第18話 都市伝説のメリーさん、ウソ発見器を使う。

「あたしメリーさん。今あなたの正面……あの……ゴボゴボゴボ」


「間近で見つめ合ったら恥ずかしくなっちゃったんだね」


 メリーさんからの電話に出ると、メリーさんがうっかりキスでもしてしまいそうなくらい至近距離の真正面に出現した。

 結果、メリーさんは照れて無表情のまま赤面して、湯船に沈んだ。




「このごろのあたし、ちょっとほめられたりドキドキするシチュエーションになったらすぐときめいて照れちゃうちょろい怪異だっていう不本意かつ不正確な印象を持たれてる気がするの」


「ついさっき間近で見つめ合っただけで照れて沈んだメリーさんの何が不本意かつ不正確な印象なんだろう?」


 メリーさんと二人、向かい合って湯船に浸かる。

 今日はコックリさんは来てない。メリーさんがスマホの通信を切ってシャットアウトしたから。


「というわけで、今日はあたしがそう簡単にときめいちゃうちょろい怪異じゃないってことを証明するの。

 そのためにこんなものを持ってきたの。ウソ発見器なの」


「パーティーグッズのコーナーで売ってるようなおもちゃのやつだ」


「ここに手を置いて、ウソをついたらピーピー音が鳴るの。これであたしがちょろい怪異じゃないって証明するの」ピーピーピーピー


「すでに鳴りっぱなしなんだけど」


「手汗で判定するタイプだから、お風呂でやったらこうなるのは目に見えてたの」


「目に見えてたら事前に対策立てたりしない? あとメリーさん手汗出るの?」


「湯船に洗面器を浮かべて、その上にウソ発見器を置いて、手をよーく拭いて、これでばっちりなの。

 さあどんとこいなのヌクト。どんな甘い言葉を言われようとも、まったく動じてないところをみせてやるの。なんでも言うがいいの」


「メリーさんと過ごす一日一日が、かけがえのない日々だよ」


「ぜぜぜぜんぜんときめいたりなんてしてないの」ピーピーピーピー


「人形なのに手汗が出るんだね」


「くっ……こんなはずじゃなかったの。あたしは人形だから手汗が出なくて、それでウソ発見器も反応しなくてこれでクールなあたしの証明完了っていう知的で完璧な作戦のはずだったの」


「手汗が出ないことを組み込んだ作戦の時点で自分がときめいちゃってること認めてるようなものでは」


「こうなったらプランBなの。脈拍で判定するタイプのウソ発見器なの。心臓のないあたしにはこっちこそ確実に反応しないの」


「物理的に反応しないことをアテにしてウソ発見器使うの本末転倒もはなはだしくない?」


「さあ今度こそどんと来いなのヌクト。あたしは絶対に、ときめいたりしないの」


「メリーさんのような素敵な女性には今まで出会ったことないよ」


「はきゅっ」ピーピーピーピー


「メリーさんのかわいらしさにいつも心がうきうきしてるよ」


「ちょ、待つのヌクト、そんなに言うの、やめるの」ピーピーピーピー


「ときめいてないんだよね?」


「とととときめいてないの」ピーピーピーピー


「じゃあ、どれだけ言ってもへっちゃらだよね」


「ととと当然なのへっちゃらなの」ピーピーピーピー


「メリーさんかわいい。メリーさん素敵。メリーさん理想の女性」


「ちょ、やっぱりやめるの、あの、待って、やめて」ピーピーピーピー


「メリーさんラブリー。メリーさんチャーミング。メリーさんずっと一緒にいて」


「ちょ、やめろって言ってるの」機内モードOFF


「こんこんこんばんコックリさーん! コックリさん系配信者のってごめんじゃんねぬっくんー!?」


「ゴボゴボゴボ」


 メリーさんがスマホの通信をオンにして、コックリさんが召喚された。僕の真上に。

 結果、僕はコックリさんの下敷きになって、風呂に沈んだ。


「しっかりするじゃんねぬっくんー! 傷は浅いじゃんねー!」


 コックリさんに引き上げられて、僕は口からぴゅるるるるーとお湯を吐いた。

 いや、傷も何も、沈んだだけだけど。

 それよりちょっと、目の前に広がった光景が目に焼きついてるというか、さっきコックリさんの下敷きになったときの構図、正確に説明すると僕の顔面がコックリさんのお尻に踏まれる形で、しかもスカートの中に僕の顔面が入る形で、つまり一言で言うと。


「……黒」


「それ下着の色じゃないじゃんね!? あーしは健全な配信者だからスカートの中は画像設定してなくて黒塗りなんじゃんね!?」


「……ヌクト」


 はっとして顔を向けると、メリーさんが無表情のまま、けれどその顔色は。


「……黒」


「それはあたしの感情の色なの」


 メリーさんはゆらりと、僕の体をよじ登ってくる。


「あなたコックリのスカートの中身を見て興奮したの? 黒と言ったその声色に興奮の感情がにじんでいたのはあたしの気のせいなの?

 どうなのヌクト? 答えるの」


「違うんだメリーさん、僕はただありのまま見えた色彩を表現しただけでそこにやましい気持ちなんてかけらもなくて」ピーピーピーピー


 いつの間にかウソ発見器がつけられていた。


「恐ろしく速い装着、僕なんかじゃ見逃しちゃったね目にシャンプーがーッ!?」


 目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。


 ……コックリさん、スカートの中は未設定なんだ。いや深い意味はないけど。

 それに対してメリーさんは……ん? メリーさんはどうなんだろう?

 メリーさんは今、僕がプレゼントした服を着ている。

 それは外側の服だけで、下着はあげていない。

 そうなると、メリーさんの下着はもともと着ていたものか、もしかしたら。


「メリーさん、パンツはいてない可能性がある?」






「最低最悪のサルヤローなの」


「ごめんて!! 今のは僕が全面的に悪かった目にシャンプーがーッ!?」

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