9
夕日に照らされた道路を、二人分の影が伸びる。
猫宮くんは、相変わらず手を繋いでくれた。
わたしがその手を強く握ると、指を絡ませてくる。
自然と恋人繋ぎになったまま、わたしたちは歩き続けた。
一歩、一歩と、家に近づいていくたびに、記憶が蘇ってきた。
わたしは、初めて塾をサボった。
塾に到着すると、出席をパソコンに入力する必要がある。それによって、塾に到着した連絡が、親に行くのだ。
連絡が来なければ、塾に来ていないことになる。
塾をサボったことが親にバレるのが怖くて、家に帰りたくなかったんだ。
サボるなんて初めてだから、どこに行けばいいかわからなくて、公園のベンチに座っていた。
あまりにも暑くて、わたしは熱中症で倒れたんだ。
わたしは倒れてから、目を覚ましていない。
これは、この世界は──わたしの夢だ。
「着いたよ」
ハッとして顔を上げると、わたしの家の前だった。
ここに帰ったら、わたしの夢は覚めるのかな。
「……ありがとう」
猫宮くんは、わたしが作り出したのかもしれない。
勉強はしなきゃいけなくても、勉強をするのは好きじゃなくて。
でも、勉強をしないと怒られたり、もっとだるいことになるから、渋々やっている。
頑張りたくない。
頑張るのはだるい。
そんなわたしでも、誰か受け入れてほしい。
だから、猫宮くんが、満足いくまで付き合ってくれたのかな。
夏休み最終日の夢に。
「……華恋」
猫宮くんが、わたしを引き寄せた。
彼の胸の中に、わたしはすっぽりとおさまる。
不思議と、ドキドキより、安心感が勝った。
「辛くなったら、いつでもボクを頼ってね」
「……うん」
わたしは猫宮くんの背中に、手を回す。
しばらくしてから、わたしたちは離れた。
「バイバイ」
手を振って、わたしは家の中に入る。
猫宮くんは、変わらない笑顔で、わたしを見送っていた。
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