第七幕

 一体、何が起こっているんだ? 

 ルーグスタがレミにとどめを刺そうとした時、いきなりルーグスタは剣から手を放した。

 ルーグスタはとどめを刺すことを躊躇った、ということか?つまり、まだアイツは自分自身の心を失わずにいるんだ!

 そのままルーグスタは座り込んでしまった。

 葛藤しているのか……?


 「一体…どういうことなの……散々私を痛めつけておいて…許さない!」


 レミが魔力弾をルーグスタに放とうとしている。


 「やべっ」


 レミが魔力弾を発射した瞬間、オレはレミとルーグスタの間に割り込み、『キャンセル』を使う。レミの魔力弾はオレの魔法によって消滅した。

 やっぱり『リフレクト』より『キャンセル』の方が使い勝手がいいな…って、そんなことを考えてる場合じゃない!


 「ルーグスタはオレ達が守るぞ……」

 「ああ、そうだな」


 オレ達はレミとの戦闘を開始した。




 「はあ、はあ、はあ……」


 レミ、オレ、クラムは激闘の末、疲労困憊の状態だった。

 マジか…2対1で互角か……

 しかも、レミの魔法のバリエーションがすごい。回復魔法から攻撃魔法まで全て取り揃えているなんて、どこの大特価だよ……

 レミから繰り出される攻撃をオレが『キャンセル』し、隙をついてクラムが攻撃。それでも全く勝負がつかない。このままではジリ貧だ。

 …そういえば、どうしてラストは攻撃してこないのだろう? もしラストが攻撃を仕掛けてくればオレ達はもうここで終わりだろう。

 まさか、レミだけでどうにかなるって思われてる……?

 チェッ、舐められたもんだ。

 ふと、ルーグスタが立ち上がった。


 「……ルーグスタ?」


 すると、


 「『アストラル•リリース』!」


 とルーグスタ唱える。ルーグスタの体から黒い粒子が抜けて

 いき、それは人のような形になった。


 「一体、なんなんだ……?」

 「どういう、ことなの……?」


 レミも一旦攻撃を止め、ルーグスタの方を見る。


 「ハアッ!」


 ルーグスタが黒い人影を斬る。黒い人影はそのまま消えていった。


 「今の…何だったんだ? ルーグスタ、大丈夫か?」


 思わず尋ねる。

 ルーグスタは振り返ると、オレ達に微笑んだ。


 「大丈夫だよ。さあ、レミを助けよう!」

 「ルーグスタ、戻ってきてくれたんだね!」


 よかった…あのままじゃどうなっちゃうのかと思ったよ……


 「チッ…仲間が一人増えたか……フッ、まあ、いいわ。どうせ一人増えたところで変わらないでしょう。さらに、ルーグスタ、あなたは今ラスト様の偉大な力を失った状態。あなたが私に勝てますか?」

 「ルーグスタ……」


 ルーグスタを見る。ルーグスタは余裕そうな表情で、


 「そうだね。僕は今、ラストの力を持っていない……でもね、僕には心強い仲間達がいるんだ!」

 「ルーグスタ……!」


 やっぱりいつものルーグスタだ。仲間を大切にし、守り、一緒に戦う。


 「よし、いくよ、みんな!」

 「「おお!」」

 「ふむ……これは俺様も参戦した方が良さそうだな!」


 ルーグスタの合図でオレ達はレミとラストとの戦闘を再開した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 〈お前の空いた器に入れるものがわかったぞ!〉


 え、本当?

 レミとラストとの戦闘中、ルミネオルが閃いたように言った。


 〈実は俺達はまだお前に力の全てを渡していなかったんだ〉


 え、そうなの……?


 〈うん…まだ君の魔力の器が小さかったからね。全部渡しちゃったら魔力が暴走してしまう恐れがあったの〉


 そうなんだ……


 〈でも、今のお主にはたくさん空きがある。うまく使いこなせる筈だ!〉


 うん、やってみるよ!


 〈OK! じゃあ始めるよぉ!『フリーアリグネッド』〉


 僕の周りの剣達が光り輝き、その光が僕に吸い込まれていく。僕の力が漲ってくるのを感じた。


 〈魔力の安定を確認しました……成功です〉


 よし! これで僕達はもっと繋がることができたぞ!


 〈後はレミをどうにかしなきゃだな〉


 うん…それをどうにかしなきゃいけないんだけどな……1つ不安なところがあって。


 〈……どうした?〉


 見たところ、レミは操られてなくて、心からラストに忠誠を誓っているようなんだよね。


 〈…確かに。洗脳ならともかく、そうでないなら無理にこちらに引き込むのは酷というものよ〉


 そう……だから、レミを救う、というのは、レミをラストの手から救う、というよりかはレミをウリエースの厄災に巻き込まれないようにしたいんだ。


 〈…なるほどね。だからまずはラストの方をどうにかしなきゃいけない、ってわけなのね〉


 そう。みんな、それでいいかい?


 〈当たり前さ!〉

 〈いつでも我はルーグスタと共に〉

 〈いいぜ!〉

 〈当然です〉

 〈面白くなってきたではないか!〉

 〈賛成だよぅ!〉

 〈私も賛成だよぅ!〉

 〈もちろんよ〉


 よし、作戦変更! 僕達はラストを叩く! レスニオグ、トルプ、レイデル、ユリバー達を守ってくれ!


 〈〈〈おう!〉〉〉

 〈わかった!〉

 〈〈任せてよぅ!〉〉


 「ユリバー、クラム、僕達はラストと戦うから、レミを頼む! レスニオグとトルプ、レイデルも一緒だ!」

 「オッケー!」

 「おうよ!」

 「フフフ……お前達がどう足掻こうともう手遅れだ。もうじきウリエースが解放される。その時にはお前達はおしまいだ!」

 「お前の好きにはさせないよ! 世界は僕達が守る!」


 なんとしてでもラストを止めなければ!

 ルミネオル達の力を全て手に入れた今ではみんながどこにいるのか、どういうパターンが有利なのかが手に取るようにわかる。僕は今最も有利な陣形をとっている。


 「ぬうう…どこまでも煩わしい奴らだ! くらえ! 『ダークウィンド』!」


 黒い風が僕達を吹き飛ばそうとする。


 〈させませんよ! 『ロック•ゾーン』!〉


 プリザームが上へと飛び出していき、結界のようなものを張る。プリザームの特殊魔法の1つだ。


 「何っ!? 魔法が発動しないっ!?」


 〈『ロック•ゾーン』は対象の魔法を封じる魔法! お前はもう魔法を扱えませんよ!〉


 さすがプリザーム!


 「ぐぬぅ…こいつら…」

 「もう君に勝ち目はないね。チェックメイトだ」


 すると、


 「……クックック…ハッハッハッハ!」


 と、いきなりラストが笑い出した。


 「な、なんだ?」

 「お前達は遅かった。ようやく完了したぞ! 世界は作り変えられるのだ!」


 ラストが高々と腕を上げる。

 なんか…とんでもなく嫌な予感がっ……!


 「っ、上だ! 『キャンセル』!」

 〈まずい…『アブソーブ』!〉


 ユリバーが上に手をかざし、プリザームが飛び上がったところで、僕の視界は真っ白に染められた…




 「…あれ?」


 目を開けると、1面星のよく見える空だった。空は赤いままだ。

 起き上がって周りを見渡す。

 ここは…サバンナ? さっきまで城にいたはずなのに、城の残骸すら残っていない。

 ふと、城が元々どこにあったのか思い出し、とある可能性が頭に浮かんだ。

 瞬間、僕の頭から血の気が引いたのを感じた。

 もしかして…あの一撃で城ごと吹き飛ばされた!?

 ユリバーとプリザームが受け止めてくれたのにも関わらず!?


 〈嘘だろ…どんなめちゃくちゃな威力なんだよ……〉

 〈あっ、あれを見て!〉


 ゲルタルスの剣先が指す方遙か上空あれは……星?

 いや…よく見ると違う。人影のようなものを虹色のオーラが包んでいるような感じだ。大きさは僕らと同じくらいかな?


 〈どうやら、アレの仕業みたいだね……〉


 うん。僕もそう思うよ。まだあんなに離れているのに感じる力が他とは段違いだ。


 「あれが…ウリエース……」


 いつのまに目覚めていたらしいクラムがそう呟く。


 「ククク…どうだ?美しいだろう?あれが、『超新星 ウリエース』だ!」


 眩しいほどに輝く恒星、超新星ウリエースからは破壊的な美しさが放たれている。あれを放っておけば、この世界は壊れてしまうに違いない。早くどうにかしないと!


 「さあ、ウリエースよ、俺様達の世界を作り上げるのだ!」


 と、ラストが大声で言う。すると、


 「…足りぬ」


 という声が辺りに響き渡った。


 「今の…ウリエースか?」

 「足りないって…どういうことだ?」

 「わからない……けど、あと何か欠けているピースがあるということは確かだね」


 ウリエースがよく見えるほどまで近づいてきた。僕達は自然と戦闘体勢に入る。

 ウリエースが腕を伸ばす。


 「何をするんだ……?」


 とユリバーが言ったその時、


 「な…何をする、やめろ!」


 という声が聞こえてきた。

 これは…ラストの声?

 見ると、ラストが何かに吸い込まれているのが見えた。


 「な、なんだ!?」


 もしかして…ウリエースがラストを吸収しようとしている!?

必死に抵抗するも、ラストはアッサリと吸い込まれてしまった。


 「ラスト様!」


 レミがラストの名を呼ぶ。ラストからの返事はなかった。


 「あぁ…ラスト様……」


 レミはその場に崩れ落ちてしまった。


 「これで…全て揃った……! よって俺は全ての力を解放することができる! ハーッハッハッハァァ!」


 ウリエースはそう言うと、急上昇し両腕を掲げる。すると、どこからともなく大量の『エネミー』が現れた。


 「人間たちによって汚された世界を今一度洗濯してやる! さあ行け、お前たち!」

 「仕方ない、戦うよ!」

 「「おお!」」


 レミはまだ動こうとしない。動けないんだろう。よほどラストのことを大事に思っていたんだ……そう思うと少し胸が痛む。

 みんなも行くよ! レミを守りつつ『エネミー』を倒そう!


 〈〈〈〈〈〈〈おお!!〉〉〉〉〉〉〉


 僕達は『エネミー』との戦闘を開始した。


 『エネミー』の攻撃を弾き、受け止め、避けながら『エネミー』を両断していく。


 「うわっ!?」


 いきなり横から触手が飛んでくる。トルプがそれを斬り裂き、僕は触手から距離を取る。

 なるほど…この触手、地面から伸びてる。地面にも攻撃を通すには……


 「『フェーズチェンジ•轟斬剣』!」


 ルミネオルを轟斬剣メギルネオルへと変化させ、それを地面に叩きつける。

 すると、ズンという衝撃の後、地面が円形に窪み、割れた。


 「ギャオオオオ!!!」


 地面から伸びていた触手は断末魔の声を上げた後、動かなくなった。


 「くっ!?」


 いつの間にか横に現れた『エネミー』の腕が僕を狙う。間一髪でゲルタルスがそれを弾き、僕は距離を取る。僕はクラム達と背中合わせになる。


 「こいつら…強くね?」


 確かに……他の『エネミー』とは力が段違いだ。多分ウリエースによる加護があるのだろう。ラストの補正と同じ感じかな。

 『エネミー』が一斉に僕達に迫ってくる。


 「チッ……『アルソトルカ』」


 クラムがそう唱える。すると、波が僕達を起点にして広がったと思うと、その波は『エネミー』を両断していった。


 「おお、すごい!」

 「ふっふーん、そうだろ? ……って、そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ、これ…」


 あんなに『エネミー』を一度に倒したのに、まだ向かってくる。一向に減る気配を見せない。


 〈こんなんじゃキリがないぞ……〉


 そうだね……この間もどんどん『エネミー』は増えていく。


 「レミは?」

 「何とか逃げてもらった。そっちは大丈夫だ」


 ああ、よかった……レミの心配は無くなった。

 でも、レミは良くても僕達がやられてしまっては意味がない。

 倒してはいるけど、『エネミー』はなお増えていく。本当にキリがない。このままじゃ体力に限界が来るのも時間の問題になってしまうだろう。

 やっぱり本体であるウリエースを倒すのが先決かな…

 ……でも、勝てるかな……数百年前に世界をめちゃくちゃにしたと言われているウリエースに……?


 〈はは、何言ってるんだ、俺達がいるだろ?〉


 ルミネオル……


 〈そうだよぅ!私達の力を合わせれば最強だよぅ!〉

 〈もちろん!向かう所敵なし、だねぇ!〉


 トルプ、レイデル……


 〈ふふっ、そうですね。防御面は任せてください〉

 〈あたしのパートナーは絶対に負けないんだから〉

 〈おれもついてるぜ!〉

 〈我はいつまでもルーグスタと共に〉


 みんな……!


 ……そうだ。僕には仲間たちがいる。ユリバーも、クラムもいるんだ!


 「よし! みんな、やるぞ!」


 「「おお!!」」


 〈〈〈〈〈〈〈了解!!〉〉〉〉〉〉〉


 「僕はウリエースをどうにかする! 君達は『エネミー』を頼むよ!」


 「ああ、わかったぜ」

 「気をつけろよ?」


 僕は二人に頷いた後、『フェレント』を発動し、猛スピードでウリエースに迫る。


 「ふむ…俺に挑むというのか……愚かな。……まあいいだろう。場所を変えようか」


 いきなり視界が歪んだと思うと、いつの間にか僕とウリエースは無限に広がる真っ白な空間にいた。


 「ここは……」

 「ここは重次元空間(ネクスト•ディメンションゾーン)。ここはいくらでも好きな場所を創ることができる」


 ウリエースが手を振ると、だだっ広い平原が広がった。僕とウリエースはその地面に足を下ろす。


 「レベル1だ。さあ来い」

 「ハアッ!」


 僕とウリエースは戦闘を開始した。

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