらうじゃんねー!」


「あっコックリさん思ったより怒ってた!? いや違うなこれ完全におもしろがってるテンションだ!?」


「ちょっコックリ、なんであたしとヌクトを一緒に縛るの、ちょっとこれ、密着して、むぎゅう」


 コックリさんの手によって、僕とメリーさんは二人まとめて縛られてしまった。

 あのこれ、素肌にロープが食い込んでくるんだけど。そしてメリーさん、僕の胸に押しつけられて固定されて苦しそうだよ。人形だから普通は息苦しいとかないはずなんだけど。


「ふざけるななのコックリ、こんな、ヌクトの素肌に、直接こんな、密着なんて、あの」


「おんやメリメリ〜? 照れてる? 照れてるじゃんね?

 ぬっくんの素肌にべったりくっついて、無表情が真っ赤になってるじゃんねー!」


「そんなわけないのふざけるななの、あっこれ、ロープから抜け出せなくて、コックリに攻撃できないの」


 メリーさん、めちゃくちゃもがいてるけど、がっちり縛られちゃって抜け出せそうにない。

 うーん胸に密着されてもぞもぞされると変な感じ。


「ひゅーひゅー、メリメリぬっくんとゼロ距離でうれしそうじゃんねー!」


「ふざけんじゃないのコックリ、あたしは一ミリも喜んでないのさっさとほどくの」


 コックリさん、めっちゃあおってる。

 あの、やめたげて? メリーさん無表情のまま真っ赤になって、僕の胸にめちゃくちゃ体温が伝わってくるよ?

 人形の体温って何?


「アツアツのイチャイチャで楽しそうじゃんねー! お似合いじゃんねーひゅーひゅーじゃんねー!」


「ちょっ、コックリ、ホントやめて、あの、あたし別に、喜んでなんか、あの、えっと……あたしメリーさん、今コックリの目の前にいるの」


「目にシャンプーじゃんねー!」


 唐突に、メリーさんがワープして、コックリさんの目にシャンプーを発射していた。

 コックリさんは目を押さえて悶絶した。

 メリーさんがいなくなってスペースが空いた分、ロープがゆるんでぱさりと落ちた。

 ほどけたりはしていない。メリーさんはワープによってすり抜けていた。

 そのメリーさんは、コックリさんを撃墜したあと、ギギギと無表情をこちらに向けて、尋ねてきた。


「……見たの?」


 僕は無言で、うなずいた。


 今までメリーさんは、ワープの瞬間を見せないようにしてきた。シャンプー攻撃で。

 それが、今回は僕の視界を潰すことができずに、バッチリと見えてしまった。


 かねてよりアニメやマンガなどにおいて、ワープを表現する視覚演出にはさまざまな個性がある。

 こつぜんと消えたり、光に包まれたり、糸状や細かいパーツに分かれて飛んでいったり、などなど。

 その中で、ひとつ伝説的に語られる演出があって、何が言いたいかというとつまりは。


「メリーさん、ワープの瞬間に服がスケスケになるから、ずっと見せないようにしてたんだね目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。

 後に残るのはただ、床に落ちたロープのみ。いやこれ置いていかれても困るんだけど。


「……いらない荷物の整理にでも使うかぁ」


 一人暮らしだから、荷物もたいしてないけどね。






『こんこんこんばんコックリさーん! コックリさん系配信者の重縁指じゅうえんざしコックリじゃんねー!

 こないだちょっと縁があってロープで縛ったり縛られたりしたから、今日はロープでの人の縛り方について話すじゃんねー!』


「それ配信のネタに拾うんだ」


 この回の配信は、異様にウケてバズったらしい。

 まあ、うん。分からなくはないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る