第16話 都市伝説のメリーさん、排水口を気にする。
「こんこんこんばんコックリさーん! コックリさん系配信者のってちょっとメリメリどこ入ってんじゃんね!?」
「あたしメリーさん。今コックリのスカートの中ゴボゴボゴボ」
「コックリさんがおならしてるみたいな絵面になってるよ」
メリーさんからの電話に出ると、背後にコックリさんが現れて、そのコックリさんのスカートの中でメリーさんがゴボゴボしていた。
なんでわざわざそんな場所に。
ちょっとうらやま……いえ、なんでもないです。
「今日も配信がんばったじゃんねー。リフレッシュしたいから、また泡風呂やりたいじゃんねー!」
「ヌクトがエッチな目で見るからダメなの」
「見ないよ? たぶん。きっと。
……あのごめんなさいメリーさん冗談です、コックリさんをエッチな目で見ないと誓います」
メリーさんが無表情のまま黒い表情でにらんでくる。ごめんて。
「まあ僕としても、泡風呂は後片づけが面倒だからやりたくないなあ」
「流しながらゴシゴシしたら、そのまま掃除になるじゃんね?」
「いやーそんなにこまめに掃除したくないし……」
「……ヌクト、最後にお風呂掃除したのいつなの?」
「えーっと、えーっと、目に見える範囲はちゃんとヤッテルヨ?」
「レディを招くお風呂場を清潔にしておかないの、ちょっと幻滅するの」
「どこかの誰かは僕が服をあげるまで汚れた服で入浴してた気がするけどなー?」
「ぷくーなの」
メリーさんは風呂イスの上から足を伸ばして、僕にげしげしとキックしてくる。
別に本気で気にしてはいないよ。じゃれてるだけ。
「んっふっふー。『目に見える範囲は』ってことは、見えない場所はサボってるってことじゃんねー?」
「なんかコックリさんが悪い顔してる」
コックリさんはざばーんと立ち上がった。
「見えない場所がどんなことになってるか、怖いもの見たさがあるじゃんねー!
排水口とかどうなってるか、確認してみるじゃんねー!」
「あっちょっ!? 待って待って、やめて!?」
制止の声も聞く耳持たず、コックリさんは湯船から出て、わくわく顔で排水口のふたに手をかけた。
そのままパカリとふたをはずし、中を見て、わくわく顔のままぴしりと固まった。
「あ、あ、あー……」
コックリさんは硬直した表情のまま、そっとふたを戻した。
それから僕に向き直って、神妙に頭を下げた。
「ごめんじゃんねぬっくん……一人暮らしの男の子に対して、気づかいが足りなかったじゃんね……」
「いやこちらこそホントごめんなさい……大変お見苦しいものをお見せしました……」
「え、なに、なんなの? コックリ、あなた何を見たの?」
僕とコックリさんは、二人してメリーさんの方を向いた。
そしてメリーさんの肩にそっと手を置いて、あたたかい視線を送った。
「メリーさんは純粋無垢でかわいいね」
「メリメリはそのままけがれを知らずに生きてほしいじゃんねー」
「なんのことか分からないけど、バカにされてる気がするの」
メリーさんは無表情のまま、気持ちぷくーとふくれてる。かわいい。
僕とコックリさんで、両側からほっぺをつついた。かわいい。
「それにしてもメリメリー、お風呂掃除が行き届いてなかったら幻滅しちゃうって、ぬっくんに期待モリモリじゃんねー」
「別にそれは、ヌクトをあおるために言っただけで、本気でそう思ってるわけじゃないの」
「でもメリメリが来るからって、ぬっくんが張り切ってピカピカに掃除して出迎えてくれたら、きゅんとしちゃうじゃんねー?」
「別に、きゅんとなんて、しないの。人形だからきゅんとする胸なんてないの」
「ものを食べたり息を吐いたりするわりに、そういうときは人形ぶるんだねえ」
ついほほ笑ましい顔で見てしまう。
そうしていると、メリーさんはうつむいて、ぷるぷるとふるえだした。
「息は……あれは、だって、人工呼吸は、不可抗力なの、した方がいいって思ったからしただけなの……」
あっ、息から連想して、こないだの人工呼吸のこと思い出してる?
いや違うんだよメリーさん、僕はそれのことあおりたいわけじゃなくて、待って勝手に赤面しないで。
「忘れろって言ったんだから、ちゃんと忘れろなの」
「いやホントに覚えてないんだったら目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。
「……風呂掃除、マジメにするかぁ」
最低でも排水口は、ちゃんとやろう。
コックリさんはなんというか、大人の対応してくれたけど、もしメリーさんに見られたら。
「……ん、どういう反応になるんだろ?」
メリーさん、そういう知識がどのくらいあるのかな。
ちょっと予想がつかない。
「でもまあ、どっちにしろ見せるもんじゃないし。間違っても見られたりしないように、さっさと片づけとこう」
「スタンバイしてたのに、今日は恥ずかしいセリフ言わないの?」
「今日はホントに帰っててほしかったな!? メリーさんお願いだから排水口見ないで!!」
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