星に願いを

 ミックの短冊には何が書いてあったのか。



 「水火ミカエラの一番になれますように」



 曲がりなりにもヘルメスとあろうものが書いたとは思えない。あまりにも幼稚で叡智のかけらもないじゃないか。

 兄のジョシュアはもちろん水火みかにも読まれないように、ミックが細かく破ったのも無理はない。

 

 そもそも七夕をやろうと言い出したのは水火みかなんだが、人間だったときから彼女は季節の行事が好きだった。

 しかし、今は水火みかだってれっきとした魂の導者ヘルメスだ。願いごとを叶えてもらうのではなく、立場だ。

 ミックだって、それはわかっている。紆余曲折はあるにせよ、彼は水火と違って魂の導者ヘルメスとして純粋培養されたのだ。なのに彼女をいさめるどころか同調している。


 なぜに?


 理由は単純。水火のすることだからだ。兄のジョシュアだって弟のすることには批判的だが、新しくできた妹には甘々でイチコロだ。

 かと言って、男神たちが七夕の短冊に願いごとをそれもマジに書くなんてありえない。

 ミックが破いた短冊を笹飾りのかごの中に入れたのも、何がなんでも笹に吊るして願いが叶ってほしいからだ。呆れたことに。


 こんなヘルメスたちの元に連れてこられた小さな蝶プシュケたちこそいい迷惑だ。さぞかし不安に思っているだろう。かわいそうに。


 ミックと兄のジョシュアが水火を可愛いと思っているのは確かだが、水火がどう思っているかは定かでない。「ちょっとめんどくさい。なんでそれが二人に増えたんだ?」と思っているのだけは確実なんだが。


 水火に関しては兄と弟はライバルというわけじゃない。ジョシュアもミックも安心していい。どちらも一番にはなれない。猫の天使長の位置は不動だ。


 水火はまだ知らないが、ヘルメス二柱ふたりに、この後死神タナトスアンジュが加わって彼女の目の前に三柱さんにん揃うと、めんどくさいがちょっとどころではなくなる。いろいろややこしくなるんだ。彼女の苦難はこれからが本番だ。


 七夕飾りの短冊で、ヘルメスたちが小さな蝶プシュケの不安を煽っているころ、彼等にプシュケを託した死神タナトスアンジュは——



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