第7話 都市伝説のメリーさん、もみほぐされる。
「あたしメリーさん。今あなたのうしぉんぉんぉん」
「ごめんマッサージチェア使ってたぉんぉんぉん」
今日は外出の用事がてら、たまには広いお風呂に入ろうと思ってスーパー銭湯に来ていた。
そこでマッサージチェアを使っていて、いい感じにほぐれているところでメリーさんから電話がかかってきて、いい感じにほぐれていたので何も考えずそのまま電話に出てしまった。
結果、メリーさんは僕の背中とマッサージチェアにはさまれて、みょいんみょいんともみほぐされてしまった。
「たまにはマッサージもいいものなのぉんぉんぉん。体のコリがほぐれていくのぉんぉんぉん」
「人形の体のどこがこるんだろうぉんぉんぉん」
マッサージチェアは継続中。
メリーさんは僕の足元に来て、足をもみほぐす部分に体をもませている。
服が乾いた状態のメリーさん、初めて見た気がする。ついでに僕も、館内着を着ていて全裸じゃない。
「というかメリーさん、周りに人の目もあるのに普通に会話してていいのぉんぉんぉん」
「都市伝説なんて探せばどこかで見つかるものだし、現代人は他人に無関心だから気にする必要ないのぉんぉんぉん。
ほらあそこ、都市伝説が平然と歩いてるのぉんぉんぉん。体は人間だけど頭が割れた地球儀になってるの、名前はタレン」
「待った。それは待った。その都市伝説は別方向でヤバイ厄ネタだからぉんぉんぉん」
まあ実際、そこまで混んでないし、他の人もマッサージチェアでだらけてたりでわざわざこっちを見たりしてないね。
見たところで、たとえば道端で怪物みたいな格好をした人を見たとして、コスプレかなと思うのがたいていの人の反応なわけで。
喋る人形なんて非日常的なもの、見かけたところで首をかしげてスルーするのが関の山……
「あらかわいいお人形さんねぇ。アメちゃんあげるわぁ」
「ありがとうなのおばあちゃんぉんぉんぉん。友達と一緒にいただくのぉんぉんぉん」
「僕の中の常識が二秒で崩れ去った気がするんだけどぉんぉんぉん」
まあそれはそれとして、いただいたものはありがたく召し上がるけど。
べっこう飴だ。おいしい。
カラコロ。メリーさんと二人、飴をなめる音を響かせる。
「カラコロべっこう飴っていえばぉんぉんぉん、都市伝説の口裂け女ってカラコロ、べっこう飴がカラコロ好きだっていうよねぉんぉんぉん」
「カラコロ口裂け女も会ったことあるけどぉんぉんぉん、別にべっこう飴が好きってわけでもなかったのカラコロぉんぉんぉん。吸血鬼のニンニクとか流れる水みたいにカラコロお話が広がるにつれてどんどん弱点が増えてくみたいなカラコロものだと思うのぉんぉんぉん」
飴なめてるのとマッサージチェアにもみほぐされてるので、何言ってるか分かりにくいな。
「カラコロというかメリーさんぉんぉんぉん、僕のこと周りの人にも友達だって言ってくれてカラコロ、うれしいよぉんぉんぉん」
「…………」
メリーさん、無言。
足元にいるから、表情は見えない。
「あとメリーさんカラコロ、見ず知らずのおばあちゃんにもかわいいって言われてたねぉんぉんぉん。カラコロやっぱり客観的に見てメリーさんかわいいんだと思うし、もっとおしゃれしてもいいと思うよぉんぉんぉん」
「…………」
メリーさんは何も言わない。
けれどなんとなく、ぷるぷるふるえてるような気がするのは、マッサージチェアのせいじゃないよね。
「これ以上恥ずかしいこと言うなら、また目潰しするの。ぺっ」
「もうしてるし!! 吐き出されたべっこう飴が目に直撃ーッ!?」
目についたベトベトを拭き取っている間に、メリーさんはいなくなっていた。
残るのはただ、マッサージチェアでみょいんみょいんもみほぐされる僕一人。あと食べかけのべっこう飴。
僕の手のひらで、ベトベトのべっこう飴が残っている。人形だけど唾液が出るのかな。
「……あ、せっかくだから今日渡せばよかったなぉんぉんぉん」
今日スーパー銭湯に来たのは、もともと買い物で外に出たからそのついででもあったんだよね。
メリーさんにあげたいものがあったんだけど、まあ、またうちに来てくれたときでいいか。
「この食べかけの飴、どうしようかなぉんぉんぉん」
せっかくもらったし、捨てちゃうのはもったいない。
でも僕が食べるのは、うーん。
「……ま、気にせず食べちゃえばいいか。一緒にお風呂に入る仲だし、今さら間接キスとか気にしないよねぉんぉんぉん」
「気にするに決まってるのあなたバカなの変態なのハレンチなの」
「ごめんて!! 冗談だって!! メリーさん毎回毎回帰る詐欺するよね目がーッ!?」
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