03話
冬休みでテンションが上がることはもうない。
それなりの連休がくる度にわかる、あたしは学校が好きなのだと。
友達だってろくにいないのに、勉強が好きというわけでもないのにそうなのだ。
「友達に誘われたから勉強をしてくるね」
「ああ、あんまり気にしなくていいけどクリスマスのときみたいな時間になったら駄目だぞ」
「ならないよ、それじゃあいってきます」
わからないところがあるなら姉に聞けばいいのに、やはり友達の方がいいのか。
まあ、問題はわかっても教え方が上手いだなどと自信を持てているわけではないからこれでいいのかもしれない。
ただ、これでもっとテンションが下がってしまったから微妙だった。
一人で外に出たところでいいことなんかなにもない、買い物にだっていまはいく必要がない。
莉生でも誘うか? と一瞬傾きかけたがすぐにやめて寝ることにした、誰にも迷惑をかけない一番いい方法がこれだ。
それで夕方頃まで寝て、少し早めの夜ご飯作りに励んでいるとインターホンが鳴って離れることになった。
「莉生か、急襲するよりも連絡をすればいいだろ?」
「連絡をすると『家で休んでおけ』とか『気にしなくていい』とか言われそうだったから来たんだ」
「ということはあたし、なんか心配をされていたということか?」
「うん、史くんから元気がないってメッセージが送られてきたんだ」
彼女は頬を掻いてから「それでもこんな時間になっちゃったのはお母さんから課題をやりなさいってしつこく言われて出られなかったからなんだよね……」と。
あたしは彼女の母が言うように課題ややらなければならないことをしていた方がいいだろうと思っているからそちら側だった。
でも、こうしてここまで来られてしまえば無視をするということはできない、つまり彼女のやり方は対あたしなら正解なのだ。
「まあいい、どうせ来たなら莉生もご飯を食べてくれ」
「べ、別にそれを狙っていたわけじゃないからね? でも、食べさせてくれるということならいただきますっ」
連絡もなければ帰ってくる気配も微塵もない史のことからは意識を逸らして食べていく。
何回か話しているとはいえ、彼女はあたしの両親と遭遇したくないみたいだからそのためでもあった。
あたしが移動しなければ莉生だって移動はできない、そこも何回も上がっていたとしても変わらないことだ。
「ごちそうさまでした、美味しかったっ」
「ああ」
「でも、十九時までには帰るって言っちゃってあるからもう帰らないといけないんだよね……」
「泊まるのは駄目なのか? 流石にこれだけで解散は寂しいぞ」
馬鹿、どうしてすぐに余計なことを言ってしまうのか。
その気があるなら本人の方から言ってくる、そしてそうなっていないということは帰りたいということなのにアホでもある。
「うーん……どうだろう」
「わかった、それなら家まで送る」
「ま、待った、せっかく麻世ちゃんがこう言ってくれているのに帰るのももったいないかもしれないから!」
「無理をしなくていい、いこう」
「あい……」
彼女を家まで送って中途半端なところで休んでいた。
やらなければいけないことはもう全部やり終えているからこのまま何時間でもここにいられる、午前中なんかと同じで一人なのに全く違うところが面白い。
「こんなところでなにをしてんの?」
「誰かはわからないけど時間つぶしだ」
「へえ、それならもっと楽しい場所でしなよ、この時間ならまだゲームセンターとかやっているでしょ?」
それはそうだが全員が全員、あの場所を好むわけではないことをわかった方がいい。
だがそうか、今度どうしようもなくなったらそういうパワーに頼るのもありかもしれない。
莉生といるとすぐに余計なことを言いたくなるから今日みたいなことはない方がよかった。
いやだってよ、この前みたいなことを聞いてしまったら普通はこうなるだろ。
誘おうとしたあたしが言うのもあれだがどこか冷めた状態で一緒にいることになるし、そんな状態で一緒にいればいい雰囲気を壊してしまうだけだ。
「お金を無駄に使いたくない」
「ふーん、そんなの気にしないで遊んでばかりいそうなのに意外ね」
自由に言われてもむかつくとかそういうのはなかった。
いつも気を使われてはっきりと言われないから逆に気持ちがいい、莉生も史に言うのではなくてあたしに言えばよかったのだ。
あたしは嫌がっているのに嬉々として近づいたりはしないよ。
「そっちは? 家が嫌だとか?」
「そういうのじゃないわ、ただ、本当はあんたと変わらないかもしれない」
「はは、それなら一緒に過ごすか?」
名字すら知らない彼女が相手ならこういうことも全く気にならなかった。
仮にこれで迷惑をかけることになったとしても向こうがもう会おうとしなければいいと片付けられるのだ。
「ならここじゃなくて私の家にいくわよ」
「家が嫌なわけじゃないんだな」
「そうね、ただあの狭い部屋にいても退屈なだけよ」
「わかった……って、いいのか? あたしのこと信じられるのか?」
「同じ学校の生徒なんだから余裕よ、早くいくわよ」
同じ学校の生徒らしい、意外と年上だった、などということになりそうだ。
あの場所からも学校からも近い場所だ、登校するにはいい場所かもしれなかった。
段差に彼女が座ったから横に座らせてもらうと「今日は前立といないの?」と聞かれたからさっきまで一緒にいたことを教えたら笑われてしまった。
「あんた達って仲がいいわよね、それが少し羨ましくもあるし、面倒くさそうでもあるわ」
「いいことばかりというわけではないからな」
「でも、一緒にいるのよね」
「まあ、友達ならそんなものだろ」
向こうに他の友達がいても変わらない、なんだかんだでいられるようになっている。
だがもしそれもこっちのことを考えてのことであったのなら、喜んでいたことが馬鹿だったとしか言いようがない。
「なのにあんたはなんでそんな感じ?」
「一緒にいたくなかったみたいなんだ」
隠すことは得意ではないから初対面の彼女にバレているとしても違和感はなかった。
そうか、ということは莉生がいるときにも出ていたかもしれないな。
「ん? それを誰から聞いたの?」
「弟に話しているところを聞いた」
「うわ最低ね、盗み聞きとか一番駄目よ」
んなこと言われても起きてしまったのだから仕方がない、飲み物を飲もうとしていたときにそれだったのだから仕方がない。
あたしだってできれば聞かないままでいるのが一番だった、それなら言われるまではなんとかなる。
どんな形からであれ、耳に入ってしまったのなら知らなかったこれまでとは同じではいられないのだ。
「なるほどね、ということはあんたのせいで仲のいい二人は見られなくなるのね」
「そうかもな」
これまでも見られていたことを考えると恥ずかしくなってくる。
莉生といたときのあたしは間違いなく浮かれていて、調子に乗っていた。
なんらかのことで泣きついてきたときにあたしがいなければならないなどと考えてしまったこともあった。
「そうかもじゃないわよ、あんたのせいでそうなるの」
「莉生に興味はないか? あたしの代わりに莉生を支えてやってほしい」
「別にいいけど、前立はそれを受け入れるの?」
「あたしのことが関係ないならそうだ」
「そ」
立ち上がって家の中に入ってしまったから帰ることにした。
頼めたことでスッキリした、これで明日から気持ちよく過ごせる。
もう今年も終わるというところまできているから暇な時間は掃除をしてつぶせばいいのだ。
「ただいま」
「おかえり」
「あたしはもう寝る」
「え、うん」
帰ってきたのであればそれでいい。
歯を磨いて部屋に戻って、なにも考えずにベッドに寝転んでからはすぐだった。
「お、これはまた変なことになったな」
何故かここで座って寝ている史がいたのだ。
軽く揺らして起こすと「おはよう」と挨拶をしてくれたがよくわからない。
布団を持ってきてそれを掛けていたものの、冬ならそれだけでは足りないだろう。
「姉さんがいきなり出ていったりしないように見張っていたんだ、余裕がなくなって気が付けば朝だったけどよかったよ」
「はは、あたしは問題児か?」
「そうじゃないけど心配になるから」
「そんなことを言ったら史だって帰宅時間が遅いだろ?」
「僕は夜から家を出たりはしないよ」
言い訳だな、いつ出ようと帰る時間が遅かったら説得力というのはなくなってしまう。
でも、このことで盛り上がることなんかできないし、仮にできたとしてもいい結果にはならないからやめて一階に移動した。
「今日も寒いね」
「冬だからな、コーヒーでも飲むか?」
「ううん、それはいいけど姉さんには家にいてほしい」
「いるよ、予定なんかないからな」
あの知らない同性に莉生のことは頼んだから昨日とは違う。
今日は決めていた通り、掃除でもして過ごすつもりでいる。
それで普段はあまりしないから二階の廊下からまず雑巾がけをしていたときのこと、階段を上がってくる音が聞こえてきて意識を向けたら莉生だった。
「今年の冬休みはよく来るな」
「一人で寂しかったんだ」
「友達は? それこそクリスマスの件で仲を深められたんだからそっちにいけばいいだろ」
「そ、そう言わないで受け入れてよ」
「はは、家に入られたらどうしたってそうするしかないだろ」
とはいえ、掃除を中途半端なところでやめたくないから史のところにいかせておいた。
なんだろうな、本当に上手くいかないようになっていることに呆れつつもある程度の時間までは掃除をやって一階に戻る。
二階だけをやればいいというわけではないため、一階の廊下も掃いてから拭き掃除を始めた。
「姉さん、莉生さんとちょっとスーパーにいってくるね、なんかご飯を作りたいらしいから」
「わかった」
「それとも姉さんもいく?」
「まだ少しかかるからそっちは任せる、莉生のことを頼んだぞ」
「うん、じゃあいってくるね」
できればそのままこの場所から連れ出したままでいてほしい。
なんて、あたしが悪いだけだからその場合は自分が移動すればいいかと片付けて再開したのだった。
「あ、まさか学校前にまた会うとはね」
「偶然じゃない」
「なるほど、前立のことでなにか困ったことがあるのね?」
頷くと「聞いてあげるから言いなさい」と言ってくれたので吐いておいた。
最近は本当に酷い、暇なのはいいがそれにしたってあの家にばかり来なくてもいいだろうと言いたくなる。
よく考えてみなくても少し前まではこれが普通ではあったものの、やはり同じようにはできないのだ。
だから年内最後の日にこうして逃げてきたことになる。
「うんまあ、あんたが自分で言っているように悪いのはあんたよね」
「そうだ、だからこそ困っているんだ」
友達に対して強気に行動をする自分を見たくはないからこれでいいと考えている自分もいる。
でも、このままでは延々平行線で家にいるときでも休めないことになってしまうから駄目なのだ。
「なら冬休みの間は私の家に泊まる? 私としては相手をしてもらえてありがたいから損というわけじゃないわよ」
「家事をしなければならないんだ」
「ならそのときだけ帰ればいいじゃない」
「だが……」
彼女はよくてもご家族が気にするかもしれないし、なによりあたしが慣れない場所ということで駄目になりそうだ。
甘えて結局すぐに帰りました~ではなんにもしなかったときよりもダメージが大きくなる、だからやはりこの方法は選べない。
ちなみにそのことで彼女が怒ってくるようなことはなかった、そんなに短気な人間ではないと怒られてしまうかもしれないから口にはしないが。
「あんたって想像以上に面倒くさいね、前立の方がそういうキャラかと思っていたのに違ったわ」
「そうだよ、あたしはいつもこうだ」
「あーはいはい、ここで終わりね、せっかくの冬休みなのに近くで暗い状態でいられたら困るわ」
はぁ、帰るか。
来ておいてあれだがこうなることはわかっていたはずだ。
だというのに彼女は優しかった、あたしが同じ立場だったら泊まるかなどと言えていなかったかもしれない。
だからそのことがありがたかったということをちゃんと伝えて、家とは反対方向に向かって歩き始める。
休日の昼はわざわざご飯を作ったりはしないからこれでいい、夕方までに帰れば史だって気にしない。
「待ちなさいよ」
「本当に優しいな、こんなに面倒くさい人間にまだ付き合ってくれるのか」
「あんた達に必要なことは話し合うことよ、だからいまから前立を呼び出して」
「はは、わかったよ」
面倒くさいから電話をかけるとすぐに来てくれるということだったので流石にこちらから向かうことにした。
「あ、麻世ちゃんっ」
「悪いな、ちょっと話があるんだ」
横にいる彼女に言わせるのは違うから最近引っかかっているということを全て吐いておいた。
言い終えてからは少し黙る、なにかを口にして焦らせたくなかった。
「あはは……まさかそういう風に誤解されるとは思っていなかったけど」
「でも、過ごしたくなかったんだろ? 我慢をする必要はない、莉生が嫌ならやめるぞあたしは」
「そういうのじゃないんだよね、ちょっとそっちの子、いいかな?」
「いいわよ」
彼女は本当にすごいな、全く関係のない立場なのによく受け入れられるな。
待っている間にすぐに戻ってきてくれたが、何故かにやにやと笑みを浮かべていてよくわからなかった。
「はは、あんた達に必要なのは本当に話し合いだったわね」
「ま、待て、一人でスッキリしていないで教えてくれ」
「それは駄目よ、それでは意味がないもの」
って、結局帰るのかい。
だがそうだよな、それでも彼女が悪いわけではないから勘違いをしてはいけない。
「私も悪いけど……麻世ちゃんも酷いんだよ?」
「一緒に過ごしたくなかったとか言われたら普通は気になるだろ……」
「言っていないもん、史くんに聞いてもらっただけだもん」
「言っているじゃねえか、どうしてくれるんだ」
「どうもしないよ、でも、誤解をされたくないからもっと一緒にいようとするだろうね、私は」
少しだけでもわかっていたからこそ回数を増やしていたのかと聞いてみると「ただ麻世ちゃんといたかっただけだよ」と答えられてしまってなんだそれとなった。
だったら他の存在など誘わずにクリスマスも一緒に過ごしてくれればよかったのにと結局は矛盾した自分が出てきてしまう。
「このやろうっ」
「わっ、な、なんでっ!?」
「なんでじゃねえっ、莉生のせいで最近は楽しくなかったんだぞっ」
「そ、それは麻世ちゃんのせいでもあるんじゃないかなぁ……?」
「はぁ、わかったよ」
あたしが馬鹿だった、それだけの話だ。
こうなってくると家から逃げているのも馬鹿らしいから連れていく、すると何故か消えたはずの女子も付いてきた。
「ふーん、ここがあんたの家なのね」
「なにもない場所だぞ」
「それでも一人でいるよりはマシよ」
「そうか、だけどあんたは恩人だから自由にしてくれ」
飲み物と軽い菓子ぐらいなら出そう。
あたしにとってはそれぐらいのことをしてくれた、それなのにその程度かよと言われてしまうかもしれないがそれは時間が経過してからにしてほしい。
いますぐに返せる能力があるならそもそもこんなことにはなっていないのだ。
「なにもしていないけど恩人扱いしてくれるならなにかしてちょうだい」
「んー……莉生、あたしにできることってなんだ?」
「忙しいときでも余裕があるところ、誰かのために動けるところかな」
「それできることじゃなくね? それに嫌味だな、なあ?」
こ、こいつは言葉で苛めるために一緒にいたいようにしか思えなかった。
そうだ、こちらが嫌がってから来る回数が増えていたのだからSなのだ。
このまま一緒にいるとザコメンタルが持たないかもしれない、また彼女に頼んでなんとかしてもらうべきだろうか……?
「ま、余裕がないところを見せたばかりだからね、嫌味ね」
「ち、違うよー」
うんまあ、いまはマシな状態になっているからまた悪い状態になったときに頼ろうと決めた。
莉生の他に誰かがいてくれるということが大きかった。
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