第14話 都市伝説のメリーさん、泡にまみれる。
「こんこんこんばんコックリさーん! お久しぶりの
「うわさっそく来た」
「ふざけるななのWi-Fiつながった途端にこれなのヌクトと二人でゆっくり過ごしたいのにお邪魔きわまりないの」
「ふっふーんそんなに二人っきりがよかったんじゃんねー? やっぱメリメリぬっくんのこと大好きじゃんねー」
「だいっ……黙るの出歯亀キツネ」
「目にシャンプーじゃんねー!?」
「開幕からこれかぁ〜」
メリーさんの電話に出た途端、コックリさんもついてきて、僕の背後でわちゃわちゃし始めた。
あの、湯船がすでに泡だらけなんですが。まあ、いいか。
「ふっふっふーん、こうやって実体持ってお風呂でぬくぬくするのって、いいものじゃんねー」
「楽しんでくれてるならよかったけど」
シャンプーまみれで泡風呂になった湯船に、コックリさんは上機嫌で浸かっている。
セーラー服のまま泡だらけで、何がとは言わないけど目に毒だな。
あの、メリーさんがものすごい顔でにらんできてるんですが。いや表情自体は無表情なんだけど。
視線をこっちから一切動かさずに自分の体に泡をつけてアピールしてきてるっぽいんだけど。泡もこもこのメリーさんかわいいね。
「ところでメリーさんといいコックリさんといい、なんで服を脱がずにお風呂に入るの?
いや違うんですメリーさん、脱いでほしいとかそういうのじゃなくて純粋な疑問で」
「あっはっはーぬっくん、細かいところ気にするじゃんねー?」
「細かいことかなー?」
コックリさんはふっと、影のある笑みを見せた。
「人にはそれぞれ、脱げない理由があるじゃんね……」
「人じゃなくて怪奇現象では」
それはともかく、しまったかな……あまり踏み込むべきじゃない話題だったかもしれない。
確か都市伝説のコックリさんは、その正体は狐や犬なんかの低級霊だったはずだ。
つまりは格の高い存在ではなく、それどころか正体はそこらへんでのたれ死んだ野良の動物、なんて可能性もあるわけで。
だから今でこそ見た目はかわいく取りつくろってるけど、実は服の下はつらい生活の痕跡が残っていて、とても肌をさらせるものではないとか……
「あーしのこの体は配信用のアバターを元にしてて、脱衣スキンは実装されてないじゃんね。
というかあーし、配信者としてはまだまだだから、このセーラー服以外のスキンは実装されてないじゃんね……」
「肌じゃなくてスキンの問題かぁ〜」
コックリさんは泣きまねをしながら、すり寄ってきた。
「ぬっくん〜貧弱よわよわ赤貧配信者のあーしに投げ銭めぐんでほしいじゃんね〜。
贅沢言わないからゼロが五つか六つくらいあれば満足じゃんね〜」
「ゼロが六つの投げ銭とか木っ端社会人の僕に払えるとでも?
あの違うんですメリーさん、別にコックリさんにくっつかれて喜んでたりなんてしてなくて」
「ぬっくんがたっぷりめぐんでくれればー、新しいスキンのリクエストだってきっとできちゃうじゃんねー。
たとえばー、それこそー、水着スキンとかぁー」
「ねえコックリさんやめて!? メリーさんが無表情のまま髪が逆立って爆発しそうなくらい怒り心頭だからやめてあげて!?
あっコックリさんメリーさんをチラチラ見てる!? にやにやしながらやってる!? これ僕じゃなくてメリーさんをあおってるやつだ!?」
「もう我慢ならないの……殺してやるの……」
「ほらほらメリーさん物騒なこと言ってる!! コックリさん殺されちゃうよ!?」
「殺してやるの……ヌクト」
「なんで僕ーーッ!?」
「コックリにすり寄られても逃げずにそのままくっつかれたままなの。内心鼻の下を伸ばしてるの。
変態なの不潔なのサルヤローなのどうせヌクトはあたしよりコックリの方がいいの」
「いや湯船せまいから逃げようにも逃げ場がないというか、殺してやるって言いながら武器はいつものシャンプーなのかわいいね目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。コックリさんも。
残るのはただ、泡まみれになった湯船だけ。
「……泡風呂って最初はテンション上がるけど、だんだん何やってるんだろって気分になるよね」
後で片づけるの面倒だなあと思いつつ、浸かり直す。
まあ、なんだかんだ楽しかったけど。
「それにしても、スキンのリクエストかあ……」
コックリさんに着てもらいたい服。
うーん、もし選ぶ権利があるとしたら、どんな服がいいかな。
なんか、つい想像しちゃうな。
「……ゼロが六つとは言わないまでも、ちょっとくらいなら、投げ銭してあげるかなあ」
「やっぱり殺してやるのヌクト」
「ごめんって下心あるわけじゃなくて替えの服がないのかわいそうだなってだけで目にシャンプーがーッ!?」
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