第五幕

 僕とラストは激闘を繰り広げていた。剣達が攻め、その猛攻でできた隙を突いて僕が攻撃、というのがすっかり僕達流の戦闘での決まりとなっていた

 それなのに……


 〈!? くっ、ダメだ、全く隙が作れぬ!〉

 〈そんな、全部防がれちゃうよぅ!〉

 〈一人でやっていることとは思えないっ……〉


 この通り、苦戦していた。四対一にも関わらず。


 「ほらほら、どうした? この俺様に勝てないようではこの先すぐに死んでしまうぞ!」


 僕達の攻撃を受け流し、弾き飛ばし、避けながらラストは楽しそうにそう言った。

 くっ、喋りながら戦う余裕があるってことか…悔しいけど僕達の実力不足という事実は揺るがないみたいだ。


 「ふむ、体も温まってきたことだし、準備運動もこれまでとしようか。よし、では俺様からも 攻めさせてもらうとしよう!」


 ラストが一瞬で僕達から距離をとる。


 「さあ、食らえっ! 『ダークフレイム』!」


 ラストの手のひらから真っ黒な炎が放たれた。そこをプリザームが『アブソーブ』で吸収する。


 「ふむ、やはりな。こうくると踏んでいたよ!」


 ん? どういうこと?

 と、思ったその時、プリザームがいきなり動きを止め、その場に落ちてしまった。


 〈な、う、動けない…〉


 どういうこと!? 一体何をした!?

 とりあえず、明らかに様子がおかしいプリザームを『プットイン』で安全地帯にまで避難させた。

 これはまずいね……僕の唯一の防御陣営がいなくなってしまった。こうなってみると日頃からの防御の薄さを実感される……って、今そんなことを考えてる場合じゃないな、これ。


 「フフフ……おやおや、どうした? 仲間が1人減ったようだぞ?」

 そういうことはね、わざわざ言うもんじゃないんだよ!」


 もう仕方がない。僕が攻める!

 強く踏み込み、『フェレント』で一気に距離を詰める。それに対し、ラストは黒い炎で迎え討つ。


 「『フェーズチェンジ:虚斬剣』!」


 黒い炎をひらりと避け、ルミネオルをルミホロルへと変化させる。 剣が消えたと錯覚させ、驚いている隙をついて本体ではなくその中の魂を斬る、という作戦だ。

 その作戦がうまくいくことを信じて僕はラストに斬りかかった 。 が……


 「フッフッフッ、そのような戦法はもう分析済みだよ!」


 分析? いつ……

 いつの間にラストは僕の頭上に現れ、僕は思い切り蹴飛ばされた。


 「ぐわっ!」


 僕はものすごい勢いで吹っ飛ばされ、壁に激突した 。その衝撃で壁の一部ががらがらと崩れる。ルミネオルが元の形に戻った。


 「はっ……かは」


 〈ルーグスタ、大丈夫か!?〉


 大丈夫…なわけない! 一体どんなパワーなんだ!? 蹴り飛ばしただけでこんなことに…しかも僕、こんなことになってよく無事だったなぁ……

 パニックでこれぐらいのことしか考えられない。


 「ほぅ…これで死なないとは……お前もなかなかしぶといな」


 またもや目の前にラストが現れる。 立ち上がって斬りかかろうとするも、全身が痛くて立ち上がれない。何本か骨が折れただろうか?

 偽ユリバーと偽クラムがラストの横に並んだ。

 ゲルタルスとレスニオグは!?

 なんとか立ちあがろうとする。よかった、今度は体が言うことを聞いてくれた……と、思った 瞬間、思い出したように体が言うことを聞かなくなった。全身からふっと力が抜け、その場に崩れ落ちる。


 「はっ……?」


 意味がわからず、思わず声が出てしまった。その直後、全身に焼け付くような痛みを駆け巡る。


 「ぐっ…ぐああああああ!!」


 あまりの痛みにのたうち回る僕を見て、ラストは高らかに笑う。


 「ハッーハッハッハ! 惨めな奴め! お前、そんなにここの床が好きなのか? なんならここに住ませてやってもいいぞ? ん?」


 どうして!? なんでいきなりこんなことに!?

 驚愕と痛みで朦朧とする頭を無理矢理フル回転させて考える 。

 やっぱり骨折していた? ならば動こうとした瞬間痛みが走るはず……確か黒い炎を吸収したプリザームも動けなくなっていた……それと今のと何かが関係している? でも、僕は黒い炎は食らってないし……

 ふとそこで一つの結論に辿り着く。

 もしや…さっきの黒い霧!?

 あれはありえる。それを吸ってしまったのもこの城の中。 恐らくラストのもので間違いはないと思う。

 なるほど…これは…やってくれたね……まんまと嵌められていたことに笑いしか出てこない。けど、今はそれどころじゃない。 今すぐ攻撃を仕掛けたかったけど、こうなってしまっているうちはそれは叶わないだろう。

 何もできず、ただ僕がラストを睨む。すると、とどめを刺そうとしているのか、偽クラムが僕に手のひらをかざす。その手のひらに光が収束していく…と、そこで、


 「やめろ、こいつはまだ使い道があるやもしれん」


 と、ラストが偽クラムを制する。偽クラムは大人しく手を下げた 。


 「つ、使い道って……」

 「先ほども言った通り、やはりお前はなかなか強いやつだ。その力が存分に振るえないのはとても残念なものだろう?そこでだ、俺様達の仲間にならないか? そうすればお前の力を全 て、余すことなく解放することができる…が、どうだ? 俺様の誘いに乗る気はないか?」


 僕は痛みに顔を顰めながらも、鼻で笑ってやった。


 「それは愚問だね。誰が僕の大事な人を殺したやつの仲間になるんだい?」


 そう答えると 、 ラストは一瞬考える素振りを見せ、


 「ふむ、そうか。いいだろう。ならばこれを見るが良い」


 と、僕の首根っこを掴み上げた。


 「うぐっ……」


 僕のうめき声もいざ知らず 、 ラストは僕を掴んだまま浮かび上がる。


 少し浮くと、いきなりラストは僕から手を離した。落ちるかと思ったけど、落ちなかった。 僕にも浮遊の魔法がかかっているらしい。ラストが手をかざす。すると、そこにスクリーンのようなものが現れた。スクリーンの中にはぐったりと座り込んだユリバーとクラムがいる。二人とも傷だらけだ。


 「クラム! ユリバー!」


 僕が二人に呼びかける。するとまた体に痛みが走り抜けた。思わず身を捩る。


 「静かにしていろ。ここで叫んだところで聞こえるわけがないだろう……して、これが何か、分かるよな?」


 すると、僕と同じ顔の人物がクラムとユリバーに剣を突きつけていた。


 「っ、これはっ……」


 「そうだ 。今俺様達が見ているのはこことは別の次元にある空間。お前がそこに行くのは不可能だ。俺様が合図をすればこいつらを一息に殺してやろう。と、そこでだ。お前と取引をし ようと思ってな。お前が俺様と組むのなら、こいつらを苦しませることなく一瞬で殺してやる。拒否するならば、散々苦しめてからゆっくり殺してやる。当然お前はそれに立ち会うことになるのだ。お前はそれを見て耐えられるかな? まあ、拒否した場合、それにお前が続くわけだが。さあ、どうする?」


 くっ...結局ユリバーとクラムが殺されることに変わりはないのか…? どうすればいいんだ……

 僕が答えに困っている時、頭の中に声が聞こえてきた。


 〈あたしは大丈夫だよ!〉

 〈お前はラストの気を引け!〉


 ゲルタルス…レスニオグ……無事だったんだね!

 二人の無事を確認すると、僕も元気が出てきた。よし、どうにかしてラストの気を引かないと…今僕に出来ることは……


 「ふっ、誰が君なんかと組むんだい? まったく。君と組んだその後の明るい未来は見えないね 。そんなこともわからないなんて、君、頭悪くない?」


 嘲笑してそう言ってやった。 うーん、我ながら幼稚な挑発、というかもうこれはただの悪口だな…これで反応してくれるといいんだけど……

 すると 、 ラストの眉が片方跳ね上がった…ような気がした。(眉が見えないものなので……)

 お?食いついてくれた? もしかして意外とチョロい?


 「なんだと? お前…お前の都合のいいようにわざわざ俺様が選択肢を用意してやったと言うのに、 まさかお前はそれを無下にするというのか?」


 僕はやれやれと首を振って答える。


 「気づいてないようだから仕方な〜く教えてあげるけど、僕の友達を殺すと言う時点でもう既に 僕にとって都合が悪いんだよね。もしかしてやっぱり頭悪い? やれやれ、これはまた残念さんがいるもんだね」


 敢えてラストの気に触るような口調で言う。やっぱり下手くそだ……コミュニケーション能力も鍛えておかないとね……

 そんなことを考えているうちに、ラストの体から黒い粒子がさらに溢れ出す。その様子から、ラストがさらに怒ったことがわかった。


 「ぐぬぬぬぬ! もういい、ならばお前から先に殺してやる!」


 と、僕の首根っこをもう一度掴む。ラストのもう一つの手に黒い炎が灯った 。


 「せいぜい苦しんで死ね!」


 黒い炎を僕に叩きつけようとする。その瞬間、


 「ぐっ…ぐぬぅ!?」


 いきなりラストが僕から手を離し、うずくまる。見ると、ラストの胸辺りからゲルタルスの剣先が突き出ていた。

 よし、うまくいった!


 〈……死んじゃいな〉


 勢いよくゲルタルスがラストから抜ける。すると、ラストは糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。さらに、偽ユリバーと偽クラムも消えた。 魔法の効果が消え、僕が落下していく。

 なんとか着地に成功した。

 えっと...今、ゲルタルスが超怖かったんだけど…『死んじゃいな』って…

 それより、プリザームは!?


 〈……ん、……ああ、大丈夫です。ということは、ラストを倒したということでいいんでしょうか?〉


 ああ、よかった……

 安心すると、どっと疲れが押し寄せてきた。


 「はー、疲れた……」


 僕はその場に座り込んだ。 このまま眠りに落ちて……って、そんなことしてる場合じゃない! 僕は勢いよく立ち上がった。


 「ユリバーとクラムを助けに行こう!」


 〈そうだな〉

 〈当然! 友達の友達は友達!助けるのは当たり前だよねぇ!〉


 そうだね!早速行こう!

 と、意気込んだけど、大事なことを忘れていた。

 …それにしても、どうやって助けに行こう? ラストによると、ユリバーとクラムは別の次元にいるらしいんだけど……


 〈あたしのこと、忘れちゃったの? あたしは空間と空間をつなぐこともできるんだよ〉


 そうだった! これなら、ユリバーとクラムを助けに行くことができる!


 「すぐに行こう!」

 〈オッケー!〉


 ゲルタルスが空間に切れ目をつくる。

 ……そういえば、どうしてさっき散々ラストを煽ったのに、例の黒い霧の痛みがなかったんだ? 体が痛みに慣れちゃった?

 ……やだな、何そのドM理論……まあ、それもあり得るかも知れないよね…認めたくないけど。

 とにかく、今はユリバーとクラムを助けに行くことに集中しないと!


 「みんな、準備はいい?」

 〈もちろんよ!〉

 〈あたりまえさ!〉

 〈〈オッケーだよぉ!〉〉

 〈いつでも!〉

 〈当然のこと!〉

 〈大丈夫です!〉


 よし! さあ、突撃!

 僕達は空間の切れ目に飛び込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「そ、そんな……」


 オレ達は追い詰められていた。ラストに加えて偽ルーグスタもいたらオレ達に勝ち目なんてないじゃないか……


 「くっくっく…これで終わりか?」


 偽ルーグスタがオレ達に剣を突きつけている後ろで、ラストが笑いながらそう言う。

 くっそー、やり返してやりたいけど、オレもクラムもボロボロだ……もしこれ以上何かをしようとしたって何かできるとも思えない……


 すると、ラストが何かに気づいたように、


 「む…なるほど…やられたか……」


 と呟いた 。

 どういうことだ? と、疑問に思っていたその時、いきなり空中に切れ目のようなものができた。


 「えっ……?」


 思わず声が出てしまった。次の瞬間、何かが閃き、偽ルーグスタの体が半ばからズレたと思うと、偽ルーグスタは消え去った。


 「やあ、大丈夫かい?」


 ほぼ毎日のように聞き慣れた声が聞こえてきた。見ると、やっぱりルーグスタだった。

 待って…こいつ…前より強くなってる……

 いやだってあれだよ? ルーグスタが偽ルーグスタを斬るところ、見えなかったよ? え? どゆこと? ねぇ、どういうこと?


 「ぐぬぬぬぬ!」


 ラストが唸る。ルーグスタはラストの方にゆっくりと向き直った。


 「さあ、これで最後だ。さっきは散々僕の友達を傷つけたんだ、タダで済むとは思わないほうがいい」


 ルーグスタはラストに剣を突きつけた。その頼もしい後ろ姿には、なぜかラストの面影が見えた、ような気がした……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「…ふむ、なるほど……俺様の分身の片方がやられてしまった、か……」


 とある一室、ラストが城内の様子を確認し、椅子の背もたれにもたれかかりながらそう呟いた。が、そこに焦燥も怒りもないようだ。逆に、笑みさえも見える。


 「…フッ、だがまあ、たかが片方やられただけだ。あれならもう片方がどうにかしてくれるだろう。もしもう片方がやられたとしても…奴らがここに来ることは不可能だ。それに……」


 ラストが両方の口角を吊り上げる 。


 「もうすぐ全ての準備が完了するからな! やはり想像すると楽しいな! ちょうどいい。さあ、 来い、セレミス、準備が完了するまで、この光景を楽しむとしよう!」


 ラストが彼女の名を呼ぶ。セレミスは小走りでラストの隣へやってきた。ラストの隣で画面 を見るセレミスの頬は、赤く染まっていた…

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