第17話 都市伝説のメリーさん、バスソルトに浸かる。
「こんこんこんばんコックリさーん! コックリさん系配信者のむぎゅう」
「あたしメリーさん。今コックリの顔面に腰かけてるの」
「さすがにかわいそうだからやめてあげよう?」
メリーさんからの電話に出ると、背後にコックリさんが現れて、その顔面にメリーさんが座っていた。
仲がいいなあ、って言っていいのかなあ。
「こないだの配信で『カンフー河童』の話して、けっこう視聴者にもウケたじゃんねー!」
「視聴者のツッコミコメントがすごかったね」
湯船に浸かりながら、みんなで
コックリさんの配信、僕も見たよ。こないだここで見た映画の話をしてた。
投げ銭ももらってた様子だし、配信の成果は上々なんだろう。コックリさんはるんるんとして、湯船の水面を手でぱちゃぱちゃしてる。
あの、メリーさんそんなににらまないで? そろそろ配信見たくらいでやきもち焼くのやめない? コックリさんが成功した方がメリーさんもおこづかいの確保がしやすいよ?
メリーさんの態度に気づいてるのか気づいてないのか、コックリさんはうきうきとして何か取り出した。
「配信のネタにもなるし、これからもみんなでいろいろやるじゃんねー!
というわけで今日は、こんなもの持ってきたじゃんね!」
「これは……バスソルト?」
こじゃれた小瓶の中に、薄く色のついた塩の結晶が入っている。
メリーさんも顔を近づけて、中身を観察した。
「聞いたことはあるの。お風呂に塩を入れて、血のめぐりをよくしたり汗をかきやすくしたりゴボゴボ」
「身を乗り出しすぎて風呂イスから落ちちゃったね」
メリーさんを引き上げて、僕のひざの上に乗せてあげる。
気持ち顔が赤い気がするけど、湯船に沈んじゃって恥ずかしかったってことにしとこうね。
「さっそく入れるじゃんねー! ざらざらざら〜」
「あっ家主の僕の許可も得ずに勝手に。あと僕こないだのぼせて気絶した身なんだけど。
まあいっか。水分摂ってしっかり自衛しとこう」
塩を溶かして、のんびり浸かる。
「お湯の色は、入浴剤みたいには変わらないの。でもほのかにハーブの香りがするの」
「あ、なんかホントに汗が普段より出る気がする。早めに飲み物取ってきておこうかな」
「うーん心地いいじゃんねぇ〜……体がリフレッシュしてほぐされて、とろけて極楽に行きそうじゃんねぇ〜……」でろーん
「えっちょっ溶けてる溶けてる!? コックリさんなんか体が溶けてでろんでろんになってるよ!?」
「あー……これあれじゃんね、塩で清められてるじゃんね……あーし低級霊だから、塩のパワーで悪霊退散されそうじゃんね……」でろーん
「コックリは情けないの。この程度の清めパワーで悪霊退散されるなんてざこざこなの」でろーん
「メリーさんも溶けてる!! ちょちょちょヤバイって!!」
あわてて二人を湯船から出して、シャワーで体の塩分を流れ落とす。
ダメだ、わらびもちみたいにでろでろになった体が戻らない。
「うーん……これは塩のパワーを中和しないとダメじゃんねー。しょっぱい塩を打ち消すためには、甘くするのが一番じゃんねー。
というわけでぬっくん、メリメリに歯が浮くようなあまーいセリフを言ってあげるじゃんね!」
「ちょっとコックリ何言ってるのこんなときにふざけてるのバカなの」
「分かった! メリーさんかわいい! 出会えてうれしいよ!」
「ヌクトもなに
「メリーさん超かわいい! ラブリー! 大好き! 世界で一番超キュート! きみとの出会いの奇跡に感謝!」
「ちょ、待って、待つのヌクト、そういうの、本当、ムリなの、キャパオーバーなの」カチンコチン
「やった! 固まった!」
「完全回復じゃんねー! メリメリの無表情照れ顔ごちそうさまじゃんね!」
「これで回復しちゃう自分がちょろくて情けないの……」
「よしじゃあ次はコックリさんだね!」
「は?」
「ちょちょちょちょぬっくんそれは違うじゃんね!? あーしに甘いセリフなんて言ったらいろんな意味でヤバいじゃんね!?」
「それじゃいくよ! コックリさん――」
「コックリはこれで十分なの。機内モードオンなの」
「ストップストッ――プ――」カクカク
「通信が切れてカクカクして固まった」
「これで万事解決なの」
「解決したのかなー?」
「……ところで、ヌクト」
ゆらり、と。
無表情の上に
「あなたコックリにも甘い言葉を吐こうとしていたの? あたしだけが特別というわけじゃないの?
いや分かってるの別にあたしは友達認定されただけて別に恋人でもなんでもないし恋人になりたいとかもこれっぽっちも思ってないし甘い言葉にときめいたりもしてないの、けどあたしだけに向けてくれたと思った甘い言葉を他の女にも簡単に吐けるのならそれはひどい裏切りだと思うのヌクトが悪いの最低最悪のサルヤローなの」
「待ってメリーさん違うんだ、これは人命救助を最優先とした行動というだけでコックリさんをどうこうしようなんて意志はまったくもって目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。
「……たくさん汗かいたし、せっかくバスソルトやったけど、もう上がるかぁ〜」
そうして風呂場から出ながら、ふふっと思い出し笑いする。
「メリーさん、ちょっとほめただけですぐカチンコチンになっちゃって、ちょろかわいいなあ」
「あたしはちょろくなんかないのバカにしないでほしいの」
「毎度オチの準備ご苦労様です目にシャンプーがーッ!?」
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