第二幕

 あるところで、僕は目を開けた。

 ここは…海の中……? こんなところに来た覚えはないぞ……? そもそも近くに海なんてあったっけ……

 誰かに呼びかけようとしたけど、声が出ない。感覚もない。身動きも取れないんだ。ただ中途半端な位置で浮いていることしかできない。すると、そこに何かの影が現れた。


 〈気がつきましたか〉


 あ…あの声はっ!?


 〈はい、私、魔法石でございます〉


 心を読んでる……? そんなことができたっけ……?


 〈今、貴方は気を失っている状態です〉


 ってことはつまり、ここは夢の世界ってこと?


 〈その通りでございます〉


 なるほどね、それなら声が出せなかったり動けないことの説明がつく。

 それにしても、どうしてここに?


 〈先ほど、私が貴方達に魔力を供給しましたね。その時、何かがあったとき のために私のかけらを貴方に仕 込んでおいたのですよそして、今がその「何か」です〉


 何かって…一体何?


 〈貴方が気を失った原因、心当たりがありますか?〉


 うーん、巨大『エネミー』と戦ってたけど...…


 〈そのときに貴方が使用した魔法です〉


 まさか……『ダッシュ』?


 〈違います、その次です〉


 『フェーズチェンジ』のこと?


 〈そうです。あの魔法は使用者に絶大な負担を強いる魔法…皆、これを上手く扱えきれず、ルミネオルはあの部屋に仕舞われたわけです〉


 つまり……僕も上手く扱えきれていなかった、ということになるの?


 〈いいえ、あれは成功です。剣の形が変化したまま保っていたでしょう? ただし、少し魔力が足りなかった ようですね〉


 まあ、数時間もずっと『ダッシュ』を使っていたもんね。


 〈それもそうなのですが、根本的な魔力量も少ないようです〉


 うぐっ、いくら正しいとはいえ心に深々と突き刺さる……


 〈そんな貴方に、魔力量を増やす方法をお教えします〉


 なんか、どこかのセールスみたいになってない? 


 〈毎日、ルミネオルを強く握り締め、精神を全てルミネオ ルに集中させるんです。すると、日に日に魔力量は増えていきますよ〉


 なんかスルーされた…まあ、大事な話らしいしね。

 それにしても…簡単すぎないか?


 〈やってみればわかります。とても大変ですよ〉


 本当かな……


 〈とりあえず 、 今のところの私の役目はここまでのようですね。私は貴方の一部……ですが、貴方が眠っている間にしか活動できません。貴方はもうじき目を覚ます……では、また会いましょう……〉


 と、魔法石は消えてしまった。 うっ、眩しい! 僕は白く輝く光に吸い込まれていった…



 「…ん……」


 「「ルーグスタっ!?」」


 目を覚ますと、ユリバーとクラムが僕を覗き込んでいた。


 「ここは……」


 「ルーグスタ、お前はルーグスタなんだな!?」


 何を当たり前なことを…僕が僕じゃないってどういうことだよ……って、ああ、そうか、確か僕が気を失う前、変なこと口走ってたんだっけ。


 「ごめん、心配をかけて。もう大丈夫だよ」


 「あぁよかった。2日間も起きないからほんとにどうしちゃったのかと思ったよ」


 え、僕、そんなに寝てたの!? それは相当心配をかけちゃったみたいだ。


 「ごめんよ。もう大丈夫だから気にする必要はないよ」


 起き上がり、周りを見回す。

 見当たりのない洞窟だな……ユリバー達がここまで運んできたってことだね。 ん? あそこに知らない少女が……


 「ねえ、あの子は誰?」


 「ああ、あいつか? あいつはお前に治療魔法をかけてくれた子だよ」


 「ああ…ありがとう」


 すると、その少女は小さくお辞儀して、


 「困っている人がいたら助けるのは当然。だから私は『戦士バトラー』になった」


 ふーん、そうなんだ…ってええっ!?


 「今、魔法って言ったよね、そして『戦士バトラー』って……」

 「ああ、話は長くなるけどな……」


 と、クラムはここまでに至る経路を話し始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ルーグスタっ!?」

 「とにかく安全な場所に移動させよう!」


 俺とユリバーはルーグスタを近くの洞窟に運び込んだ。 剣術専攻だったからか、めちゃくちゃ重い。コイツ、細マッチョだったんだな……




 「ふう、これでいいかな。でも、どうする?オレたちは回復魔法なんて持ってないぞ」

 「本当だ。どうしよう……」


 そこで俺達は頭を抱えてしまった。

 すると、


 「私が助けてあげる」

 「「えっ?」」


 洞窟の入り口には見知らぬ少女が立っていた。

 いつのまに……?


 「いや…君には無理だ……」

 「大丈夫。私には回復魔法がある」


 そうか、それなら大丈夫だな…って、え?


 「今、なんて?」

 「私には回復魔法がある、って……」

俺達3人以外にも魔法を使える人がいたのか!?


 「その力は…いつ手に入れたんだ?」

 「生まれつき。私が小さい頃、怪我をしたときすぐに治った。それで私は確信した」


 おう…そりゃやばい……


 「名前はなんていうんだ?」

 「私はレミ。レミ•オステン」


 あまり聞かない名前だな。


 「そうか、よろしく、レミ。俺はクラムだ」

 「オレはユリバー。って、今そんなことを言ってる場合じゃないよう!」


 ああ、そうだったな。


 「早速治療にあたろう」


 レミがルーグスタに手を置き、目を閉じる。


 「……ただの魔力切れ。心配することはない」

 「「よかった……」」


 思わず安堵の声を漏らす。

 まったく。もしもルーグスタに何かあったらどうなっていたのかと……


 「魔力を回復させる魔法は完全に効くまでに時間がかかる。だから、私のもう一つの能力 、 時間を操作する 魔法も一緒にかける。それでも数日かかるかもしれないけど、いい?」


 じっ、時間を操作!? すごすぎる……多分ルーグスタが聞いていたら気絶するかもな……


 「じゃあ、お願いするぜ」


 レミはコクリと頷いた。


 「いくよ…『チャージ』、『タイム』。よし、あとは待つだけ。ところで、あなた達は何者?」


 「俺達は『戦士バトラー』と言ってな、『エネミー』を倒しながら原因を探る旅をしているんだ。『エネミー』というのはそこら中にいる化け物のことで、そいつらの被害を受けている人も沢山いる。俺も、……俺達もその被害者の1人さ」

 「おい、クラム、それ言っちゃっていいのか?」


 ユリバーが小声で聞いてくる。


 「大丈夫だ。俺達と同じ力を持っているんだ。仲間になってくれた方が嬉しいだろ?」


 「仲間に…なってほしい?」


 ありゃ、聞こえてたのか。なるべく小さな声で話したつもりなんだけどな。


 「無理に、とは言わない。危険な道のりだからな」


 「……やる」


 「「本当かっ!!」」


 思わず俺とユリバーは体を乗り出した。


 「ち、近い……私も両親を失った。私にできることは困っている人を助けること。もうそれしかない」


 そうか……! レミがいてくれれば百人力だ!


 「じゃあ、改めてよろしくな、レミ」


 すると、レミは少し微笑んで 、


「よろしく。……さてと、できるだけ早く目覚められるように集中しないと」

と言った。


 俺とユリバーは頷いて、ルーグスタをずっと見守るのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「……それで、その2日後にお前が目を覚ました、ということだ 」


 時間を操作……? やばすぎるでしょ、なんでこんなに僕の 周りの面子が強すぎるんだ……?

 とりあえず、僕を助けてくれたたのは彼女みたいだ。


 「そうなんだ……ありがとう、レミさん」


 すると、レミさんは少し照れくさそうに、


 「レミでいい。でも……どういたしまして」


 と答えた。


 「起きてすぐで悪いんだけど、レミ、一つ頼みがあるんだ」

 「何が……?」


 レミが不思議そうな顔をする。


 「さっき 、 夢の中で魔法石と話をしてきた」

 「ええっ!? そんなことができるの?」


 ユリバーが驚いたように聞いてくる。


 「うん。魔法石は僕達に魔力を供給した時に、僕にだけかけらをを入れておいてあったらしい。僕が魔力切れで倒れた原因はさっき巨大『エネミー』と戦った時に使った『フェーズチェンジ』だ。その魔法は体に大きな負担 があるらしい……だから、魔力量を増やしたいんだけど、それには結構時間かかるみたいだからさ、僕と僕の周りの時間の進みだけを早くしてほしいんだ」


 すると、レミは少し考えて、


 「それは可能。だけど……本当に大丈夫?」


 と聞いてきた。


 「ああ。ウリエースの厄災……それを止めるにはまだ力が足りない。僕の取り柄は近接戦闘だけだからね。それを極めよう、ってわけ」

 「……わかった。やってみよう」


 うーん、じゃあ、時間の進み具合は……早すぎてもダメだし、遅すぎても意味がない。ちょうどいい時間を 手く進めていかないといけない。


 「そうだな……君たちの時間で1時間、それで僕の1日が過ぎるぐらい、がいいかな」


またレミは少し考えて、


 「わかった、やろう。『タイム』」


 僕の周りをドーム場の光が包み込んでいく。


 「いつでも出られるようにしておいた。今の時間もわかるようにしてある。じゃあ……頑張って 」


 というレミの声が聞こえたところで僕は完全に光に包まれた。




 よし…始めるか。僕の世界の夜まで、あと10時間ほどだ。

 僕は光のドームの真ん中に胡座で座り、ルミネオルを構えた。そして、両手で強く握り込み、ルミネオルに全神経を集中させるため、目を閉じる。



 ………これは、思ってたより、キツイ!同じ体制をずっと続けるのは苦難を強いる。魔法石の言う通りだった…だけど、ここでやめたら負けだ。自分に勝たないと!



 …はあ…はあ…まだだ……集中だ…集中しろ!


 「これじゃ無理だな、これじゃ」


 「誰っ!?」


 いきなり前から声がし、目を開ける。僕の前に見知らぬ少年が立っていた。

 ここは…あれ? ドーム状の光の中じゃない…? じゃあここは一体…僕は無意識にルミネオルに手を伸ばした。 けど、何かにあたる感覚がなかった。

 ルミネオルが……無い! どこにいっちゃったんだ!?


 「君は誰……?」

 「ああ、俺? そっか、自己紹介がまだだったな、……よう相棒! 俺はルミネオルだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「オレ達も負けてられないな」


 ルーグスタがドームに消えるのを見送ったあと、オレは居ても立っても居ら れない気持ちになった。


 「そうだね。私もみんなの役に立てるようになりたい」


 レミもそれに同意する。


 「よし、俺達も特訓だ!」


 みんなで頷く。


 「ひとまず、『エネミー』を倒そう」


 『エネミー』を倒すことで、オレたちのレベルアップができるし、被害者も減るかもしれない。一石二鳥だ。


 「じゃあ、まずはあいつにしないか?」


 クラムがあの小さめの四足歩行『エネミー』を指差した。

 確かに、あれなら比較的簡単に倒せ…

 いきなりその『エネミー』後ろ足で立ち、目からビームを発射した。


 「「うわわわっ!?」」


 間一髪でそれを避ける。そのビームは遠く後ろにあった山を吹っ飛ばした。


 や…やばい……やっぱり見た目で判断しちゃいけないのは人だけじゃないみたいだ……


 「くそ…完全にマークされてるぜ……」

 「今の攻撃には溜めが必要らしい。今のうちに!」

 「よっしゃ!ここは俺がやるぜ! 『カマイタチ』!」


 クラムが放った空気の刃が『エネミー』を切り裂い...てない!?

 コイツ…強い!

 また『エネミー』が後ろ足で立った! あのビーム攻撃が来る!


 「ヤバいっ、『キャンセル』!」


 当たったら一発アウトのリアル破壊光線をオレの魔法が打ち消していく。


 「!? ぐわっ!!」


 オレの魔法では消しきれず、オレはまともにそのビームを受けた。そのまま吹っ飛ばされる。


 「ユリバー!」


 レミが走り寄ってくる。


 「大丈夫!?」

 「ああ…なんとか大丈夫……」


 消しきれなかったとはいえ威力はかなり殺せたようだ。目立つ傷もない。まあ、全身痛いけど。

 頭をさすりながら立ち上がってもう一度『エネミー』に向き合う。 ん? 『エネミー』が何やら力をためている。


 「させるかっ! 『フレイム』!」


 炎が『エネミー』を包み込む。だけど、まるで効いていない。

 何をする気なんだ…? コイツ……


 「ヴヴオオオオ!!!!!」


 さっきまで小さかった『エネミー』がどんどん大きくなっていく!?


 「うわわわわ……」

 「なんだありゃ!?」

ついに、その『エネミー』はざっと見て 30 メートルほどの巨大『エネミー』となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「君が…ルミネオル?」


 僕は目の前にいる、ルミネオルと名乗った少年に話しかけていた。


 「そ。お前、まさか知らなかったのか? 剣には、実は自我があるんだ。それで、使い手を選ぶ。んで、俺はお前を選んだ」


 よくわからない世界だな……


 「で、使ってもらって思うんだけど、お前、無駄が多い」


 ごふっ……今の言葉が深々と胸に突き刺さった。


 師範にもよく言われることじゃん……


 「そりゃまあ、数百年前のヘッタクソな奴らと比べりゃだいぶマシだけどさ、勝手に暴れて勝手に疲れるのって、馬鹿馬鹿しいじゃん?」


 それは確かに……


 「って訳で、俺が直々に指導してやる、ってことだ」


 なるほど。使ってもらう側から教えて貰えば、効果はもっと高くなるね。


 「よろしくお願いします」

 「おし! んじゃ、これ」


 ルミネオルから何かを投げてよこされた。


 「これは...…木刀?」

 「そそ。最初っから真剣だったら、お前すぐに死んじゃうからな」


 まあそりゃそうですよね……


 「さ、かかってきな」


 ルミネオルが構えの姿勢をとる。


 「やあっ!」


 ルミネオルに向かって木刀を振りかざし、突っ込む。


 「やっぱり無駄が多い! 遅いぞ!」


 あっさり躱され、手痛い一撃を食らった。


 「俺は手加減が苦手だからな、下手すると殺っちゃうぞ」


 あーいてて……


 「さあ、まだまだ来い!」


 なんとか持ち直し、 もう一度ルミネオルに向かう。


 「ハアッ!」


 木刀を振る。難なく受け止められた。


 「まだまだだなぁ。出直してこいっ!」


 そのまま一閃。僕の体は飛ばされていった。


 「あ、ちょっとお前の魔力量増えてるから。そこんとこよろしく」


 その声を聞いて、僕の意識は途切れた。



 目を開く。

 光のドームに戻ってきたみたいだ。

 ルミネオルは……ある。そこに置いてあった。

 ちょっと試してみるか。


 「『フェーズチェンジ•切斬け…』うわあっ!」


 いきなり弾けたような強い衝撃を手に感じ、思わずルミネオルから手を離してしまった。


 「なるほどね……ルミネオルに認められるまでこれは使えないってわけか」


 それなら練習を続けるしかない。

 そうだ、時間は…

 ええっ!? 日にちが変わってる!?もう夜明けから5時間経ってるよ!

 まあ、いいか。向こうではまだ1時間も経っていない。

ちょっと鍛えるか……

 と、いうわけで、いつも剣術専攻でやっている筋トレを今回は5セットやってみた。



だーっ! キツイ! 休憩を挟みながらとはいえ5セットは辛い……でも、これぐらいやらないとルミネオルに認めてもらえない……



 次は素振りだ。


 『ダッシュ』を使った状態で何度もルミネオルで素振りをする。『ダッシュ』も強化していきたいからね。

 よし、これで少しは進歩したはずだ!

 もう一度胡座で座り、ルミネオルを両手で握って精神を集中させる。



  昨日よりかはきつくない。成長しているな。


 「そんなに簡単にいくもんじゃないぞ」

 「うわあっ!?」


 心を読まれてた!?


 「君って人の心を読めるの?」

 「いや、俺を握っている手から流れ込んでくるんだよ。それもあまり良くない証拠。剣士は普通感情をあまり面に出さないからな」


 そうなの…そんなことは剣術専攻でも教えてくれなかった……


 「ま、昨日よりかは鋭さは増してたけどな。でも、まだまだだね。まあ良いや。始めるか」


 そのまだまだなところを知りたかった……

 木刀を構え 、『ダッシュ』を使う。


 「さあ、来い!」


 木刀でルミネオルを斬りつける。

 避けられた! 攻撃が来る!

 回避っ!

なんとか横薙ぎに振るわれた木刀をしゃがんで避けた。


 「おお、俺の一撃を避けるとは。でも、それで隙が生まれたねぇ!」

 「あでっ!」


 思いっきり燕返しを食らった……


 「くうー……」

 「ほらほら、どうした? 成長したんじゃないのか?」

 「う、うおお!」


 『ダッシュ』を全力で使い、ルミネオルに向かって走る。

 ガッと木刀と木刀のぶつかる音が響く。


 「おお、昨日よりかはいいね」


 ここから3連撃!

 全ていなされてしまった。


 「成長していることは認めるよ! あとはどんどん強くなるだけだ! んじゃ、また明日、というわけでっ!」


 木刀で殴り飛ばされた。僕の意識は強制的にシャットダウンした。



 「っ! はあ…はあ……」


 僕はまたドーム状の光の中に戻ってきていた。

 なんか 、 目覚めが悪かったな……

 昨日と同じく、日にちが変わっていた。

 よし…もっと自分の技を磨くぞ! ……ん? 何か置いてあるよ?


 『作っておいた。これを食べて頑張って』


 そこには、おにぎり4つとその手紙が置いてあった。

 レミが作っておいてくれたのか……

 そういえば、この2日間何も食べてないな。

 と、思った瞬間、お腹がぐぅぅと鳴った。

 忘れてた...…

 と、いうわけで、一旦特訓を中止し、おにぎりを頬張った。

 お、おいしい……おにぎりを食べたのはいつぶりだったっけ。



 よし、お腹もいっぱいになったところで特訓再開だ!




 剣術専攻セットを5回やり、『ダッシュ』を使いながら素振り。その後、ルミネオルに挑む。それを7回繰り返したけど、一向にルミネオルには勝てなかった。因みにおにぎりはこっちの時間で2日に1回置いてくれていた。


 よし、今日も準備万端だ!

 剣術専攻セットを6回やり、『ダッシュ』での素振りをいつもの1.5倍やった。毎日それをやっていたおかげで体力もついた。

ルミネオルに全精神を集中させる。



 「よっ、今日も会ったな」

 「今日は勝つよ」


 ルミネオルは少し感心した様子で 、


 「おお、目つきが変わったなあ。よし、メニュー変更だ」


 すると、ルミネオルは真剣を渡してきた。


 「これって……」

 「そ。ちゃんとしたマジもんの真剣さ。今のお前ならいけるだろ」


 いけるかな…今の僕に……

 いや、ルミネオルに認められるためだ。やるしかない! 


 「よし、やろう!」

すると 、 ルミネオルは頷いて、


 「よし、準備は OK だな。じゃあ、今回は俺から行かせてもらうぜ」


 と、ものすごい速さで僕に向かってきた。

 振るわれた真剣を受ける。

ぐっ…やっぱり強い……


 「さあ、間違えて食らうと死んじゃうぜ!」


 剣と剣が何度も交差する。その度に火花が散る。


 「楽しいねぇ、こうやって戦うのは!」


 命懸けの戦いなのに!? と、思ったが、自分も笑っているのに気がついた。

 『ダッシュ』を全力で使う。


 「ハアアアアッ!」


 僕の剣がルミネオルの剣を弾く。初めてルミネオルが隙を見せた! 

 僕はそれを見逃さず、無駄のない動きでルミネオルに剣を…

 突き刺した。


 「ゴホッ……」


 ルミネオルが血を吐く。


 「……へへっ 、 やるじゃん、合格だ。お前、よくやったな」


 ルミネオルが僕に微笑みかける。


 「でも、血が……」


 すると、ルミネオルは自分を見て、


 「ああ、これ? 大丈夫。俺は今からお前の一部になる。お前が俺を倒した、というのがスイッチになってお前の意識に同化する、っていう仕組みになっている」


 やっぱり仕組みがよくわからない……


 「じゃ、そういうわけで、これからもよろしくな、相棒」


 ルミネオルが光り輝く。そのまま彼は光の粒子になり、僕に吸い込まれていった。



  ……目を開ける。そこは光のドームだった。

 ようやく認められた……

 ん? ポケットから魔法一覧が出てきた。 そこには、『ダッシュ』が『ブースト』に変わっている 、 ということが記されていた。 そういえば、『ダッシュ』の練習をずっとやっていたっけ。 さあ、ここから出て、みんなに成長したところを見せよう! 

 僕は光のドームから足を踏み出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「まずいぞ……どうする?」


 俺達は巨大化した『エネミー』と対峙していた。


 「どうするもこうするもないよ! 早く倒さないと……」

 「ガアアオオオオオ!!!」


 『エネミー』が雄叫びを上げる。すると、『エネミー』の口から火球が大量に飛び出し、地面に降りかかる。


 「熱いっ!」


 辺りは一面火の海だ。


 「避けてっ!」


 はっ!

 我に帰り 、『エネミー』の踏みつけ攻撃を避ける。


 「くそっ、『ウォーターブレード』!」


 ……ダメだ、やっぱり効いてない……


 「ギャアオオオ!」


 俺を狙った腕による薙ぎ払い攻撃。

 避けられねぇ……

 意味があるのかわからない受け身を取ろうとしたとき、巨大『エネミー』の動きが、止まった。


 「なっ!?」

 「私の力で時間を止めた! 今のうちに逃げよう!」


 確かに、今の俺たちじゃこいつは倒せない。

 俺達はルーグスタのいる洞窟に戻った。


 「あー死ぬと思った……」

 「助かったぜレミ…っておい、大丈夫か?」


 レミの方を見ると、顔が真っ青だ。


 「流石に厳しいかも……」


 そうか。今はルーグスタに魔法を使っている最中。離れた場所で魔法を同時に使うのは負担が大きい、ってことか。


 「ちょっと休む……」


 と、岩壁に座り込んだ。


 「そういえば、ルーグスタってご飯いるのかな?」


 『ウォーター』で出した水を飲みながらユリバーが尋ねる。 魔法ってそんな使い方するためにあるんじゃないんだけどな……って、


 「よくないぞ! ちょ、俺ら食糧持ってないけど、どうする?」

 「じゃあこれを使って、『プットアウト』」


 レミが『プットアウト』を使う。何があるんだ? 

 出てきたのは 、 真っ白な米だった。


 「これは……」

 「これでおにぎりを作る。ルーグスタも喜ぶはず」


 レミが立ちあがろうとする。だが、すぐにバランスを崩したのか、また座り込んでしまった。


 「お前は休め。俺達が作る」


 まずは米を炊くところからだ。

 『ウォーター』と『フレイム』を同時に使用し、空中で米を炊く、とかいうとんでもない方法で料理をすることになった。

 まあ、うまくいったからいいだろ!

 あとはいい感じに握って終わり。レミも少しは手伝ってくれた。


 「手紙も書こう」


 手紙はレミが書いた。

 よし、これで完璧だ!

そして、これを適当な受け皿になりそうなものに乗せて、スライディ〜ング。


 「2時間ごとに作らなきゃね」


 そうだな。ん? ちょっと待てよ……


 「それだとルーグスタが2日間に一回しか食べられないことになるけど……?」


 すると、ユリバーは人の悪い笑みを浮かべ、


 「まあ、修行なんだからいいじゃん?」


 や…やべえ、コイツやべえ……容赦がないぞ……


 「でも、どうする? オレ達強くなれないけど」

 「いや、強くなってる。魔法一覧を見て」


 レミの言われたとおりに魔法一覧を見る。すると、


 「おお、『キャンセル』が『リフレクト』に変わってる!」


 ユリバーのは適性魔法が強化されたみたいだな。どれどれ、俺は……


 「攻撃魔法が増えた!」


 えーっと、『ブラスト』•『サンダー』•『ヴェリヴルム』か。最後の一個がよくわからないけど、強そうだ。


 「もう一度あいつに挑もう」

 「そうだね」

 「じゃあ、私も……」


 レミはなんとか立ちあがろうとする。だが、力が入ってないみたいだな。


 「いや、お前はここに残れ」

 「でも……」

 「ルーグスタが出てきた時、誰もいなかったら寂しいだろ?だから、お前に出迎えを頼むんだ。どうだ?やってくれるか?」


 レミは少しためらったあと、


 「……わかった。無理はしないで」


 と言った。


 「よし、じゃあ、行ってくる」

 「また後で!」


 と、俺とユリバーはあの『エネミー』のリベンジへ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「みんな、ただいま! 戻ったよ! ……って、あれ?」


 光のドームから出てきた時、いたのはレミだけだった。しかも、ぐったりと座り込んでいる。


 「どっ、どうしたの?」


 「疲れた……」


 そうか……レミは僕が修行している間ずっと時間の流れを変えていたんだ。多分相当な魔力消費だっただろうね。


 「ごめんね、無理をさせちゃって」


 すると、レミは首を横に振って、


 「強くなるのが大事。それで人が救えるのなら。私も全力で応援するよ」


 そうか……嬉しいことを言ってくれるね。

 ところで……


 「ユリバーとクラムはどうしたの?」


 そう聞くと、レミは洞窟の外を指差して、


 「外で特訓してる。結構ピンチらしいけど」


 と言った。

 ええっ!? ピンチ!? 僕が特訓をしている間に何があったんだ!?


 「じゃあ、僕は行ってくるよ。君はそこで休んでいてくれ」


 レミはこくりと頷いた。

 新魔法『ブースト』を使いユリバー達のところへ急ぐ。

 おお、かなり速い、これならすぐに着きそうだ! 



 洞窟から少し離れたところに2人はいた。辺りが火の海だ。かなりの激戦だったんだろうね。


 「2人とも 、 助けに来たよ!」

 「ルーグスタ 、 うまくいったんだな!」


 ユリバーが顔を輝かせる。


 「よし、3人であのデカブツを倒しちまおうぜ!」


 ユリバーとクラムがとある方向を睨む。

 見てみると、前戦った巨大『エネミー』の1.5倍はありそうな大きさの『エネミー』がいた。


 「よし、行くよ、ルミネオル! 『フェーズチェンジ•轟斬剣』!」


 ルミネオルが光り輝き、形が変化する。ルミネオルは長く、分厚くなった。 轟斬剣メギルネオルに『フェーズチェンジ』した。この剣は重くなる代わりに攻撃力と破壊力が増す。で も、今の僕なら扱えるはず!


 「やああっ!」


 振り下ろされた『エネミー』の腕をメギルネオルで迎え撃つ。 ものすごい衝撃と共に、腕とメギルネオルがぶつかり、『エネミー』の腕が飛んだ。


 「『ブースト』!」


 最高出力で『ブースト』を使い、『エネミー』の頭上に飛び上がる。


 「はああああ!」


 振り下ろした剣の勢いとメギルネオルの重さを全て攻撃に捧げる。 『エネミー』は真っ二つになった。 メギルネオルがルミネオルに戻る。僕はルミネオルを鞘に収めた。 ユリバーとクラムが走り寄ってくる。


 僕は振り返り、こう言った。


 「さあ、レミのところに戻ろう。レミが待ってる」




 「倒せた?」


 洞窟に着くなり、そう聞かれた。まあ気になるのも当然だよね。


 「もちろん勝ったよ。新しい力でね」

 「瞬殺だったな……やっぱりルーグスタって怖い」


 ユリバーが若干引き気味だ。


 「ははは、大丈夫だよ、もうあの時みたいにはならない。ルミネオルに認められたからね」


 僕はルミネオルを掲げてみせる。


 〈でもな、調子乗ってるとすぐにまたああなるぜ〉


 「うわあっ!?」


 いきなり頭の中に声がした。


 「どうしたんだ?」


 クラムが心配そうに聞いてくる。

 ああ、みんなには聞こえてないんだ。


 「い、いや、なんでもない……」


 ちょっと、ルミネオル、いきなり話しかけないでよ! それよりも、一体どういうこと?


 〈さっきも言ったじゃないか。俺がお前の意識の一部になる、って。つまりそういうことだよ〉


 つまりどういうことだよ……ルミネオルって僕に似て言語ができないのかなぁ。


 〈いやーでもあのメギルネオルはよかったなあ。使われててめちゃくちゃ気持ちよかった〉


 うーん 、 今の表現は誤解を招くから避けた方がいいね。


 〈本当のことを言っただけさ。あれはよかったぞ〉


 まあ、それを言われるのは嬉しいことだね。





 「よし、じゃあ冒険を続けようぜ!」


 次の日の朝、クラムが猛々しく声を上げた。

 そうだね。ウリエースの厄災を止めるためにも僕達は進み続けなければいけない。


 「さあ、行こう!」


 僕達は洞窟から出るのだった。

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