02話
「よくわからないな」
うんまあ、急にやって来て側でそんなことを言われた側の方がそうだという話だ。
「ああ、いきなりすまない」
「は、はあ」
「ただ、呼ばれたからここに来たのに呼んだ本人がいないのはどうなのかと考えただけなんだ」
「あ、そういうのって困るよな、あたしも残っているように言われたから残っているのに一向に来ないんだよ」
「俺だけじゃなかったのか、それならよかった」
ま、まあ、仲間がいればこのような反応になってもおかしくはない……か?
とにかく、このまま会話をしておくというのも現実的ではないから莉生のやつには早く来てもらいたかった。
ただ、時間が経過すればするほど不安になるもので、既にあたしに言ったことなど忘れて家に帰ってしまったのではないかと不安になり始める。
「ごめんっ」
「気にしなくていい。それじゃあこれで」
「あ、おう」
律儀な奴……。
それから約一分後ぐらいに「ごめん!」ともっと大声で莉生が謝ってきた。
勝ち負けではないし、なんなら忘れられていたぐらいなのに勝った気分で悪い気分ではなかった。
「図書室でゆっくりしちゃった私が言うのは本当におかしいんだけどさ、さっきの子と約束でもしていたの?」
「さっきのってどっちだ? 男子? 女子?」
「え、男の子ともいたの……?」
「その言い方的に女子のことか。違うよ、ここにさっきまでいた男子に会いに来たんだ」
同性の友達だって莉生しかいないのに約束なんかしているわけがない。
それと同じように呼び出されることは絶対にない。
「さて、帰るか」
「そ、それより男の子って?」
「知らない男子だ、帰ろう」
「か、帰るけど……」
編み物はいいのか? あと、残るように言っておきながらゆっくり本を読んでいたってどうなのか。
「あ、まだ時間があるなら史くんを待ちたいんだけど、いい?」
「いいぞ、ただ、時間が経過したからまだいるのかどうかはわからないけど」
「そうだね、ちょっと連絡をしてみるね」
なんだなんだ、呼んでやろうかと言っても「迷惑にしかならないからいいよ」と返してくる存在なのにどうした。
いや別になにか不都合なことがあるというわけではないものの、急に普段とは違うことをされても調子が狂ってしまうというやつだ。
「あ、史くーん!」
やたらと嬉しそうなこの感じ、ついにきたか。
なら空気を読んで離れてや――ることはしなかった、それこそ露骨にやれば邪魔になってしまう。
最近出会ったばかりというわけではないから二人きりになった途端に上手くいかなくて解散に~などということもないだろうが上手くやらないとな。
「大人しく家に帰っておいてよかったです、そうでもなければメッセージを見ることができませんでしたからね」
「いきなりごめんね? だけど史くんにお願いしたいことがあったんだ」
「僕にお願いしたいこと? できることならしますよ」
「あ、お姉ちゃんがいるところでは言いたくないからちょっとあっちに……」
「わかりました」
ふぉお! と一人内側で盛り上がっていた。
ただ、弟が親友と付き合った場合はなにをしてやるのが正解なのだろうか? というか、史は莉生のことをどう思っているのか、一方通行ではどうしようもないぞ。
「お待たせ……? 姉さーん?」
「史、帰ったら歩こう、散歩に付き合ってくれ」
「いいよ?」
「なんてな、寒いから出たくないよ」
「はは、自分から言っておいてそれ?」
うん、姉にも依然として優しいままの弟だ。
んーいいことではあるがやはり寂しくはあるな、二人がいなくなったらあたしはどうすればいいのかね。
登校して授業を受けて帰るという繰り返しも悪くはないがやはりいまだからこそできることをしたいという考えがずっとある。
まあ、これは小中学生時代も同じであまり上手くいっていないのが現状ではあるものの、やっぱり……なあ?
「あ、麻世ちゃんの悪口を言ったりはしていないからね?」
「怪しいぞ莉生、こしょこしょして吐かせてやる!」
「や、やめてよっ、あ、あははっ、くすぐったいよ!」
「仲がいいね」
「そりゃまあな、これだけ一緒にいてなにも仲良くなかったら嫌だよ」
ま、直接言ってくれなければ――あ、いや、なにか不満があるなら直接言ってくれた方がいいがコントロールなんかできるわけがないからな。
究極的に無理だということならあたしに変わることを望むよりも離れた方がいい、その方が精神的にもいいだろう。
「やっぱり二人が羨ましいよ、いまから作った友達じゃ二人のようにはなれないんだからね」
「別にそんなことはないだろ」
「いやそうだよ、そもそもそこまで長続きしたことがないから……」
「なんだよ、今日の史は駄目だな」
「そう、駄目なんだよ……」
あら、史らしくない。
ただ、直掩にマイナス思考をしたのもあってあまり偉そうに言えない立場なのでこれ以上、重ねることはできなかった。
「メリークリスマース!」
「莉生、これから終業式だぞ、まだちょっと早いな」
「うわーん! なんでこんなギリギリまであるの!?」
「毎年のことだろ、二十日とかに終わるところもあるみたいだけどな」
ああ、去年はこのような反応をしていなかったから編み物が間に合わなかったというところだろう。
でも、クリスマスに渡せなければ死ぬというわけではない、大切なのは気持ちだ。
親しい相手が自分のために時間を使って〇〇を作ってくれたというだけで喜べる、少なくともあたしならそうだ。
「ほら、いくぞ」
「あーい……」
終業式なんてじっとしていればすぐに終わる、そして終業式が終われば放課後なんてすぐにやってくる。
とはいえ、解散になってからもすぐに帰ったりはしなかった。
「ごめん麻世ちゃん、他の子に誘われているからもういくね」
「ああ、楽しんでこい」
「で、でも、やっぱり麻世ちゃんとも過ごしたいな」
「約束をしたんだろ、それなら守らないと駄目だ」
「そ、そっか、じゃあいってくるね」
やれやれ、急に変なことを言い始めるから困ってしまう。
あ、言い訳をさせてもらうと莉生と過ごせないから残ろうとしているわけではないのだ。
のんびりしている間に二年生の冬休みというところまできてしまったからなんかしんみりとした気持ちになっているというだけだ。
でも、やっぱり大人しく帰ることにした。
「まだいてくれてよかった」
家でゆっくりしているときに変なことを言ってきた。
そりゃ約束なんかもないのだから家にいるだろう、寄り道をしていてもここにすぐに帰ってくるぞ。
「史か、史も約束があるんだろ?」
「うん、だからこそいまぐらいは一緒にいたかったんだ」
「はは、本当に優しい奴だ」
だからこういうのに弱い、やたらと効いてしまう。
顔を見られたくなかったから少し無理な体勢で頬杖をついて隠していると「頬が赤くなっちゃうよ」と言いながらやめさせてきた。
な、なんだこいつ、さらっとやってきやがったぞ……。
クラスメイトの女子が相手のときでも距離感を間違えてしまっていそうだった。
「莉生さんと過ごせなくて残念だったね」
「あ、まあ、そういうのも少しはある、やっぱりあのオーバーリアクションを見られないとなると寂しい」
「だけどごめん、僕も僕で約束をしているから付き合ってあげられないんだ」
「気にしなくていい、寧ろなにも作らなくて済んで楽でいいよ」
今日ぐらいは両親も早く帰宅して食べにいくことだろう、となれば、家事をしなくていいわけだから楽でいい。
「僕の友達を呼んでも気まずいだけだしね……」
「いいんだよ、あ、ほら、あ、友達だろ?」
「あ、そうだ、ごめん、いってくるね」
もう誰もいないからなにかを言われることはないが部屋に移動することにした。
さっさと切り替えてのんびりとすればいい、自分用のご飯は後でいい。
もう一度言っておくが別に拗ねているわけではない、が、やることがないから寝て多分数時間が経過したときのこと、インターホンが連続で鳴って起きた。
まあ、二階にいるあたしが気づくためには必要ではあるものの、正直に言ってあたしでも怖いから逆効果だと思う。
無警戒で開けるのもあれだからとチェーンをしてから開けると「麻世ちゃんっ」と莉生の声が聞こえてきて驚いた。
「約束はどうしたんだよ?」
「もう一緒に過ごしてきたよ、でも、私だけちょっと早めに解散にさせてもらった」
「そうか」
「うん」
ちゃんと開けて上がれよと言ったら何故かがばっと抱きしめられてしまった。
いやマジで本当に意地を張って一人でいたわけではないため、なんでこうなっているのかがわからなかった。
そもそも彼女が他の友達と過ごすことにしたのだって数日前にはわかっていたぐらいだし……。
「あ、一つ聞きたいことがあるんだ、あの編み物が完成したのかは知らないけど誰にあげるつもりだったんだ?」
「あー……上手くいかなくて掃除道具になったよ」
「掃除……たわしか? それなら授業でやったな」
答えにはなっていないがどうなったのかを知ることができただけでもいいか。
「そうそう! あれ、結構汚れが落ちるんだよ?」
「でも、貰えなかった人が可哀想だな」
「うーん……どうだろうね」
「まあいい、もう遅いから今日は泊まっていけよ」
「うん」
少し時間をつぶしたとはいえ、昼に解散をしたこともあって時間に余裕があるのかと思ったがそうでもなかった、寝すぎた。
それでもまだ二十時半だから大袈裟かもしれないが送るために出ると冷えるから泊まってもらうことにしたのだ。
こういうところが誘われない理由なのかもしれない。
「とにかく、今日また麻世ちゃんと会えてよかった」
「莉生が来るとわかっていたなら飲み物なんかを買っておいたんだけどな」
「そんなのいいよ、部屋にいこう?」
「はは、あたしの家だけどな」
だがあれだ、来てくれて嬉しいというそれからは目を逸らせない。
そのため、今回も顔を見られたくなくてベッドにうつ伏せで寝転んだら「苦しいでしょ?」と効かれてやめることになった。
無駄な抵抗をやめて莉生の方に意識を向けてみるとよくわからない顔になっていて細かいことはどこかにいった。
ただ、こっちが片付いてもこっちの問題が出てきたわけだから人生ってやっぱり難しいとよくわかる一時間となった。
「あれっ、どうして莉生さんがいるんですか?」
「あー……ちょっとね」
いま点いているのは階段のところにある電気だけ、ということはこれまで真っ暗な状態でここにいたことになる。
「それより中学生がこんな時間まで外にいたら駄目だよ?」
「はは、それを言われると痛いです」
「でも、ちょっと付き合ってほしいんだ、寝られなくてここで待っていたの」
「わかりました、それならリビングにいきましょう」
部屋に誘うわけにもいかないし、なにより姉が起きていたならこんなことにはなっていないということで移動するしかなかった。
ここで離すことも可能だけど両親に迷惑がかかってしまうから駄目だ。
「お、お父さんやお母さんはいない?」
「はい、仕事がなくてもリビングに長くいる人達ではないですからね」
すぐそこが両親の部屋なのに面白いことを言う、ここで待っていることの方が遭遇する可能性が高かったというのにね。
「いやー助かったよ、ここではもう史くんにしか頼れないからさ」
「姉さんを起こして相手をしてもらえばよかったんですよ」
「もう既にわがままを言ってここにいられている状態だからね、流石にそこまではできなかったよ」
「でも、僕と話すことでなにかが解決するんですか?」
「わからない」
それはそうだ、これは聞いた僕がバカだった、どうなるのかはわからないけど僕に頼んできたのだ。
「あのさ、今日集まったメンバーの中に女の子っていたの?」
「いましたよ? 話せる程度の仲ですけどね」
言ってしまえば友達の友達レベルだから少し気になった。
というか、連れてくるなら連れてくるでちゃんと言ってほしいところだ。
今日参加したメンバーの中には女の子がいるところでだけ変わってしまう子がいるからだ、そして悪い方に傾いて止めるのに苦労した。
ただ、女の子が悪いわけではないから気にしないでほしい、あと、その子も普段はいい子だから問題にならなくてよかったと片付けておくべき件なのかもしれない。
「そうなんだ、ふふ、誰かの彼女だったりしてね」
「どうでしょうね、特に話は聞いたことがないですけど」
自分だけが知らないだけだったとしてもそれは仕方がないことだ。
「気が付けば周りはくっついているものなんだよ」
「莉生さんはどうでした?」
「私は女の子だけの集まりだったから最後までほのぼのしていたよ、マイペースな子が多いからね」
莉生さんが他の女の人といるところはあまり見たことがないから友達がどういう人なのかわからない、でも、姉さんと歯違うことはわかる。
「それにしてもよく受け入れましたね?」
「ああ……」
「あ、本当にただそう思っているだけですから、僕だって同じ立場なので言えることではありませんしね」
本当にただただ姉さんのところにすぐやって来る莉生さんが他の誘いを受け入れたのが珍しいと思っただけだ。
なにかがあったのだとしてもどちらを選ぶのかは自由だし、姉さんだって拘っていないのだからなにもできることではなかった。
「一人でいたときに考え事をしていたら駄目になっちゃってね、誘われたんじゃなくて本当は私の方から誘ったんだよね」
「そうなんですか」
「うん、ちょっと麻世ちゃんとは――きゃあ!?」
正直、驚きたいのはこちらだった。
女の子の高い声はよく響いて強く影響を受けてしまう。
「寄りかからない方がいいですよ」
「う、うん」
「さ、ここに座って――あ、姉さん」
「莉生の悲鳴が聞こえてきたから下りてきたんだ」
屋内であれだけの声ならこうなってもなにもおかしくはない。
ただ、時間と二人きりだったということが不味い。
「僕はなにもしていないからね?」
「別に史が原因なんて言っていないだろ」
確かに、逆にこれではなにかをしましたよと言ってしまっているようなものだ。
誤解されたくないから少し黙っていると二人は仲良さそうに会話を始めた。
見ているだけならどちらにもなにか気になることはないように見える。
「そういえば史、楽しんでくるのはいいけど流石に帰ってくるのが遅くないか?」
「ははは、姉さんなら言うと思ったよ」
変なことがあったわけではなくて男友達と盛り上がっていたというだけだ。
「いや、笑っている場合じゃないぞ。嫌かもしれないけどあたしも姉兼親みたいなものなんだ、弟が帰ってこなかったら心配になるだろ」
「ごめん、次はないようにするよ」
「まあ、どうしても解散にしないで話したいことがあるということなら仕方がないけどな」
姉さんは少し間を作ってから「あたしだって莉生と遅くまで話してくることが多いからな」と重ねてきた。
それでも両親に任されている家事をしなければならないからということで大体は早い時間に家にいる、だからたまにそういうことがあっても僕の場合とは違うのだ。
ここで気になるのは家事を手伝わせてくれないことだった。
「史くん史くん、見てよあれ」
「姉さんの寝癖のことならいつものことですよ」
「わー! 聞こえる声で言っちゃ駄目だよ!」
「い、いや、こうして本人が目の前にいるのに聞こえないなんてことはないですよ」
莉生さんはよくわからないところもある人だった。
もう少しぐらいはフラットな状態でいてほしかった。
「そういえばさっきは言わなかったけど悪い人間がここにもいたな」
「あー寝られなくてね……」
「遅い時間に帰宅した史に相手をしてもらいたいぐらいにはか、無理をしてここに来たからだろ」
なにもなかったことが今日一番つまらなかったことだ。
一人で過ごすことになったことなんてどうでもいい、それよりもなにかがあるならそろそろはっきりしてもらいたいところだ。
「無理をしたとかそんなことはないよ」
「本当か? 後悔したんじゃないのか? だって自分から誘ったぐらいなんだろ?」
「な、なんで知って――あ!?」
「はは、隠そうとしても無駄だぞ」
ずっといられているからこそ出てくる問題というのがあるからなぁ。
あと、いいことはほとんどできていないから不満が出てきていてもなにもおかしな話ではないからなぁと腕を組みつつ内で呟く。
このまま続けたところでそうだろそうじゃないという繰り返しになってしまうからここでやめておくものの、正直、聞こえてきたときはなんにも影響を受けないというのは無理だった。
初めてのことなのか、それとも、史には似たような相談を既にしていたのか、後者だったらマジでどういう風に存在していればいいのかを考えこむ羽目になる。
というか、それならそれではっきり言ってくれないと困るというやつだった。
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