第13話 都市伝説のメリーさん、特別扱いされる。
「あたしメリーさん。今あなたの首筋にハサミを突きつけゴボゴボゴボ」
「ごめんて!! コックリさんの配信見ててごめんねメリーさん!?」
お風呂に入りながらスマホでコックリさんの配信を見ていたところに着信があり、出たらメリーさんが首筋にハサミを突きつけてきた。
そしてそのまま風呂に沈んだ。
『聞いてほしいじゃんねー視聴者ぁー。あーし友達に嫌われちゃってるじゃんねー悲しいじゃんねー。
いや、あーしも悪いとは思ってるじゃんね? 友達の友達のうちに一緒に遊びに行って、調子に乗って友達のギガを食いつぶしちゃったじゃんね?
けどさーそれ以来一回も遊びに連れてってくれないのはさー、あーしもさすがに悲しいしさみしいじゃんねー!』
「ほらメリーさん、コックリさんもこう言ってることだし」
「つーんなの」
メリーさんは僕の隣で湯船に浸かって、無表情のままそっぽを向いている。
「ヌクトはそうやってコックリの肩を持つの。あたしのことさんざんかわいいって言っておきながらコックリの方がかわいいって思ってるの」
「いや、そういうわけじゃなくてね」
「それにあたしのことはエッチな目で見れないのに、コックリはエッチな目で見れるの。
別にそういう目で見られたいわけじゃないしそんな目で見られたら気持ち悪いとは思うの、でも全然そんな気分にならないと言われたらそれはそれでムカつくしもやもやするの。
理想を言うなら普段はそんないやらしい目で見ずに普通に接してるんだけど、時折見せるふとした仕草に色気を感じてドキッとして、でもそれが態度に出ないように平常心でやりすごそうとして、けどあたしからはそんな態度がバレバレで、気づかないフリをしてあげつつ内心してやったりで自尊心がモリモリ上がっていくような、そんなくらいにそこはかとなくちょうどいい感じにエッチな目で見られたいの」
「めんどくさいなあー」
あ、思いっきり本心の声が出ちゃった。思いがけず風呂場に声が反響する。
メリーさんは水面に口をつけて、ぶくぶくとした。
「どうせあたしはめんどくさい人形なのゴボゴボ。めんどくさい性格だから都市伝説なんてやってるのゴボゴボ。
けどあたしにとってヌクトははじめての人間の友達だから、ちょっとくらい特別扱いされたいって思う気持ちは分かってほしいのゴボゴボ。あと通信速度制限で動画とか見れてなくてストレスたまってるのゴボゴボ」
「どっちかというとそのストレスの方が本音じゃない?」
まあ、どっちの気持ちも分かるけどね。
通信速度制限のストレスも、特別扱いされたいっていう願望も。
僕からしても、メリーさんは特別な存在だって思ってるし、特別扱いしてあげたいなって思わないこともない。
「……よし。メリーさん、スマホ貸して」
唐突な僕の要求に、メリーさんは首をかしげながら、素直に差し出してくれる。
僕はそれを受け取って、ちょっと設定をいじる。
「オッケー。どうぞ、メリーさん」
「……これって」
メリーさんはスマホを見た。
画面の一か所、マークが変わっている。Wi-Fi接続のマーク。
「うちのWi-Fiとつないだよ。これで通信速度制限なんて気にせずに、動画を見まくれるよ。
もちろんうちにいる間だけだから、その分うちにたくさん来てほしいな」
メリーさんは僕を見上げてくる。
僕はにこりと笑ってみせた。
「あとね、うちは一人暮らしだし、家族が来る機会もないから、今までここのWi-Fiは僕しかつないでなかったんだ。
メリーさんがはじめてだよ。僕の家で、僕以外にWi-Fiをつないだ、特別な相手になったんだよ」
メリーさんは僕の顔を見上げて、それからうつむいて、視線を泳がせた。
つんと顔をよそに向けて、無表情のまま、ぐちぐちと言葉をこぼした。
「たかがWi-Fiくらいで、特別扱いとか、ずいぶんと安っぽい特別なの。
それに動画見放題で釣ってあたしにたくさん来てもらおうって魂胆が見え見えで、スケコマシのあさましさがくさくてたまらないの。
こんなので喜ぶと思ってるヌクトがちゃんちゃらおかしいし、安く見られて不愉快きわまりないの。
でもまあ、あんまりけなしたらかわいそうだし、形だけでも喜んでおいてあげるの。
わーいうれしいのー。特別扱いなのー。ヌクトありがとうなのー」
棒読みで、喜んでみせる。
けれど棒読みだからこそ、にじみ出るうきうき感でうわずってしまった声色が、如実に聞き取れた。
「……ヌクト、その変なにやにや笑いはなんなの」
「いつも通りの笑い顔だよー」
メリーさんはふてくされたように、そっぽを向いた。かわいい。
そして、はたと声を上げた。
「待つの。Wi-Fiつないで通信速度制限を気にしなくてよくなったってことは、コックリも来放題になっちゃうってことなの」
「あ」
メリーさんゆっくりと顔を向けて、無表情だけど影の落ちた顔で見上げてきた。
「結局コックリなの。あたしを持ち上げながらコックリにも来てもらえるようにして両方にいい顔する最低最悪のサルヤローなの」
「待って待って誤解だよ!? 僕全然そんなこと考えてなかったから!!
確かにコックリさんも来てくれたら楽しいなって思ってたけど、一番は仲直りしてほしいなって気持ちだしメリーさんが特別なのは間違いないし目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。
うーん、よかれと思ってやったことが裏目に出ちゃったかなー。メリーさん、機嫌直してくれるといいけど。
そう思ってると、スマホがピロンと鳴ってメッセージが来た。
『せっかくWi-Fiつないだんだし』
『今度そこで一緒に映画を見たりしてやってもいいの』
「……ふふっ」
どうやら、心配はいらないみたいだ。
なんの映画を見るのかな。楽しみだな。
次にメリーさんに会う日に向けて、心がうきうきとはずむ。
体の芯がぽかぽかするのは、お風呂に浸かっているからだけでは、ないのだろう。
『今度見たい映画のタイトルは「怪奇!ようかん魔人リターンズVS人食いピーマンの踊る肝っ玉母ちゃん大爆発!」なの』
「B級映画派かぁ〜」
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