眠れ眠れ—— Lay your sleeping head my love2

 ふと気配を感じて、アンジュはその蔓草に目を遣った。

 プシュケの残骸が絡まっている。

 彼の指が触れると、微かに動いた。全てが朽ち果て消え去るまでに、わずかながらもこの蝶には魂の時間が残っている。

 けれど、運命の糸の気配がこの世界のどこにも見当たらない。

 運命の糸がなければ、いくら魂の時間が残っていても機械時計は動かない。プシュケは安息の地には行けず、ここで朽ち果て儚く消えるだけだ。


 蔓草はどこでこのプシュケを捕らえたのか。地中深くからか。あるいは雷雨が運んで来たのをつかまえたのか。



 彼はまた問いかける。永遠に瞼を閉じた追憶に。

 ミカエラなら、どこかに残る運命の糸を見付けることができるかもしれない。あの子なら。気配さえ残っていない運命の糸を。

 その糸が見付かりさえすれば、ミシェルは機械時計を作ることができるだろう。 


 なら、このプシュケを救うことができる。

 そうだろう? 愛しいひとよ。

 


 もう夜が明ける。

 眠れ。眠れ。愛しいひとよ。わたしの胸の奥深くで。



 暁の天使がその翼を広げ天穹の大河を隠すころ、死神タナトスのアンジュはジョシュアとふたりの魂の導者ヘルメスたちの待つ作業場に向かった。



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