第一幕

 「そ…そんなっ……父さん、母さん……」


 どうしてこんなことに!?

 クラムなら何が起こっているかわかるか!?

 パニックを起こしていて働いていない頭のままクラムの家まで走る。すると、クラムの家でも同じことが起こっていた。


 「どう言うこと……? 一体、どういうことなの……?」

 「わからねえよ……親父ィ……」


 ユリバーは!? いや…ユリバーの両親は今も仕事中のはず。そっちは大丈夫だろう。それにしても、なんでこんなことに……


 「……ん? おい、ルーグスタ、あそこに何か書いてあるぜ」


 本当だ。あれは……?


 L、A、S、T……


 「「ラ…スト……?」」


 最後……?


 「どういう意味だ……?」


 今、まともな思考をできるのはアイツしかいない。


 「ユリバーのところに行ってみよう!」





 一旦ユリバーと合流し 、 状況を説明する。


 「マジかよ……ん? ちょっと待てよ、そういえば、こっちも本当はもう帰ってくる頃なのに、全然帰ってこないんだ…まさかっ!?」


 教授の職場へ向かう。




 着いた頃にはもう遅かった。


 「ああ……父さん……」


 ユリバーがその場に崩れ落ちる。


 「おい、ここにもあるぜ……」


 本当だ。ここにもLASTの印がある。

 LASTって、どう言う意味があるんだろう……本当に「最後」 という意味なのか、何かの名前なのか……


 「魔法石のところに行ってみよう」




 「一体、どういうことなんだ!? って、え……?」


 魔力石のところに着いた僕達が見たものは、粉々になった魔力石だった。


 「何が起こっているんだ……」


 僕達が初めてここに来た時からわからないことだらけだ。

 巨大虫、魔法、3人の両親の突然死、LASTの印、粉々になった魔法石……


 「くっ…俺のせいだ……俺がこの洞窟に行こうと言ったせいで…くそっ……」

 「自分を責めてもしょうがない。原因を探そう」

 〈ラスト…魔王ラストです……〉

 「「「はっ!?」」」


 魔法石!? 生きていたの!?


〈私の力ももうすぐ無くなります……そうすればこの地に『エネミー』が溢れ出るでしょう……そうなる前に、貴方達に知らせておかなければならないものがあります……魔王ラストとウリエース……この世に『エネミー』を送り込んだ張本人です……私を破壊したのも彼らの仕業です……彼らを封印すれば、きっと……〉


 ここで魔法石の声は途切れた。


 「マズいぞ、このままじゃ『エネミー』が街に来る!」

 「どうする?」

 「結界を張ろう!」


 僕がそう言うと、クラムとユリバーが僕を見た。


 「どうやって?」

 「3人で力を合わせよう! ここにある全ての魔法石を集めるんだ!」

 「なるほどね……それならやれそうだ!」

 「よし、魔法石を集めよう!」


 こうして、僕達の魔法石集めが始まった。





 「お、ここに魔法石がたくさんある」


 僕はそれを採取しようとした。けれど……


 「!? ハッ!」


 気配のする方をルミネオルで斬り払った。すると、僕に飛びかかろうとしていた巨大虫がスパッと切れた。


 「ふう、そう簡単には採らせてくれないみたいだね」


 僕が振り向く。僕の視界には沢山の巨大虫が僕を取り囲んでいた。 僕は任務を遂行するためにルミネオルを構えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「おお、沢山あるじゃねえか」


 俺、クラムは一面青く輝く魔法石のところにいた。

よーし、これを取って……


 「うおっ!?」


 いきなり糸のようなものが飛んできた!? なんとかそれを避けて糸が飛んできた方を見る。そこには、あの大きなクモがいやがった。他の連れもいるみてえだ。


 「はは〜ん、原因はアイツだな〜」


 俺は魔法一覧を起動し、良い感じの攻撃魔法を横目で確認する。


 「よし、人生一発目の魔法だ! いくぜ!『フレイム』!」


 俺は一番近くにいるクモ野郎に『フレイム』を放った。

巨大クモが炎に包まれ、のたうち回る。

 へっ、もう遅いぜ。

 他の虫共も俺に飛びかかろうとしてやがる。

 一体一体をやっていてもキリがねえな。

 よし、それなら...…


 「『アイスペドル』!」


 大量の氷の礫が虫共の体を穿つ。


 よっしゃ、殲滅完了!

 俺は、魔法石集めを再開した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「あ、あった!これだ!」


 オレ、ユリバーはやっとのことで魔法石を見つけた。


 結構たくさんある。ひとまず集めよう。


 「ん? なにやら殺気が……」


 振り向いてみると、あの巨大虫がオレを見て涎を垂らしていた。今にも飛びかかってきそうだ。


 「ひええええ! 出たあ!」


 オレが後ずさろうとするが、後ろは岩壁だった。

逃げ道がない……

巨大虫がオレに飛びかかる。


 「うわっ、来るな!」


 オレが巨大虫に両手を突き出す。すると、いきなり勢いを失ったように虫がその場で着地した。


 「えっ? どう言うこと?」


 虫も困惑しているみたいだ。すると、いきなり何かを思い出したようにオレからバックステップで距離を取 った。

 ああ、そっか…普通そうするんだ……って後ろは岩壁なんだった。

 もう一度虫がオレに飛びかかってくる。 オレはもう一度虫に手のひらを突き出した。すると、また勢いを失ったように虫がその場に着地した。 おお、使えるぞ! って、それじゃキリがないか。 巨大虫に手のひらを突き出したまま攻撃魔法を確認……

 って、少なっ。5個しかないのか……オレは2人のサポー ト役ってことか……


 「うー、でも今はこれでやるしかない。くらえ! 『ウォーターショット』!」


 水が勢いよく流れ、巨大虫に当たる。でも、少しのけぞるだけだった。


 「ええっ!? ダメじゃん!」


 ああ、オレはこのまま魔力石を取れずじまいなのか……

と、思ったその時、巨大虫が一刀両断された。


 「へっ?」

 「ユリバー、 大丈夫かい!?」


 ああ…オレの親友、ルーグスタがやってきてくれた!


 「大丈夫だ。ありがとう」

 「仲間なら助け合うのが当然だよ。さあ、魔法石を集めよう」


 そして、協力して魔法石を採掘し、あの部屋へ戻るのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ふー、このぐらいでいいかな?」


 今、僕達の前には魔法石の山があった。 結構な量が集まったね。これだけあればいけそうだ。



 「よし、みんなやるよ、いいかい?」

 「俺はいつでも!」

 「オレもOK」


 2人も準備ができたみたいだ。


 僕達3人が魔力を練る。僕達と魔法石が光に包まれる。 まだ一度も使ったことがない、しかも魔法一覧にもない魔法だ。成功する確率は1割もないかもしれない。でも、僕達の街を救えるのなら、なんだってやる。


 「さあ、行くよ!」


 2人が力強く頷く。


 「「「『グレート•マジック•バリア』!!」」」


 魔法石が宙に浮き、粉状になる。そのまま天井に吸い込まれていった。

 感覚でわかる。成功だ!


 「やったよ、オレ達がやったんだ!」

 「はー、疲れた〜」


 クラムがその場に座り込む。

 よかった……これなら500年は大丈夫だろう。


 僕達が安心していると、


 「ふっふっふ……この程度の結界を張った程度で意味はない」


 空中に浮いているのは、黒い影?


 「誰だっ!?」

 「俺様はラスト。今ここでお前達を叩きのめすのも良いのだがな……別にいいだろう。もうじき、ウリエースによる厄災が始まる……お前達は絶望を見るだろう……ハーッハッハッハッ!」

 「おい、待て!」


 ユリバーが止めようとしたけど、ラストと名乗った影は消えていってしまった。


 「アイツが俺達の親を殺したのか……?」

 「そうみたいだね……」


 ウリエースの厄災……一体なにが起こってしまうんだろう…


 「とにかく、どうしよう?」

 「『エネミー』を倒すしかねえだろ」

 「お金は?」

 「家にあるんじゃないかな?」


 特にユリバーの家にはたくさんありそうだ。単なる偏見だけどね…


 「えー、家から取ってくるってこと?なんか嫌だな……」


 うーん、その気持ちもわかるけどね……


 「そうしないと、僕達が生きていけないよ」

 「そっかあ……しょうがない、持っていこう」

 「よっしゃ、じゃあ、明日ユリバーの家で集合だ!」


 そういうわけで、各家庭の全財産を寄せ集めることになった。



 家に入ると、腐った血の匂いが僕の鼻を突いた。


 「!? ..……うっ...…」


 不快感に耐えきれず、便所に駆け込む。


 「くっ…はあ、はあ……」


 胃の中のものを全てひっくり返し、その場に倒れ込む。 血ってこんなに早く腐るのか…

 ダメだ…ここには長く居られない。 なんとか吐き気を堪え、リビングに入る。 当の本物は、さらに刺激が強かった。蝿が飛び、強烈な匂いが僕を襲う。 込み上がってくる胃液を押さえ込み、お金を回収する。 そして、逃げるように家から飛び出した。 こんなところで夜を明かせるはずがない。ユリバーの家に行こう。


 「お前も来てたのか?」


 結局、既にユリバーの家には3人とも揃っていた。


 「あたりめえだろ。いくら親とはいえ死人と一緒に寝たくはないね」


 そりゃそうだよね。そこにいるだけでも不快なのに……

うっ、また吐き気が……

「2人とも、ちょっとごめん……」


 ユリバーの家の便所の前に立つ。


 ふう、なんとか落ち着いたみたいだ。


 「ルーグスタ、お前 、 本当に大丈夫か?」


 クラムが僕の背中をさすってくれた。


 「ああ…ありがとう…...もう大丈夫だよ」

 「くっそ...許せねえな、あのラストとかいうやつ……」


 クラムが宙に浮いているラストを想像しているのか、空を睨む。


 「そうだね。どうにかしないと、また犠牲者が出るかもしれない」

 「じゃあ、とりあえず明日に備えてもう今日は寝ようぜ」

 「わかった」


 と、いうわけで、僕達はユリバーの家で一夜を明かすことになった。


 「さあ、出発だ!」


 クラムの掛け声に合わせて僕達は家を出た。その時、僕達は異変に気がついた。


 「「「空が赤い……?」」」


 夕方の時みたいなオレンジ色じゃなくて、もっとこう…禍々しいというか……濁った、嫌な感じのする色だ。 語彙力が終わってる…もうちょっと語学を勉強しておけばよかった。って、そんなことを言っている場合じゃない。

 さらに不思議なことがある。僕達3人以外の人たちには赤い空が見えていないみたいだ。 こんないつもと違った空なのに、全く違和感のないように過ごしている、というのがその証拠だ。 つまり、魔力を持った僕達にしかわからない、ということになる。


 「ウリエースの厄災……それが近いってことなのか……?」

 「そうだねユリバー。早くそれを止めないと」

 「早く行こうぜ」

 「うん。でも、クテレマイスは広い。君達に身体強化魔法をかけるよ」


2人に『ダッシュ』をかける。


 「どうかな?」

 「おお、力がみなぎってくる!」

 「うん。いいね!さあ、みんな、行こう!」


 僕達はクテレマイスを出るため走り出した。



 数時間走り続けていると、だんだん建物も少なくなり、ついには平原のみになった。


 「もうすぐで結界の範囲内だ。気を引き締めて行こう」


 遠くを見ると、あった。透明な薄い膜のようなものがある。

 ここを出ると『エネミー』がいるのか……


 「みんな、準備はいいかい?」

 「できてるさ!」

 「バッチリだぜ!」


 よし、突入だ! 僕達は勢いよく結界を飛び出した。



 うーわ、沢山いるね。 結界を飛び出してから数十分走ったところで『エネミーポインター』を使ってみたところ、大小さまざまな 『エネミー』がいたんだ。大きいもので10メートル越え、小さいものでネズミぐらいの大きさがあるんだ。


 「よし、見つからないように行くぞ 」

 「あー、クラム、それは無理っぽい」


 僕がとある方向を指差す。巨大な『エネミー』が僕達を思いっきり見ていた。


 「ひええ! 見つかったあ!」

 「しょうがねえな。戦うか!」


 そうだ。僕達は『戦士バトラー』だ!


 鞘からルミネオルを抜く。


 「よし、『ダッシュ』!」


 思い切り足を踏み込み、ジャンプ。『エネミー』の頭上まで飛び上がる。


 「ハアアッ!」


 そのままルミネオルを振り下ろす。


 「行けっ!」


 カァン!


 「えっ!?」


 斬れてない!?

 ルミネオルは硬い鱗に弾かれてしまった。

 手が!斬れなかった時のことを頭に入れておくんだった!


 「ルミネオルが効かないって、どうするんだよ!」

 「グオオ!」


 考える間も無く、巨大『エネミー』は口を開け、灼熱の炎を吐いた。そこにユリバーが割って入る。


 「静まれっ! 『キャンセル』!」


 ユリバーが炎に手を突き出す。すると、炎は空中で掻き消された。


 「ありがとう、ユリバー!」


 「おうよ! 協力するのがオレたちさ!」


 ユリバーが僕にガッツポーズをする。


 「チッ……面倒なことになってきやがったぜ……」


 今ので反応したのか、周りの『エネミー』が寄ってきたみたいだ。


 「ここは俺たちでどうにかする! お前はあのでけえのをやれ!」


 クラムがそう言ってくれている。それに応えないわけにはいかない! でも、どうする? 僕には攻撃魔法が少ない。それにルミネオルも効かない……

 一体、どうすればいいんだ……! 知らぬ間に拳に力が入り、ルミネオルを握りしめていたのかもしれない。いきなり、ルミネオルが光り輝いた。


 「なんだ……?」


 すると、ひとりでに魔法一覧が僕のポケットから飛び出してきた。


 「ん……?」


 画面が開く。そこには前までなかった『フェーズチェンジ』というものが追加されていた。


 「『フェーズチェンジ』?」


 攻撃を避けながら横目で説明を確認する。 それはルミネオル専用の魔法らしく、場面に合わせてさまざまな効果をつけることができるらしい。 今はもっと鋭い切れ味が必要だ!なら……


 「『フェーズチェンジ•切斬剣』!」


 ルミネオルの刀身が光り輝き、変形する。変形したそれは片刃になり、刀身が真っ直ぐになった気がする。


 「いくぞ!」


 巨大『エネミー』に突撃する。


 まずは動きを封じよう! 足をめがけて切斬剣、カルミネタルを横薙ぎに振るう。すると、硬い鱗はカルミネタルを受け入れるようにスルッと斬れ、僕は『エネミー』の足を切り落とした。


 「ギャオオオオオ!?」


 巨大『エネミー』はバランスを崩し、倒れ込んだ。

 よし、うまくいった! あとはトドメだ!

 巨大『エネミー』の首にカルミネタルを振り下ろす。冗談のようにあっけなく巨大『エネミー』の首が落ちた。


 「やったあ!」


 切斬剣カルミネタルがルミネオルに戻った。なんか、とても疲れた。 ユリバーとクラムが僕の方に歩いてきた。


 「あのさ……途中から見てたけど、ルーグスタ、なんか怖かった…ん」

 「ああ…当たり前みたいに首切り落としてたしよ……」

 「そうかな? 僕は必死だったけど。しかも、首を落とせば確実に殺すことができるからね」


戦士バトラー』たるもの、それぐらいは常識だと思ってたけど……

 それにしても、さっきから頭が痛い……一体何が……


 「やっぱ……おかしいよルーグスタ……お前、どうしちゃったんだ?」


 本当のことを言おうとしたけど、僕の口から出てきたのは考えていたものは全く違うものだった。


 「僕が? おかしい? ははっ、まさか! 僕は全然大丈夫だよ。まあ、少し疲れたぐらいかな?」


 「おい…ルーグスタ……お前……」


 う…もうダメだ……意識が朦朧とする……


 「さあ、どんどん『エネミー』を狩ろう。それでラストを……」


 そのまま僕の視界は暗転した。


 「おい、ルーグスタ、ルーグスタっ!?」


 僕の意識が途切れる直前に聞こえたのはそれが最後だった。

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