第三幕
『トラッキング』を使い、ラストの魔力を追って旅を進める。
「ひとまずここで野宿しよう」
しばらく進んだところで僕はそう提案した。もう外は暗くなっている。出発するのは明日のほうがいいだろう。
『そうだな。そうしよう」
よし、決定だ!
「じゃあ眠れるところを探そう」
辺りを見回してみる。
うーん、急な雨も防げて『
「あそことかどう?」
僕がとある場所を指差す。そこには、手頃な洞窟があった。あそこなら安全そうだ。『
「いいね! じゃ、そこにするか!」
いい感じに草などを敷き詰め、僕達はそこで眠った。
〈また会いましたね〉
目を開いてみると、魔法石がいた。
〈ルミネオルに認められたようですね。おめでとうございます〉
うん。確か…10日間ぐらいかかったのかな? でも、ユリバーたちにとっては半日も経っていないってことを考えるとなんだか不思議な感じがするね。
〈では、この後どうしますか?〉
もちろん、ウリエースの厄災を止める為に旅を続けるよ。ラストのところにも近づきつつあるからね。
〈そうですか……では、ひとつ私から話がございます。かつて、ルミネオルを作った鍛治師は三つの分家を作っ たそうです。一つは、兄弟の協力が、一つは、何者にも屈しない根性が、そして、もう一つは皆を導く決断力が強い家系なのです。その分家……今はバラバラですが、また一つになることで世界の敵から世界を守ること ができる、という言い伝えがあるのです〉
不思議な話だなあ。
その、分家というのは?
〈わかりません。私が知るところはそこまでです〉
もっと不思議な話だ。分家がある、というのはわかるのに、どういう苗字なのかわからないとは。まあ言い伝えだからね。それが正しいかどうかもわからない。
〈もうじき朝です…また会いましょう……〉
あっ、待って!
呼びかけも虚しく、魔法石は消えてしまった。光が僕を包み込む……
目を覚ました。
「おはよう。朝ご飯ができてる」
今のはレミが起こしてくれたのか。
よいしょ、と立ち上がり、みんなのところへ向かう。
「おお、ルーグスタ、遅かったな」
クラムが僕に手を振る。
「ごめんごめん、……あれ? そういえば、僕達食糧持ってきてなかったよね」
「ああ、それ? レミがたくさん持ってるんだ。いつも助かっているよ」
レミの方を見ると、少し頷いて、
「食糧ならある。私たちが8年間生きられるぐらいなら」
と言った。
おお、すごい。でも、どれぐらいまで『プットイン』して入れられるんだろう?
「とりあえず、早く食おうぜ」
「そうだぞ。冷めちゃうからな」
そうだね。良い匂いもしてくるし、お腹も空いたところだ。
僕が手頃な岩に座る。
「さあ、いただきます!」
「「「いただきます!」」」
うん、美味しい。みんな料理うまいねえ。
〈ああ、俺も食べたいなぁ〉
気持ちはわかるけど……君は無理だね。というか、剣に空腹と食の概念ってあるのかな?
〈本当はないけど、うまいもんは知ってるよ。なぜかはわかんないけどな〉
つくづくよくわからないなぁ……
と、いうわけで、あっという間に完食した。
「さあ、出発しようぜ!」
「「おおーっ!!」」
出発してからしばらくすると、僕達は森に入った。
「薄暗いな……」
ユリバーが辺りを警戒している。と思ったら、ただ怖がっているだけだった。
「なんか出てきそうだぜ……」
クラムも周りを見渡す。すると、なんか出てきた。
「クラムがあんなこと言うから!」
「スマン……てか、俺のせいじゃなくね?」
「それはそうと…ゴブリン?」
そう、出てきたのは木の棍棒を持ったかつて本でよく見たゴブリンの群れだった。僕達を取り囲んでいる。
「よし、みんなでぶっ倒すか」
こうなった原因(?)のクラムがそう言う。
まあ、こうなった以上しょうがないよね。僕はルミネオルを抜いた。
〈他のフェーズを試してみないか?〉
ルミネオルからの提案。
「そうだね。『フェーズチェンジ•爆斬剣』」
ルミネオルが光り輝き、形が変わる。
ルミネオルはゴツく、分厚くなり、爆斬剣ネルミネヴァルに変わった。
え? これ本当に斬れるの? 刃という刃がなくなっちゃったけど……
〈使ってみりゃわかるさ〉
まあ、そりゃそうだよね。とりあえず、棍棒を振りかぶって正面から突っ込んでくるゴブリンにネルミネヴァルを叩きつける。
すると、
「ガアオウッ!?」
ネルミネヴァルを叩きつけた瞬間、そこが爆発し、ゴブリンを吹っ飛ばした。
「わーお、強いや」
今度は、ゴブリンが集まっているところの近くの地面にネルミネヴァルを打ち込んだ。 すると、地面が爆発し、ゴブリンがオモチャのように吹っ飛んだ。
おお…やばすぎる……
〈な? すごいだろ?〉
君 、 どんだけすごいんだよ……
ドゴーン!
「なんだっ!?」
後ろでも爆発が起こった。 見てみると、倒れたゴブリンと満面の笑顔を浮かべたクラムだった。
「へへっ、『ブラスト』大成功だぜ!」
クラムが額の汗を拭くふりをする。
「よし、これで全滅かな」
「オレら何もしてない……」
「クラムとルーグスタは強い。それは事実……」
ああ、レミとユリバーが機嫌を損ねちゃったみたいだ。
「さあ、どんどん進むよ」
またしばらく進むと、何やら建物があった。
「なんだろう? ……『魔道具屋•創』?」
「入ってみようぜ」
と、いうわけで、僕達は『魔道具屋•創』と書かれた建物に入るのだった。
「こんにちは……」
扉を開け 、 呼びかけてみる。
「客か。何の用だ?」
声のした方を見ると、白衣を着た少年が商品の並べ替えをしていた。歳は13〜15歳ぐらいかな?
「ここでは何を売っているんだい?」
すると、少年は面倒臭そうにため息をついてから、
「見てわからないのか? どれもこれも、魔道具だよ。看板にもそう書いてあっただろ?」
と、答えた。
へぇ、使えそうなものはあるかな?
「なんの商品がオススメ、とかあるかな?」
すると、少年は商品棚の中から何かを取り出して、
「これなんかどうだ? 『パワージェネレーター』を小型化したものだ。魔法を使用したときの負担を軽くするやつだ。あとは、『コンデンサー』。力を溜めておいて必要な時に使う、便利なやつだ。どうだ? 何か買っていくか?」
と、少し興奮気味にまくしたてた。
そんなにオススメなんだ。値札を見てみよう……って、高い!? 到底僕達では買えそうにない……
「うーん、ちょっと高すぎて買えないかも……」
諦めて帰ろうとした時、ルミネオルが何かを察知したらしく、
〈おい、剣の反応がする。向こうのほうだ〉
と報告した。STAFF ONLYと書いてある扉の向こう側みたいだ。
買えるかな……? 聞いてはみよう。
「あ、そうだ、ひとつ欲しいものがあって、剣はある?」
すると、少年は
「あるが、お前には扱えないぞ」
「でも、一応見せてくれないかな?」
「……いや、お前には無…」
「見せてくれないかな?」
たまたま身長が高かった僕が上から圧力をかける。すると、少年は諦めたように、
「……わかった。こっちだ」
と、剣のところに案内してくれた。
「ここだ」
STAFF ONLYの扉を開けた向こうには、剣が2本岩の台のようなものに刺さっていた。 右の剣は…ガラス製? そして、左の方は剣そのものが何か半透明の膜のような物でできている。
「これは僕の友人が作ってくれたもので、右が三稜剣プリザーム、左が開門剣ゲルタルスだ。だけど、両方とも僕にはうまく扱えなかった……つまり、お前も無理だ、ってわけ」
ふーん、そういうわけでここに刺してるってわけね。
「じゃあ、うまく扱えたら僕がこれを買ってもいいんだね?」
「いいだろう、どうせ無理だけどな」
うーん、無理の一点張りだなぁ……でも、やってやるぞ!
まずはプリザームから。
プリザームの柄を握り、精神を集中させる……
目を開く。
そこには、眼鏡をかけた青年がいた。
「初めましてですか。僕はプリザームと申します。以後、お見知りおきを」
この人がプリザーム……この人に認められないとこの剣は使えない、ということだね。
「僕に認められれば僕をあなたに差し上げましょう。もし、認められなければ……」
プリザームがいつのまにか真剣を構える。
「すぐに立ち去ってもらいますよ」
よし、いくよ! ルミネオル!
〈よっしゃ!〉
僕はルミネオルを構える。
「「ハアッ!」」
剣と剣がぶつかり合う。
「いいですね。流石は僕が見込んだ人。前なんか僕と会うことすら出来なかったですからね」
前、というのはあの白衣少年のことかな。まあ、会えなかったんじゃあ上手く使えるはずがないからね。
って、そんなことを考えている余裕なんてないんじゃないの!?
「いいですねいいですね! さあ、どんどん行きますよ!」
さらにプリザームの攻撃が激しく、鋭くなる。
それを受け流し、また避けながら、攻撃をする隙を探す。
でも……隙が全くない。やっぱり剣本体だからかな。
それなら、こっちから隙を作りにいく!
ルミネオルに打ち込まれた剣を強引に押し返す。
「なっ……?」
「やああっ!」
少しバランスを崩したところに、ルミネオルを叩きつけた。すると、プリザームの体は砕け散った。
「えっ!?」
僕が驚いていると、
「合格です……よくやりましたね。まさか僕を砕くとは……」
粉々になったプリザームから声が聞こえてきた。
「どういうことなの?」
「僕の体は『プリズムグラス』という物質でできています。魔法を受けると、それを反射、屈折、吸収する力を持ちます」
そ、そうなんだ……
「そして、僕は実は戦闘向きではありません。どちらかというと、防御専門なのです」
まあ、割れやすそうだしね。
「まあ、このぐらいでいいでしょう。これからもよろしくお願いします」
と、プリザームは光の粒子になり、僕に吸い込まれていった……
目を開く。
僕は石の台からゆっくりとプリザームを抜いた。そのまま、空を斬ってみる。 よし、バッチリだ!
「ま、まさかこれを上手く使える人がいるなんて……」
白衣少年は目がまんまるになっている。
へへ、これがルミネオルに認められた剣術専攻だ!
「じゃあ 、 ゲルタルスの方もいいかい?」
「……いいけど……」
よし、じゃあ遠慮なく。
ゲルタルスの柄を握る。精神を集中させ……
目を開く。
「あんたが剣士?」
そこにいたのは、紫色のパーカーを着ている少女だった。歳は僕と同じぐらいかな……
「君に認められれば君を使ってもいいんだよね?」
「もちろんよ。そのためにあなたはここにいるんでしょ?」
そうだね。呼ばれなければ僕はここにいないからね。
「だからあたしも闘う。手合わせ、お願いするわよ」
ゲルタルスが剣を構える。
「いくわよっ!」
お互いが走り寄る……次の瞬間、ゲルタルスの姿が消えた。
「えっ? ……!!」
感覚で剣を後ろに振る。ちょうどそこにゲルタルスの剣があった。ルミネオルがゲルタルスの剣を弾く。
「ふーん、あたしの今の攻撃を受けるって、なかなかやるわね。前のやつとは全然違うわ」
「今、何をしたんだ?」
「開門剣、この意味がわかるかしら? あたしは空間を『開門』する剣。つまり、こういうことも可能なわけ」
またゲルタルスの姿が消える。剣を振り、ゲルタルスの剣をなんとか受ける。 これはなかなか厄介だ。瞬間移動を相手にどうやって戦う?
〈なかなか手強い相手だなぁ〉
そういえば、適性がある、って言われてまだ一回も使ってない魔法があったね。物体従属だっけ? 魔法一覧を確認……ああ、これか!
「使ってみよう。『ルール』」
すると、ルミネオルがひとりでに宙に浮き、僕の周りを守るように動いた。
「ただ剣を浮かせただけじゃない! いくわよっ!」
ゲルタルスが消え、どこかに現れる。僕に振り下ろされたゲルタルスの剣をルミネオルが自動で弾き返した。
「なっ……!?」
めちゃくちゃ便利じゃないですか、これ。もっと先から使っておけばよかった。 そう考えているうちも、ルミネオルは勝手にゲルタルスと戦っていた。
プリザーム、ちょっと攻撃用に使っちゃうけど、いいかい?
〈本当は防御専門なのですが……いいでしょう。ただし、打ち合った時に無事だという保証はありません〉
それでいい。ありがとう!
「……くっ、こんなっ……ああっ!」
ルミネオルの熾烈な攻撃で、ゲルタルスの剣が弾き飛ばされる。その隙を見誤らず 、 僕は『ブースト』で間合いを一気に詰め、ゲルタルスを一閃した。
「きゃああっ!」
ゲルタルスがその場に倒れる。
僕はルミネオルを手元に戻した。
〈うーん、新鮮だったけどやっぱり直線手で持って使ってほしいなあ〉
贅沢を言うなあ……まあいいけど。
「ずるいわ! 1対2なんて!」
「いや、瞬間移動も十分ずるいと思うよ!?」
すると、ゲルタルスは少し笑って、
「そういうと思ったわ。いいわ、合格よ。あたしの全てをあなたにあげる」
その表現は語弊を生むからやめてほしい……
「大事に使ってね? あたしのパートナー」
それも誤解を生むっ!
僕が極度の疲れを感じながら「よろしく」と言おうとした時、
〈なにおう! コイツのパートナーは俺だぞ!〉
と、いきなり割り込む声が入った。
って、ルミネオル!?
「アンタ誰よ! どこの誰か知らないけど勝手に話に入ってこないで!」
ゲルタルスも負けじと言い返す。
〈フン、ルーグスタとは長い付き合いなんだ。今日会ったばかりのお前みたいなやつが相棒なんて偉そうにするなよ!〉
ルミネオルとも会ってあんまり経ってないけどね……
という言葉をなんとか飲み込む。
でもこのままだと斬り合いになりそう。もうそろそろ止めなきゃ。
「まあまあ、仲良くしようよ。これから一緒に戦う仲間なんだからさ」
剣と少女の間に割り込む。
「コイツとは仲良くなれそうにないわ。でも、あなたの役に立ってみせる」
〈お? 俺と勝負するか? どっちがルーグスタの役に立てるか〉
「いいわ、望むところよ!」
あーあ、また言い合いを始めちゃったよ。いつか仲良くなれる時が来るのかな……
「ま、良いわ。よろしく、ルーグスタ」
ようやく落ち着いたのか、ゲルタルスが僕に手を差し伸べる。
「じゃ、じゃあ、よろしく……」
僕がゲルタルスの手を握る。
ゲルタルスは光の粒子になって、僕に吸い込まれていった。
目を開ける。
石の台からゲルタルスを引き抜き、空を斬ってみた。すると、文字通り空間が切れた。 うわー、強すぎる。
「あ、ありえん…プリザームだけじゃなくゲルタルスまで……」
〈軽々しく名前を呼ばないでほしいんだけど〉
まあ…しょうがないと思うよ……君がこの剣の中にいるなんて思いもしないだろうし。
「じゃあ、買わせてもらうよ」
「……ただでやるよ」
「今なんて?」
「ただでやるよっ!」
本当か! それは嬉しい!
「ありがとう! 君っていい人だね!」
「うっ……うるさい! お前は嫌いだ! でてけっ!」
特にここでの用事はもうないから言う通りにしておこうかな。
と、いうわけで、僕達は『魔道具屋•創』から出るのだった。
「あいつ、生意気だな、歳上を敬ったりしないのか!?」
『魔道具屋•創』を出てからちょっとしたところで 、 クラムは文句を言った。
「そうかな? 僕は結構可愛いな、と思ったけど」
「ルーグスタの趣味ってなんか変わってる……」
レミっ!? なんか勘違いしてない!?
「可愛いっていうのは趣味のことじゃなくてね……」
あー、完全に誤解されてる。誤解を解いてくれるのはいつなんだろう……
「ところで、今オレ達はどこに向かってるんだ?」
ユリバーが訪ねてくる。
「ここから少し行ったところにラストの魔力の反応が強いところがある。そこに行ってみよう」
ラストの反応を辿って……僕達は少し広いところに出た。
「ここは……?」
強い気配がし、その方向を見てみると、大きなゴブリンがいた。黒い粒子を纏っている。『トラッキング』 で反応したのはこいつだったのか。
「ゴブリンの親分って言った感じかな」
ゴブリンの親分が僕達に気づいたらしく、
「ブギイイイィィィ!」
と、雄叫びを上げる。すると、普通の大きさのゴブリンがたくさん出てきた。
「親分を頼んだ! オレ達はこっちをやる!」
と、早々と戦闘を始めた。
なんか僕、こういうことを頼まれがちだよね……
でも、やるからにはやらなきゃ。
「よし、みんないくよ! 『ルール』!」
僕の背後にゲルタルスとプリザームを配備する。ルミネオルは手持ちだ。 まずはお手並み拝見。ルミネオルのままゴブリンに向かう。
ルミネオルと棍棒が打ち合う。
やっぱり強い。前のゴブリンとは大違いだ。
何度も何度も打ち合いを続ける。
この棍棒、固くない!? 木でできているはずなのに全く斬れる様子がない。
それなら……
「『フェーズチェンジ•切斬剣』!」
ルミネオルをカルミネタルにし、棍棒の破壊を目標にする。
ええっ、それでも斬れないの!? カルミネタルをもってしても斬るどころか食い込むことすらしない。ラストの補正がかかってる、ってわけね……
「ゲルタルス!」
〈言われなくても!〉
対象を空間ごと斬り裂く剣が親分ゴブリンを襲う。ゴブリンは難なくそれを避け、側面から棍棒を叩きつけた。
〈いやあっ!〉
ゲルタルスが飛ばされていく。僕はなんとかゲルタルスを引き戻す。
斬れない棍棒に隙のない攻撃…どうすれば……
〈そんなら棍棒に当たらなければいいじゃん?〉
だから隙がないって…そうか!
「『フェーズチェンジ•虚斬剣』!」
ルミネオルの形が変化……せず、ルミネオルが見えなくなった。でも、掴んでいる感覚がちゃんとある。 僕はそれをしっかりと掴み、親分ゴブリンに走った。 親分ゴブリンが棍棒を振り下ろす。僕は剣をそれに迎え打とうとして……僕の剣はそのまま棍棒をすり抜けた。 そのまま一閃。
ゴブリンの背後に立つ。親分ゴブリンは倒れ、動かなくなった。
虚斬剣ルミホロル。全てのものをすり抜け、魂のみを斬り裂く。 ルミネオルに戻り、形が見えるようになった。ルミネオルを鞘にしまう。
〈へへっ、俺の手柄だ! この勝負はやっぱり俺の勝ちかな〜〉
〈むぅ〜っ! 今のはただミスしただけだから!〉
おや、また始まった。まあ、しばらくすれば収まるか……
僕はクラム達の方に向かった。
「さあ、そっちの方はどうかな?」
「こっちも済んだぜ」
クラムが手を叩く。ちょうどいいタイミングだね。
「さあ、行こうか」
と、出発しようとしたところで、
〈剣の反応だ。北の方向〉
方角言われてもわかんないんだけどなぁ……
〈えぇ……、まあ、とりあえず向こうだ〉
よし、行ってみよう。
「みんな、こっちに行ってみよう」
「そっちに何かあるの?」と疑問に思われたけど、すんなりついてきてくれた。
しばらく進むと、剣があった。 鍔の部分には龍の頭の形がかたどられている。
「お前、これがあるってわかっててこっちにきたのか?」
「う、うん、ま、まあそうだね……」
本当はルミネオルに教えてもらったんだけどね……
それにしても、いつ作られたんだろう? この剣が置いてある台は相当古いけど、剣には汚れひとつない。
「ルーグスタは使えるかな?」
「やってみるよ」
剣の柄を握り、精神を集中させる。
目を開ける。
「ふむ、お主で429人目だ」
前に立っていたのは翼の生えた男の人だった。
「我はフェレオラド。龍人である」
りゅ、龍人!? つまりどういうこと!?
「我は剣に龍の骨が使われておる。それゆえ、強大な力を得ておるのだ」
なるほどね。だからそういう格好をしているんだ。
「ここに来たということは、我に認められに来たわけだな」
「そうだよ」
「ならば、手並み拝見と行こう」
フェレオラドが剣を構える。次の瞬間 、 僕の目の前にフェレオラドの剣先があった。それを前もって発動しておいた『ルール』のゲルタルスがそれを弾く。
「ふむ…我の初撃を防ぐとは……何を使ったのか知らぬが、なかなかやるではないか」
フェレオラドは容易くゲルタルスを弾き飛ばし、また僕の方に向かってきた。『ブースト』で身体能力を上げ、立ち向かう。
強っ、てか、重っ!
この人 (?) が使っているのは本当にただの剣なのか?
なんとか押し返し、体勢を立て直す。
「ふむ、なかなか骨のあるやつだな。では、これをくらえっ!」
フェレオラドはなにかをためると、僕に火を吹いてきた!? 本当にこれって剣の戦いなの!? ただの魔法戦になってない!?
とりあえず直撃するとやられるので、それをプリザームが受け止める。
プリザームには特殊魔法が4つある。『アブソーブ』、『リフレクト』と、後もう2つだ。 『アブソーブ』は、相手(自分のも可能)の魔法を吸収して魔力に換え、溜めておく魔法。『リフレクト』は、相手(これも自分のも可能)の魔法を屈折、反射させる魔法だ。このとき、同じ攻撃しか返せない代わりに、 プリザームの補正がかかって威力が少し上がるという特性を持っている。 僕は『アブソーブ』を選んだ。攻撃をそのまま返しても、龍に炎は効かない、と、 どこかで聞いたことがあるからね。
「我の魔法を防ぐとは……面白いではないか!我の血が滾るぞ!」
すると、フェレオラドは翼を使って空に飛び立った。
風が強いっ! 上空を見てみると、フェレオラドはあっという間に小さくなっていて、僕を見下ろしていた。
「さあ、受け止めてみよ! 我の渾身の一撃! 『ドラグーンストライク』!」
フェレオラドの体中から炎が噴き出す。それはみるみる龍をかたちどり、フェレオラドは炎の龍になった。 それが僕の方に向かってくる。
来るっ!
『ブースト』を全力で使い、立ち向かう。
熱いっ……このままじゃ負ける!
『ブースト』を超えろ!
「おおおおおおおっ!!」
僕の体から風がものすごい勢いで噴き出す。
衝撃波が周りの空気を激しく震わせているのがわかった。
「やああああああ!」
僕のルミネオルはフェレオラドを押し返し、そのまま斬り伏せた。
「がっ…は」
フェレオラドが仰向けに倒れる。
勢い余って僕も倒れた。
「……ククク 、 はっはっはっはっ!」
フェレオラドが大きな声で笑う。
「お主、やるのお! ただの生身の人間がここまでやるとは……いいだろう! お主に、我の力を授けよう!」
光の粒子となったフェレオラドが僕に吸い込まれていった……
目を開ける。
フェレオラドを持ち上げ、掲げる。
すると、どこからか龍の雄叫びが聞こえてきた気がした。
「やったのか!?」
ユリバーが心配そうに尋ねてくる。
ゆっくりと振り返り、僕は微笑んだ。
「やったな! ルーグスタ!」
クラムが手放しの賞賛を送ってくる。
「別に喜んだりはしない。ルーグスタならできると思ってた」
とは言っていても、レミも安堵の表情が隠せていない。素直になったらいいと思うのに。
魔法一覧がポケットから出てきた。確認すると、『ブースト』が『フェレント』になっていた。風の力で超高速移動をするらしい。
「よし、これでウリエースに一歩近づいたね」
「そうだな」
「ちゃんと倒せるのか……?」
ユリバーが不安そうに聞いてくる。
「それはやってみないとわからない。でも、できる時が来るはずさ!」
「そうだね」
レミも僕に同意した。
「さあ、旅を進めよう!」
僕達は目標に向かって進み始めた。
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