猫宮くんの白昼夢

よこすかなみ

 公園のベンチに座るなんて、何年ぶりだろうか。

 中学生になってから、公園に来ること自体、めっきり減ったのに。

 蝉の大合唱と、大きな入道雲。

「塾、サボっちゃったな……」

 夏休み、最終日。

 カバンには、終わっていない宿題が入っている。

 わたしは初めて、塾をサボった──と言っても、夏休みの宿題を終わらせるための、自習であって、授業があるわけじゃないんだけど。

「にゃあん」

 公園に住み着いている野良猫が、わたしの横に座る。

 この野良猫とは、雨で濡れているところに傘を置いてやった以来、仲良しだ。

 頭を撫でてやると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

「そんな毛皮で、暑くないの?」

 気温は、三十度を超えていた。

 真夏日だった。

 ……なんだか、頭がぼーっとする。

 飲み物は持っていない。

 スマホも置いてきた──塾をサボったことがバレて、親から連絡が来たら面倒だから。

 そういえば、クラスメイトの乾くんから、メッセージが来ていた気がする。

 返信しないで、出てきちゃったな。

「にゃん」

 野良猫がベンチから降りて、どこかへと去っていく。

 少し心細くなった。

 額から汗が流れて、ハンカチで拭う。

 ……あ、やばい。

 本格的に、熱中症かも。

 人気のない小さな公園だから、誰もいない。

 歩く元気どころか、立ち上がる気力もなくなっていた。

 ちょっと横になったら、楽になるかな……。

 頭の位置にハンカチを敷いて、わたしはベンチに横になった。

 目をつむる。

 ……暑い。

「……大丈夫?」

 声をかけられて、うっすら目を開ける。

 同い年くらいの、知らない男の子が、わたしを覗き込んでいた。

 ……誰だろう。

「……大丈夫」

 それだけ返事をして、わたしは意識を手放した。

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