第4話 都市伝説のメリーさん、お金の出処を語る。
「あたしメリーさん。今あなたのうし」ひゅーぽちゃん「ゴボゴボゴボ」
「立ってるだけじゃダメかー」
メリーさんからの着信があったのを見て、僕はメリーさんが沈まないよう、電話に出る前に立ち上がった。
結果メリーさんは僕の背後の空中に出現して、そのまま自由落下して湯船に沈んだ。
「今日も今日とておみやげなの。温泉まんじゅうなの。どうぞなの」
「ありがとう。今日はビニールで包装されてて、お湯でふやけたりしてないね」
「あたしのあふれんばかりの知性なら、一度起こしたミスの再発防止は完璧なの」
「逆説的に湯船に沈むのはミスじゃないんだね?」
ともあれ、二人並んでおまんじゅうを食べた。おいしい。
自宅の湯船でものを食べる日が来るなんて、思わなかった。
「ところでメリーさん、気になってたんだけど、お金って普段どうしてるの?」
「電子決済を便利に使いこなしてるの」
「支払い方じゃなくて、その元のお金をどうやって確保してるのかって。ついでにスマホの料金も。
こないだあげたおこづかいだけじゃ、全部はまかなえないでしょ」
「都市伝説仲間に、お金を用意できる子がいるの。彼女のお手伝いをして、お仕事代としてもらってるの」
「そんなのがいるんだ。人間社会にまぎれた怪異って感じかぁ」
「アナログの時代からお金と縁のある都市伝説なの。正体は化け
「んんんんんーアウトな気配がするなぁぁー? 化け狐の用意するお金とか絶対ダメなヤツじゃんんー?」
「別に葉っぱのお金とか作るタイプの怪異じゃないの。ただ悩める人に対して当人が望む答えをそれとなく示したりして、その対価としてお金をいただくだけなの」
「その説明はなんか別方向でうさんくさいなぁー? 霊感商法かなぁー?」
「都市伝説なんだから霊感というかガチの霊なの。今はスマホでも彼女の力を借りることができるの」
「ちょっと待ってメリーさんスマホを取り出してどうする気? 今呼ぶ気? 僕ちょっと勘弁してほしいなーメリーさんみたいなへちょい怪異じゃなくてガチな怪異はできれば会いたくないなー?」
あせる僕を尻目に、メリーさんはスマホの画面をつけて僕に突き出した。
『こんこんこんばんコックリさーん! みんな見にきてくれてありがとじゃんねー!
あなたの悩みにジュジュッと回答! コックリさん系配信者の
今日もみんなの悩みをジュジュッと解決しちゃうじゃんね! あーしに質問したい人はいつものように、その指先に願いを込めて、投げ銭ボタンをウィジャ・タッチ! じゃんねー!』
「ネット配信者かぁ〜」
「都市伝説『コックリさん』なの。昔は十円玉を動かすだけだったけど、今はバーチャルの肉体を手に入れてネットで質問に答えてるの」
スマホの画面では、狐耳にセーラー服のギャルっぽい女性がきゃいきゃい配信していた。
「ネット接続とかのデジタル関連は、あたしがちょっとお手伝いしたの。昔から電話を使うあたしは、都市伝説の中でも機械に強いエリートなの。都市伝説界の知性担当なの」
「メリーさんはスゴイデスネー」
「えっへんなの」
無表情のまま胸を張るメリーさんの頭を、僕はなでてあげた。
「……ところであなたさっき、あたしのこと『へちょい怪異』って言った気がするの」
「…………」
「言った気がするの」
「気のせいだとオモウヨ?」
僕は視線を横に逃がした。
「あたしメリーさん。今あなたの目の前にいるの」
「まわりこまれてしまった」
「そしてこれはシャンプー。今からあなたの目の中に入るの」
「シャンプーがッ!? 目にシャンプーがーッ!?」
目の泡を洗い流している間に、メリーさんはいなくなっていた。
浴室はウソのように静か。スマホも持って帰ってるから、ネット配信の声ももうしない。
「……気になるし、続き見てみるかぁ〜」
自分のスマホをつけて、コックリさんの配信を見てみた。
『次の質問来てるじゃんねー! 『明日の天気はなんですか? 狐の嫁入りですか?』ふむふむじゃんね!
狐の嫁入りってゆーのはお日様が照ってるのに雨が降ってくることなんだけど、それは当分ないじゃんね! だってあーしは嫁のもらい手がいないからー、って何言わせんじゃんね!
おいこら視聴者誰だ今『そんなことないよって言ってもらいたいの見え見え』とか言ったヤツー! しまいにゃ怒って自宅に
はぁー? 『コックリさんがおいでくださるのはご褒美です』ぅー? 愛されてんなあーし!』
こういうの、あんまり見たことなかったけど、ちゃんと見たらおもしろいもんだな。
トークは軽妙だし視聴者とのかけ合いも小気味いいし、あとはまあ。
「ずっと見てると、かわいく思えてくるよね」
「ぷくーなの」
「いるし!! 目にシャンプーがーッ!?」
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