夕日に照らされた道路を、二人分の影が伸びる。

 猫宮くんは、相変わらず手を繋いでくれた。

 わたしがその手を強く握ると、指を絡ませてくる。

 自然と恋人繋ぎになったまま、わたしたちは歩き続けた。

 一歩、一歩と、家に近づいていくたびに、記憶が蘇ってきた。

 わたしは、初めて塾をサボった。

 塾に到着すると、出席をパソコンに入力する必要がある。それによって、塾に到着した連絡が、親に行くのだ。

 連絡が来なければ、塾に来ていないことになる。

 塾をサボったことが親にバレるのが怖くて、家に帰りたくなかったんだ。

 サボるなんて初めてだから、どこに行けばいいかわからなくて、公園のベンチに座っていた。

 あまりにも暑くて、わたしは熱中症で倒れたんだ。

 わたしは倒れてから、目を覚ましていない。

 これは、この世界は──わたしの夢だ。

「着いたよ」

 ハッとして顔を上げると、わたしの家の前だった。

 ここに帰ったら、わたしの夢は覚めるのかな。

「……ありがとう」

 猫宮くんは、わたしが作り出したのかもしれない。

 勉強はしなきゃいけなくても、勉強をするのは好きじゃなくて。

 でも、勉強をしないと怒られたり、もっとだるいことになるから、渋々やっている。

 頑張りたくない。

 頑張るのはだるい。

 そんなわたしでも、誰か受け入れてほしい。

 だから、猫宮くんが、満足いくまで付き合ってくれたのかな。

 夏休み最終日の夢に。

「……華恋」

 猫宮くんが、わたしを引き寄せた。

 彼の胸の中に、わたしはすっぽりとおさまる。

 不思議と、ドキドキより、安心感が勝った。

「辛くなったら、いつでもボクを頼ってね」

「……うん」

 わたしは猫宮くんの背中に、手を回す。

 しばらくしてから、わたしたちは離れた。

「バイバイ」

 手を振って、わたしは家の中に入る。

 猫宮くんは、変わらない笑顔で、わたしを見送っていた。

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