第四幕

 ラストの魔力を追い、森を進み続けると、僕達はサバンナに出た。今は乾季みたいだ。


 「ラストの魔力反応がどんどん大きくなっていってる。旅のラストが近いかもしれない」


 今のはダジャレじゃないよ? いいね?


 「いやまだウリエースが残ってるからな……っと、それはそうとしても、なんかおかしくないか?」


 確かに、いくら乾季とはいえ植物などが全くない。全く雨が降っていない、ということなのかな?


 「うーん、水をやればいいんじゃない?」


 「ふっふっふっ……ここで俺の出番だな」


 クラムが得意げに言う。


 「適性があると言われてなかなか使ってこなかった技! 『ウェザー』!」


 クラムが空に手をかざしながらそう唱える。すると、瞬く間に雲が空を覆い、ぽつ、ぽつと雨が降ったと思ったら、あっという間に大雨になった。


 「おお、すごい!」


 クラムにこの魔法の適性がある、ということは、負担もほぼないはずだ。これを簡単にやってのけるってすごいな。


 「でも、ことままじゃびしょ濡れだ。急ごう」


 みんなに『フェレント』をかけ、走る。


 「うわわわわわわ速いっ!」


 早速ユリバーが制御を崩した。まあ、確かに慣れないと流石にきついよね。




 しばらく走ると、何かの建物が目に入った。

 禍々しい雰囲気を放っている。 さらに気になることは…そこの方向にラストの魔力反応が比にならないくらい強い、ということだ。


 「ラストはあそこにいるのかもしれない」


 僕があの建物を指し示す。


 「あそこか……」

 「文字通り魔王城って感じだな……」

 「さあ、行こう 」


 ラストを倒せば、何かがわかるかもしれない。

 僕達は魔王城に向かった。




 魔王城は思ったより大きかった。 とりあえず、城門が大きい。『フェレント』を使っても開かなかった。


 「じゃあ、俺に任せろ!」

 「いいけど、気をつかれないように静k」

 「『ブラスト』」


 爆音が響き、城門が吹っ飛んだ。


 「静かにやってって言おうとしたのに!」


 「ああ…まあ、どうにかなるだろ。だってほら、まだ気づかれてないじゃん。……って、え?」


 警備隊らしき『エネミー』が僕達を取り囲んでいた。


 「ほら気づかれてたあ!」

 「反省はしてる!」


 僕はルミネオルを構え、『ルール』でプリザーム 、 ゲルタルス 、 フェレオラドを背後に常駐させた。


 「そういえば、使ったことない魔法がまだあるんだが、使ってもいい?」


 こうなった原因のクラムが聞いてくる。


 「……いいけど?」

 「よし、わかった。今回に関しては俺が原因でもあるからな。『ヴェリヴルム』!」


 クラムがそう唱える。すると、なにやら地響きがした。


 「な…何?」

 「うわわわっ!」

 「どういうこと? なにがおこってるんだ?」


 すると、地面から巨大なモグラのような生き物が轟音と共に出てきた。


 「「「な、なんだありゃ〜!!!」」」


 そのモグラは 、『エネミー』を薙ぎ払い、叩き潰し、飲み込んだ後、地面に帰っていった。 地表には、一方的な蹂躙を受けた悲惨な『エネミー』のみが残った。


 「なんだったんだ、あれ……」

 「とにかく、やばいってのはわかったよ……」

 「とりあえず、他のが来る前に早く行こう」


 僕達は魔王城の中に入っていった。

 薄暗い魔王城の中を進んでいく。 途中で分かれ道があった。


 「どっちに進む?」

 「うーん、左で良いと思うんだけど」


 と、特に何も考えずに適当に進もうとすると、


 「いや、右の方だと思う」


 と、レミが言った。


 「?、 どうして?」


 「右の方に大きな魔力反応があるから」


 確かに、今までそんなに気にしてなかったけど、こっちの方が『トラッキング』の反応が強い。魔王城に入れたから完全に気が抜けていたよ。ちなみに僕達は今不法侵入とかいう完全犯罪を犯しているんだけど……


 「じゃあ、右に行くか」


 と、軽い気持ちでレミについていった。

 ……のが裏目に出た。 広い部屋に大量の『エネミー』がいたんだ。そのどれもが尋常ではない魔力を発している。全員にラストの魔力(以下:ラスト補正)がついているみたいだ。


 「反応が大きかったのって、こういうこと!?」

 「ごめん……私のミス」


 とにかく、向こうに何か扉のようなものがある。あそこに行けば次に進めるかもしれない。


 「しょうがねえな。いっちょやるか!」


 僕達は『エネミー』と対峙した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「うまく誘導してくれたみたいだな 」


 ルーグスタ達のいる魔王城の部屋の一つに黒い影…ラストがいた。この部屋は魔法によって魔王城の全ての様子が網羅できるようになっている。


 「さあ、俺様のいるところに来れるかな? 足止め頼むぞ」


 と、『エネミー』達に自信たっぷりに言うのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「何これ!?全然減らないんだけど!?」


 僕達は15分間ぶっ通しで『エネミー』と戦っていた。 全然キリがない。一体いつになったら終わるんだ!? そしてなぜかレミが全く狙われていない。どういうこと!?


 「何か秘密があるのかもしれない! 『エネミー』が減らない何かが!」


 なるほど。それを探せばいいんだね!


 「レミ! 『タイム』で敵の動きを止めて!」


 すると、


 「…それはできない 」


 と意外な言葉が出てきた。


 「どうして!?」

 「ここは魔王城。ラストの魔力によって強化されている『エネミー』に『タイム』は効かない」


 そんな…


 「よし、こうなったらいい方法がある」

 「「いい方法って?」」


 ユリバーとクラムが僕の方を見る。


 「それは…強、行、突、破、だ!」

 「「この脳筋野郎〜!!」」


 ユリバーとクラムが僕にそう叫ぶ。でも、それしか方法はない!


 「ああっ!」

 「レミっ!?」


 まずい、レミが捕えられた!


 「くそっ」


  『エネミー』を薙ぎ払いながらレミのところへ向かう。が、レミの姿は消えてしまっていた。


 「……仕方がない、とりあえず、先に進むぞ! 作戦決行だ!」


 作戦かどうかはわからないけど、そうするしかないみたいだ。


 「みんな行くよ!」


 僕達が強行突破の構えをとる。 僕は『フェーズチェンジ』でルミネオルをネルミネヴァルに変えた。


 「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」


 ゲルタルスとフェレオラドで先陣を開きつつ、二人にかけた『フェレント』で突っ込む。 僕達は向こうの部屋に続く扉ごと破壊して次の部屋に進むことができた。


 「早く逃げよう!」


 どこかに隠れられるところは……


 「あそこだ!」


 僕達はとある窪みに飛び込んだ。『エネミー』達はそれに気づかずに通り過ぎていった。


 「ふう、助かったぜ……」

 「死んだかと思った……」


 それにしても、レミはどこにいっちゃったんだろう…


 〈あたし達が捜してくるよ〉


 ゲルタルスとフェレオラドが僕の前に飛び出した。

 いや、君達だけで行くのは危険だ。


 〈我らをなんだと思っている、そんな奴らよりも長く生きているさ〉


 本当に大丈夫かい?


 〈ああ、任せな!〉


 ……わかった 。 気をつけてね。

 フェレオラドとゲルタルスが飛んでいったのを確認し、


 「よし、僕達はラストのところに向かおう」

 「レミはどうするんだよ?」

 「フェレオラドとゲルタルスが行ってくれるみたいだ」

 「え!? あいつらそんなこともできるの!?」


 ああ、そういえば教えてなかったっけ。まあ、あの時言っても信じてくれなかっただろう。今言うのがおそらくベストだ。


 「彼らは僕と繋がってる 。 自我もあるんだよ 」

 「まじか…知らなかった」


 そりゃあ教えてなかったもんね。仕方がない。


 「とにかく、早く先に進もう」


 もしレミが見つからなかったら話はラストを倒してからだ。

 ラストの反応が強い場所へと進む。

 次の部屋に続く扉を開けると……


 「!?」


 黒い霧!? 周りが見えなくなった!


 「クラム、ユリバー、 いるかい!? いたら返事をしてくれ!」


 …返事はない。範囲魔法か!?


 「プリザーム!」


 〈了解!〉


 プリザームの『アブソーブ』を使う。この霧が魔法なら吸収できるはずだ。

 ……よし、成功だ!霧が晴れてきた。 だけど、ユリバーとクラムの姿は見当たらないまま。一体どこにいっちゃったんだろう……

 そこには、僕の前に2体の人型の『エネミー』がいた。その二体はそれぞれ一本ずつ剣を持っている。

僕と『エネミー』、 両方がかまえをとる……

 来る!

 片方の『エネミー』の攻撃を受け、押し返しながらもう片方の『エネミー』の斬撃を弾く。


 「これなら……よし、『フェレント』、『フェーズチェンジ•虚斬剣』!」

 ルミネオルの刀身が消える。ルミホロルの完成だ。

 僕は 0.01秒に満たない時間で『エネミー』の背後に回り込んだ。そのまま一閃。 『エネミー』には傷ひとつついていない。でも、ルミホロルに斬られた2体の『エネミー』は糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。


 「この剣、使えるかな?」


 普通の鉄の剣とはまったく違う力を感じる。落ちている剣のうち、黄色に輝く方を拾ってみる。精神を集中させ……




 ……目を開ける。

 そこには、二人 (?) の妖精がいた。


 「私はトルプ♪」


 右の方の妖精が言う。


 「私はレイデル♪」


 左の方の妖精が言う。

  「2人合わせて、トルプレイデル♪」」


 と、完璧なタイミングでそう言った。

 息があってるな〜。 常に2人でひとつだから当たり前か。


 「あなたがここにきたってことはぁ」


 今のはトルプ 。


 「私達を使いたいってことだよねぇ」


 これはレイデル 。


 「「じゃあ、私達に勝ってみてよ♪」」


 と、短剣を一本ずつ構えた。

 よし、やるぞ、ルミネオル!

 素早く繰り出されたレイデルの斬撃を受ける。

 強っ!? この小さい体が発している強さじゃない!


 「いっくよー!」


 なんとかレイデルを振り払い、トルプの攻撃を受け止める。

 しまった! バランスを崩した!


 「やばい、『フェレント』!」


 風の力で強引に体勢を立て直す。危なかった……


 〈2人のどっちかをまずはどうにかしなきゃな〉


 そうだね。2人の攻撃は速くて強い。このままやっていてもジリ貧だ。


 〈じゃあ、どうする?〉


 あの二人よりも速く動く必要がある。いい剣はないかい?


 〈それなら……よし、風斬剣なんてどうだ?〉


 風系多いな……


 〈うーん、お前にその適性がある、と考えた方がいいな〉


 そうなの……まあ、それしかないならそれしかないね!


 「行くよっ!『フェーズチェンジ•風斬剣』!」


 ルミネオルの鍔の部分が風をかたどる。風斬剣フェルネオルの完成だ。


 〈『フェレント』と組み合わせるとものすごい速さになるぞ!〉


 へぇ、よし、試してみよう 。

 『フェレント』を再発動する 。 すると、かつてない速さで移動できるようになった。

 うわわわっ!? 速い! こっちがついていけなくなるよ!

 急ブレーキ、からの……レイデルのところまでひとっ飛び〜。

 そして……


 スパーン


 レイデルが真っ二つになった。


 「レイデルっ!?」


 トルプが相棒の名前を呼ぶ。でも、返事はなかった。


 「……やってくれたね。じゃあ、こっちも本気を出そう!」


 気迫が増したっ!? 早く勝負をつけよう!

 目にも留まらぬ速さでトルプに斬りかかる。

 でも……


 「えっ?」


 受け止められた!

 距離をとって、ちょっと退散……


 「逃さないよぉ~!」


 コイツ! 僕のフェルネオル+『フェレント』についてきてる!


 「あははぁ!」


 ギリギリのタイミングでトルプの剣を受ける。


 「まだまだぁ!」


 連撃っ!?


 「うっ!」


 全ての攻撃を受けきれず、切り傷を負う。


 「正面からは無理、だからといって背後にも回れない……なら、『フェーズチェンジ•虚斬剣』」


 フェルネオルをルミホロルに変える。


 「あれぇ、剣がなくなっちゃったぁ? もしかして諦めちゃったかな? じゃ、とどめいくよぉ!」


 最短距離でトルプが突っ込んで来る 。 これがミスだった。

 僕は右に少し飛び退き、そのまま左にルミホロルを突き出す。

 トルプの剣は空を斬り、勢い余って僕のルミホロルに魂を斬られた。 そのまま二人は光の粒子になり僕に吸い込まれていった。




 ……目を開ける。

 これ、本当に認められたのかなぁ。聖剣トルプレイデルを拾う。


 〈ヤッホー! トルプだよ♪〉


 うわあ! いきなり来た!


 〈ヤッホー、 レイデルだよ♪〉

 〈〈二人合わせてトルプレイデル♪〉〉


 良かった、生きてたのか!


 〈いや〜さっきは散々やられちゃったねぇ!〉


 トルプだ。


 〈これは認めるしかないねぇ!〉


 レイデルだ。


 〈〈よろしくねぇ、相棒!〉〉


 ああ、よろしく!


 〈もう一つの方も使えるのでは?〉


 プリザームの提案。

 そうだね、よし、やってみよう 。

 もう片方の剣、闇色に輝いている剣を握り、精神を集中させる……




 ……目を開ける 。


 「誰だ、俺の縄張りに入ってくる不躾者は」


 と、いきなり言われた。


 「えーっと、君を使いたいんだけど……」

 「なるほど、ではこの俺、レスニオグを倒してみろ!」


 そこには、ケンタウロスみたいな生き物がいた。黒い粒子を纏っている。でも、これはラストのものではないみたいだ。

 フェレオラドとプリザームを後ろに待機させ、ルミネオルを構える。

 レスニオグの突進!レスニオグの剣を受け止める。でも、


 「うわわわわっ!?」


 僕は剣ごと持ち上げられ、文字通り投げ飛ばされてしまった。


 〈『フェレント』は風の力を使うんだ!一旦やってみろ!〉


 ん? どういうこと?

 まあいいや、『フェレント』を発動する。

 すると、


 「えええっ!?」


 空中で移動できた!? この魔法って空を飛べるようになるの!?


 「『フェーズチェンジ•風斬剣』!」


 ルミネオルをフェルネオルに変える。

 これでかなりの速度が出る!


 「うおおおお!」


 『フェレント』を最大出力で使い、レスニオグに突っ込む。

 ガキィッと音がする。


 「ふん、この程度か!」


 ええっ!? フェルネオル+『フェレント』+重力加速度の両手攻撃を片手で止められた!?

 レスニオグ、やっぱり強い! 一旦距離を取る。


 〈私達にはぁ 、 得意技があるんだよぉ〜〉


 ん? トルプ、それはどういうこと?


 〈私達はぁ、二人で一つだからぁ〉


 レイデルの繋ぎ、からの、


〈二つに分かれることもできるんだよぉ〜〉


 ええっ、マジで!?


 〈マジでマジで! すっごいよぉ!〉

 〈やってみてぇ〜、『ディバイド』だよぉ〜〉

 「よし、『ディバイド』!」


 すると、トルプレイデルは縦に割れ、二つになった。

 よし、これで4対1だ!


 「ほう……なるほど。手数で攻めるようだな。だが!」


 レスニオグの気迫が増すっ……


 「全員で行くよ!」


 〈〈〈〈おお!〉〉〉〉




 トルプとレイデルが二人のタッグ攻撃で気を逸らす。そこに僕も加わり隙を探す。そして、プリザームが隙をついて攻撃、という作戦だった。でも……


 〈ええっ、全然隙が作れないよぉ!〉


 どうして……? レスニオグは一本しか剣を持っていない。なのに、僕達の連撃を次々といなしている。後ろに目でもついているのか!?


 〈これじゃキリがないぞ……〉


 これはまずい……

 と、思ったその時、


 〈助けに来たよ!〉


 その声は、ゲルタルス!?


 〈我も来たぞ!〉


 フェレオラドも!? レミは!?


 〈その話は後! まずはこいつを倒すよ!〉


 よくわからないけど、仲間が増えたのはいいことだ!

 あとできっちり説明してもらうからね!とりあえずはレスニオグに勝つことだけを考えろ!


 「ふむ、敵が増えたか…だが、それは俺の前にはそれは無駄なことだ!」


 さて、それはどうかな?


 「さあ、みんな行くよ!」


 ゲルタルスがレスニオグに斬りかかる。レスニオグはそれを弾こうとして……からぶった。 ゲルタルスがレスニオグの背後に瞬間移動したんだ。


 「何っ!? ぐあっ!」


 よし、良いぞ! ここからが怒涛の逆転劇だ!


 「『フェーズチェンジ•轟斬剣』!」


 ルミネオルをメギルネオルに変える。 みんなが猛攻を加えているところに僕が重い一撃をお見舞いする。


 「やああああっ!!」

 「なっ……!?」


 レスニオグはなんとか剣で受ける。すると、 レスニオグの剣にひびが入り、剣が折れた。


 「何ぃっ!?」

 「これが僕達の力だぁぁっ!!」


 僕はレスニオグを一閃した。

 レスニオグはその場に倒れた。


 「なるほど……これがお前の力か。いいだろう、俺の力を貸してやる。名をなんと言う?」


 「僕はルーグスタ、ルーグスタ•イスパードだよ」

 「そうか……では、ルーグスタよ、よろしく頼む」

 「うん!」


 レスニオグは光の粒子になり僕に吸い込まれた。




 目を開ける。僕は魔剣レスニオグを掲げた。さっきよりも一層輝いているように見える。


 〈さあ、早く行こうぜ!〉


 いや…その前に大事なことがある。クラムとユリバーの居場所もそうだけど、何より気掛かりなのはレミだ。

 ゲルタルス、フェレオラド、一体何があったんだい?


 〈……わかったわ。今から話すよ〉

 〈我々はレミ殿の魔力を追いこの魔王城を探索していた。だが、レミの魔力反応が強い方向に、ラストの反応もあったのだ〉


 つまり、レミは今捉えられているか戦っているかのどちらか、と言うこと?


 〈わからない……でも、あたしたちだけじゃ到底ラストには勝てないからね、一度帰ってきた、ってわけ〉


 そう言うことなんだ……

 とにかく、クラムとユリバーを探そう。


 〈〈〈〈〈〈〈了解〉〉〉〉〉〉〉


 僕はユリバーとクラムを探すため『トラッキング』を発動した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「くそっ、ルーグスタはどこいったんだよ……」


 クラムがそうぼやく。オレとクラムは黒い霧に包まれた後、ルーグスタとはぐれてしまったんだ。


 「とにかく、先に進んでみるしかないよ」

 「そうだな。ここにルーグスタはいなさそうだし」


 オレ達は部屋から出た。




 それにしても、この魔王城はよくわからない構造をしてるな。 同じような部屋がたくさんあるんだ。こんなにいらないだろってぐらい同じ部屋がある。2回言っちゃうほど沢山あるんだ。


 「おかしいな…なんか、全く前に進めてない気がする……」


 同じ景色がずっと続いてるからそう思ってしまうんだろう。

  ……という考え方が間違っていたことがわかった。

 もう30分ぐらい歩いているのに一向に景色が変わる様子がない。


 「何がどうなっているんだ!?」


 つまりまさか…ここは魔法の中?

 まさか……いや、十分にあり得る。ちょっとアレ試してみるか…


 「『キャンセル』」


 オレの『キャンセル』は『リフレクト』に変わったみたいだけど、これも普通に使えた。 すると、目の前の景色が歪み、歪みが元に戻ったとき、目の前にいたのはあのルーグスタだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ユリバーとクラムの魔力反応が最も強いところに着いた時、いきなり目の前にクラムとユリバーが現れた。


 「ユリバー、クラム!」

 「お前、ルーグスタか!?」


 ああ、よかった!

 「どうやって戻ってきたんだい?」

 「オレの『キャンセル』だ」


 と、言うことはつまり、ユリバーとクラムは魔法にかかっていた、と言うことかな? やっぱり、あの黒い霧に関係がありそうだ。


 「さあ、ラストのところに行こう!」


 魔王ラストの反応がかなり大きくなっている。もうすぐで辿り着けそうだ!




 「ここがラストの反応が一番強いところだ」


 クラムがそう言う。 本当だ。今までとは比にならないほど魔力の流れを感じる。


 「さあ、行こう!」


 僕は両開きの扉を開け放つ。そこには、あの洞窟で見た黒い影があった。


 「おや、もう来たようだな。ようこそ、玉座の間へ」


 その黒い影がこちらに振り向く。その顔は獰猛に嗤っていた。


 「お前が魔王ラストだな……」

 「その通りだ。なるほど、ここまで辿り着くとは……お前達もなかなか捨てたものではないな」


 〈間違いない、あいつが魔王ラストだ……〉


 ルミネオルが息を呑むのがわかった。 こいつがどれぐらいの力を秘めているのかがわからない。今、向き合っているだけでも圧がすごいんだ。周りの空気が重さを増して僕を押し潰そうとしている。


 「さて…少しばかり小手調べといくか……」


 いきなりラストの姿が消える。


 「!!」


 僕はルミネオルでなんとかそれを受けた。でも、僕の体はそのまま吹っ飛ばされた。


 「よし、僕たちもやろう! 『フェレント』、『ルール』!」


 三稜剣プリザーム、開門剣ゲルタルス、龍剣フェレオラド、聖剣トルプレイデル、魔剣レスニオグをそれぞれ配置させる。

 すると、いきなりレスニオグとトルプレイデルがクラムとユリバーに斬りかかった。

 えっ!? 一体何を!?


 〈ルーグスタ! こいつらは偽物だよぉ!〉


 偽物!? どういうこと!?

 それが正しいことはすぐにわかった。今斬りかかられたのにも関わらず、目立った傷がないんだ。

 じゃあ、本物の二人はどこに!?


 〈少なくともここにはいないと思う! コイツらは俺達が相手をしておく! お前はラストをやれ!〉


 ああ、わかった!


 「おい、ラスト! ユリバーとクラムをどこへやった!」


 すると、ラストはふん、と笑って、


 「さあ? 今はどこかで迷っているんじゃないか?」


 とだけ言った。

 あの黒霧…ただの魔法じゃなかったんだ……ユリバーとクラムがいない状況で、僕はラストに勝てるかな……?


 「さあ、もういいか? 始めるぞ」


 僕とラストはお互い正面からぶつかっていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ここがラストの反応が最も強い場所だよ」


 ルーグスタの案内のもと、俺達はついにラストのところまで辿り着いた。 この向こうに魔王ラストがいる…間違いない。今までとは反応が桁違いだからだ。


 「さあ、いくぜ?」

 「本当に大丈夫なのか……?」


 ユリバーが心配そうに聞いてくる。


 「それでも、やるしかないだろ」

 「その心構えだよ。さあ、いくよ!」


 両開きの扉を開け放つ。すると、そこには二度と忘れることのない人影がいた。


 「ほう、お前達がここに辿り着くとは」


 その影が振り向く。その顔には笑みがあった。


 「魔王ラスト……」

 「まさかお前達がここに辿り着くとは思わなかった。なかなか見上げたやつだ」


 表情を変えることなくラストがそう言う。


 「だが、お前達に面倒をかけられるわけにもいかぬな。やれ」


 ラストが何かに合図をする。すると、ルーグスタがいきなり俺達に斬りかかってきた。


 「なっ!? 『キャンセル』!」


 ユリバーがルーグスタの攻撃を『キャンセル』する。ルーグスタはバックステップで距離を取った。


 「おい、ルーグスタ、一体どう言うことなんだよ!」


 ルーグスタは何も言わない。さっきとは雰囲気が全く変わってしまっていた。


 「ラストも強敵だが、ルーグスタまで……」


 もう何が何だかわからない。でも、ここまで来てしまった以上後戻りはできない。

 オレ達は二人を相手に戦闘を開始した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「クフフフフ、滑稽滑稽」


 魔王ラストは笑いながら三人の様子を見ていた。 実は、三人とも魔王ラストの元へ辿り着けていない。それもそのはず。本物の魔王ラストは空間から隔離さ れたところにいるからだ。


 彼らは遊ばれているのだ。


 「だが…まだ辿り着かれないとは限らない……セレミス」


 ラストがとある名を読んだ。


 「奴らが近づいてきたら足止めをしろ」


 ある人影は礼をし、部屋を出た。


 「準備が終わるまでもうすぐだ。楽しみなものだ!」


 と、ラストは一人高らかに笑うのだった。

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