デフィートエネミーバトラーズ0

イードラ

初幕

  僕、ルーグスタ•イスパードはクテレマイス第3高等教育場の2次生。ちなみに学課後活動は剣術専攻だ。


 「よお、ルーグスタ。今日も元気か?」


 「やあ、ユリバー。また勝手に君は教授の帽子をかぶっているんだね」


 僕の親友、ユリバー•レイバスの父親、テルガー•レイバス教授はクテレマイス特別教育場の先生をしていながらクテレマイスの財政の仕事もしているという凄い人だ。ユリバーはそれに憧れているらしく、いつも教授の帽子を隠れて持ってきては教育場でかぶっているんだ。


 「良いじゃないか。オレも将来は父さんみたいな仕事をするんだ ! 」


 「ははは、お前には無理だろ」


  声のする方を見てみると、ムードメーカーのクラム•ベイタだ。祈りを捧げて天気を操るという家系に生まれた一人っ子だ。


 「おい! 無理って言うな!」

 「いや、だってお前の成績を見ろよ。明らかに無理だろ」

 「やめろぉ! 次は頑張るんだぁ!」


 はぁ。いつもこの会話を聞いていると頭が痛くなる。どうにかならないのかな……


 「それならルーグスタ、お前の成績はどうなんだ!」


 これもいつものパターン。1週間に必ず一回はユリバーに聞かれる。次のテストが来るまで成績は変わらないって言うのに。


 「前言ったはずだよ。君よりも上さ」

 「な? 言っただろ? お前には無理だって」

 「ああ…認めないぞ! みとめないぞぉ……」


 そのまま机に突っ伏してしまった。これがルーティーンになっている。正直言って面倒くさい。


 「はいはい席についてー、授業を始めますよー!」


 なぜかその時にちょうどタイミングよく授業が始まるのも決まったことなのだった。





 「よし! 授業も全部終わったことだし帰ろうぜ!」


 今日はこの3人全員の授業後活動がない日。こういった日はどこかに寄り道してから帰る、というのが決まりなんだ。


 「さあ、今日はどこに行く?」

 「今日はちょっと遠出してみないか?」

 「いいけど、どこへ?」

 「実は、ちょっと離れたところに洞窟があるらしいんだ」


 それは僕も聞いたことがある。クテレマイスから少し離れたエルという場所の大きな洞窟。とても不気味なためまだ誰も入ったことがないと言われている大きな洞窟のことだね。


 「でも、危ないよ。オレのお父さんもそこには行くな、って言ってるからな」

 「なんだ〜? 怖いのか? じゃあ無理は言わないから帰っても良いぞ?」

 「それならとても危険らしいから僕も帰…」

 「もちろんルーグスタは行くよな?」

 「ええっ!?」


 いつもこれだ……でもこう言われると断れない……


 「……わかったよ。行こう」

 「な? ルーグスタも行くらしいぞ」

「くっそぉ~ 、 しょうがないな、オレも行くよ」


 そんなわけで、全員で洞窟へ行くことになった。




 「ここが入口だね」


 僕達は大きな洞窟の入り口に立っていた。


 「やっぱり不気味だ……やっぱりやめといた方が良かったんじゃ……」


 確かに、不気味だね。中からいろんな音がこだましてくる。まあ、大体が水の流れとかの音なんだろうけどね。


 「大丈夫だろ! さあ、行こうぜ!」


 と、クラムが陽気に入っていってしまった。


 「おい、ちょっと待てよぉ〜!」


 と、ユリバーも急いでそれに続く。僕も入っていった。




 「やっぱり広いな」


 クラムの感嘆の声が洞窟内に反射して響く。

 ちなみにこの洞窟に来る前 、 手頃な木の枝を数本持ってきて松明にしておいたから明かりは問題ない。


 「ひえっ!? 何かがオレの首筋に落ちてきたあ!?」

 「水滴が垂れてきただけだろ」


 いや…違う。今まで水なんて少しもない。

ということはつまり……? 


 「クラム 、ユリバー、そこから離れて!」

 「「ええっ!?」」


 僕達がバラバラの方向に飛び退く。すると、何かが僕達のもといた場所に着地した。 そこを照らすと、大きなクモがそこにいた。ヨダレを垂らしている。


 「ななななななんだあれは!?」

 「わからない! とりあえず逃げよう!?」


 僕達は洞窟の奥の方へと逃げた。



 「はあ…はあ…このくらいで良いかな!?」


 巨大グモが追ってくる様子はない。これなら大丈夫だろう。それにしても、おかしいことだらけだ。さっき洞窟の中から音がこだましている原因が水の流れだ、と勝手に結論づけていたけど、水路はおろか水すらない。つまり別の理由だ。


 「そういえば 、 ここはどこだ?」


 クラムが周りを松明で照らす。


 「もう松明もいらないんじゃないか?」


 本当だ、明るい。岩壁に光る鉱石がある。今まで必死に逃げていたから気づかなかった。 それにしても、どうやって光っているんだろう? 

気になって、落ちている鉱石をいくつか拾ってみた。青色に輝いている。


 「とにかく一番奥まで行ってみよう」

 「そうだね」


 鉱石をポケットに入れて 2 人についていった。



 しばらく進むと、岩でできた大きな扉があった。


 「ここが一番奥みたいだな……」

 「そうみたいだね……」


 それにしても、いつ、どうやって作られたのだろう?


 「よし、開けてみようぜ!」


 クラムが扉を開けようとする。が、無理だった。

まあ、当然だろうね。身長の3倍ぐらいある扉が人間の力で開くわけがない。


 「な…な…な……」

 「どうしたんだユリバー、ってええっ!?」


 ユリバーとクラムが目を見開いて固まってしまった。

猛烈に嫌な予感がして、後ろを見てみると、僕達は沢山の大きなカブトムシ、クワガタムシ、クモに囲まれてしまっていた。

 いつの間に!? 虫は音を立てずに移動することが上手いと聞いたことはあるけど、こんな大きな虫達が気配なしで、さらに無音で近づいてくるなんて聞いたこともない! というかそもそもこんな大きな虫がいるということも聞いたことがなかったんだった! 後ろは岩の扉。逃げ道はもうない。


 「だからやめといた方が良かったのにぃ……」


 ユリバーの嘆きも知らないと言ったふうに大きな虫達が僕達に飛びかかる。

 マズい、このままじゃ! と、思った時、ポケットに入れていた鉱石が強く光り輝いた。すると、大きな虫達が吹っ飛ばされたんだ。


 「えっ?」

 「どういうことだ?」

 「わからない。とりあえず、この鉱石が助けてくれた、ということは確かだね」


 なんとか気を取り直したらしい虫がもう一度飛びかかってくる。まだ鉱石は光り輝いている。僕はその虫に手のひらを突き出した。すると、謎の力がまた虫を吹き飛ばした。

 おお、強いぞ、この力。

 僕が一歩踏み出すと、虫達はじり、と後ずさる。さらにもう一歩踏み出したところで、虫達は逃げ出していっ た。


 「ふう、助かったぜ……」

 「も、もう帰ろうよ〜」


 ユリバーが今にも出口に向かおうとする。


 「いや、まだあの虫達がいるかもしれないしこの扉が気になるね」


 扉の方に向き直る。


 「お前なら開けられるんじゃないか?」

 「こうだね。この石があればいけるんじゃないかな?」


 扉の前に立ち、鉱石を掲げる。すると、鉱石が光り輝き、扉が重い音を立てて奥に開いた。


 「おおっ!?」


 扉の奥には、今僕が持っている鉱石の何百倍もの大きさがある鉱石があった。


 「この洞窟にこんなものが……」


 近づいてみると、僕の鉱石がさらに強く光り輝いた。やっぱりどういう仕組みになっているんだろう。 すると、


 〈ようこそ。廃道ダンジョン最深部へ〉


 「「「うわああっ!?」」」


 いきなり声がした。しかも、頭の中に響いてくる。


 「だ…誰……?」


 〈申し遅れました。私は魔法石でございます〉


 「魔法石って、これのこと?」


 〈はい、そうでございます。今貴方達が見ているものです〉


 そういうことか。魔法石っていうんだね、これ。


 〈では、本題に入らせていただきますが、この世には『エネミー 』というものがいます〉


 『エネミー』!? 本題がいきなりすぎるし、そして内容が重い。


 〈ここの周辺では私の力で『エネミー』は寄って来ません。ですが、ここから遠く離れたところでは『エネミー』が猛威を奮っております。ですから貴方達にはその原因を探ることと『エネミー』を全滅させてもらいたいのです〉


 なるほどね……この魔法石の力が及んでいる範囲はクテレマイスとゲントン、ウェリアーレといったところかな。

 ちなみにゲントンというのは、クテレマイスの姉妹都市で、ウェリアーレというのは工業都市のことだ。


 「その『エネミー』ってのはどうやって倒すんだ? 」


 確かにそれは気になるね。


 〈『エネミー』というのはまず普通では倒せません。魔法というものを使います〉


 魔法!? そんなものが使えるの!?


 「で、魔法はどうやって使えばいいんだ?」


 〈そうでしたね。では、私に触れてください〉


 魔法石に触れる。


 〈そうしたら、『シンクロナイズ』と唱えてください〉


 「「「『シンクロナイズ』」」」


 すると、魔導石が光り輝き、僕達に吸い込まれていった。

 ……なんか不思議な感じだな。


 〈はい、これで貴方達は魔法を使うことができるようになりましたよ〉


 ふうん、魔法か……


 〈では、奥の部屋にお進みください〉


 奥の部屋なんてあったんだ……

とりあえず言われた通りに進んでみる。

 奥の部屋には、一本の剣があった。


 「これは……?」


 〈これは、斬剣ルミネオルです。数百年前にとある鍛治師がおりまして、その人の最高傑作なのだそうです。 しかし、その時には上手く扱える者がいなかったそうなのです。それゆえ、ここにそっとしまっておき、上手く扱える者がここへ来るまでここで眠っていた 、 ということになります〉


 ふうん、そういうことなんだね。


 「お前、剣術専攻なんだからいけるんじゃないか?」

 「そうかなぁ」

 「お前ならできる! いつもそうだっただろ?」


 いつもそうかどうかは別として、やってみるしかないね。

 僕はルミネオルの柄を掴み 、 持ち上げる。

 本物の剣を持ったのはいつぶりだろう。

 そして、僕はルミネオルで空を斬ってみた。

 不思議な感覚だ。初めて持ったはずなのに、なぜか手に馴染む。 すると、ゴゴゴゴゴ、という音がして、人型 (?) の石の彫刻がせり上がってきた。


 「これは?」

 〈試し斬り用のマネキンです。では、どうぞお試しください〉


 よし、やってやるぞ。

 僕はマネキンの前に立った。そして、


 「ハアッ!!」


 思いっきりマネキンをルミネオルで袈裟斬りにした。 すると、ルミネオルが通ったところからマネキンが斜めにズレた。そして、マネキンの上半分は重力に従って落ちた。


 「……斬れた」

 〈おめでとうございます。貴方は斬剣ルミネオルに選ばれた者です〉


 なんか僕、選ばれちゃったらしい。


 「おお、やったな!」


 あのねぇユリバー。選ばれるのは良いことかもしれないけど、選ばれる方も選ばれる方なんだよ。


 「でも、これ、どこにしまっておけば良いのかな?」

 〈それなら、これがございます〉


 いつの間に、高級そうな鞘が現れた。僕はルミネオルをそれに納めた。


 「これも嬉しいんだけど、こんなものを持ち歩いてたら治安維持部隊に捕まっちゃうよ」

 〈確かに、それは困りますね……では、こんなものはどうでしょう、ルミネオルを思い浮かべながら『プットイン』と言ってみてください〉


 「『プットイン』」


 ルミネオルを思い浮かべながらそう言ってみる。すると、ルミネオルが消えた。


 〈はい、これでオッケーですね!〉

 「いや、何がオッケーだよ! ルミネオルが消えちゃったじゃないか!」


 なんか天然なところが出始めてないかな……


 〈大丈夫ですよ! 今度は『プットアウト』と言ってみてください。もちろんルミネオルを思い浮かべながらですよ〉


 本当に大丈夫なのかな……

 ルミネオルを思い浮かべながら 、


 「『プットアウト』」


 と言ってみる。すると、空中にルミネオルが現れた。

掴んでみると、ちゃんとルミネオルだった。


 「ほお〜便利だな」


 クラムは感心した様子だ。


 「多分クラムにも使えると思うよ」

 「本当か!じゃあ、この鉛筆を…『プットイン』」


 すると、鉛筆が消えた。


 「おおっ!? 次は、『プットアウト』……」


 鉛筆が現れた。


 「すげえ! できた!」


 便利だね、これ。



  〈はい、それでは貴方たちには適性魔法を調べさせていただきます。1人ずつ、もう一度私に触れてください〉


 あー、あそこの部屋に戻らなきゃいけない感じね、これ。

 魔法石の部屋に戻り、まずは僕から触れる。


 〈では、始めさせていただきます〉


 どんな魔法に適性があるのか気になるな……


 〈……はい、貴方には身体強化、物体従属の適性がありますね。なかなか良いと思います〉


 なかなか良いって……基準がわからないからどれぐらい良いかわからないな……


 「じゃあ、次は俺で」


 クラムが魔法石に触れる。


 〈貴方の適性は……はい、天候を変更する魔法に適性がありますね〉


 天候を左右!? それってすごすぎない!?


 「おお、すごそうだ! ちょっと試してみようぜ! ……ってここじゃわからないか。後にしよう。ユリバー、 お前はどうなんだ?」


 ユリバーが魔法石に触れる。


 〈貴方は……相手の攻撃を打ち消す魔法に適性がありますね〉


 強っ!? 2人ともそんなヤバい適性を持ってたワケ!?


 〈そういえば、貴方達にこれを渡しておきましょう。魔法の一覧です〉


 自分の方に何かが浮かんできた。手にとってみると、光っている。


 〈それを少し突いてみてください〉


 突いてみると、半透明の画面が現れた。いろんな魔法とその説明が載っている。


 〈これは貴方達の成長度合いによって魔法が追加されていきます。さらにこれは貴方達3人のそれぞれの適性に合わせて作ってあります〉


 へえ、そうなんだ。これは便利だね。


 〈これで準備万端です! では、貴方達をなんとお呼びいたしましょう?〉


 うーん、そうだな……


 「『戦士バトラー』で良いんじゃない? 『エネミー』と戦うこともあるだろうし 」

 「そうだな。俺達は『戦士バトラー』だ!」

 〈『戦士バトラー』ですね! では、『戦士バトラー』達 、 お願いいたします!〉

 「「「はい!」」」


 と、僕達は『戦士バトラー』になった。


 「それより、早く家に帰らないと」


 そうだね。もう遅いかも知れない。

 洞窟の出口に向かうと、さっきの大きな虫達がいた。


 「うわああ、巨大虫だ!」

 「大丈夫だよユリバー。僕達には魔法とこれがあるからね」


 鞘からルミネオルを抜く。


 「ハッ!」


 虫をルミネオルで斬りつけた。すると、大きな虫は真っ二つになった。

 斬剣ルミネオル……強すぎるでしょ……


 「早く行こう」


 僕達は洞窟の出口に出ることができた。もう日も落ちかけている。


 「急がないとお父さんとお母さんに怒られちゃうよ!」


 ルミネオルを『プットイン』しながら家に急ぐ。 家に着いた頃にはもう夜になっていた。 ヤバい…どうやって言い訳しよう……


 「ただいまー。遅くなった…ってあれ……?」


 僕が家に着いた時、強烈に嫌な予感がした。

 家が静かすぎる。

 ま…まさか、それはないよね……?

 リビングのドアを恐る恐る開けてみる。 その直後に僕の目に飛び込んできた光景は、僕が予想していた最悪の状況だった。 親が2人とも殺されていたんだ。

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