目を覚まして、最初に入ってきた景色は、夕方の公園だった。

 ……寝ちゃったのか。

 いや、寝たというより、気絶のほうが近いかな。

 ゆっくり起き上がる。

 ポトリ、と額から何かが落ちた。

 濡れた、わたしのハンカチだった。

「あ、起きた」

「えっ」

 知らない男の子が、隣に座っていた。

 気を失う前に、声をかけてきた男の子だ。

 ……もしかして、わたし、膝枕されてた?

「よかった。もう大丈夫そうだね。ごめんね、勝手にハンカチ、使っちゃった」

 彼は、なんでもない風に、にこりと笑う。

「か、看病してくれたの?」

「看病って言うほどのことはしてないけど、まあ、うん」

「あ、ありがとう……」

 は、恥ずかしい……。

 見ず知らずの男の子に膝枕されて、寝ていたなんて。

 中学二年生にもなって、何をしているんだろう。

「ボク、猫宮って言うんだ。キミは?」

「わ、わたしは香山華恋……」

「華恋、このあとヒマ?」

 急に下の名前で呼ばれて、ドキッとする。

 男の子に、名前で呼ばれるなんて、初めてかもしれない。

「ひ、ヒマ……」

 反射的に、そう答えてしまった。

 ヒマなんて、嘘だ。

 本当は、明日までに、宿題を終わらせなくちゃいけない。

 夕方になってしまった以上、今すぐに家に帰るか塾に行って、死ぬ気で宿題を始める必要がある。

 緊急事態だ──やる気の起こらない、緊急事態。

「じゃあ、遊びに行こうよ。ちょっと歩くけど、夏祭りがあるんだ、きっともう始まってる」

 猫宮くんは立ち上がって、わたしに手を伸ばした。

 ……夏祭り。

 なんて甘い響きだろう。

「……うん、行きたい」

 わたしは、その手を取った。

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