猫宮くんの白昼夢
よこすかなみ
1
公園のベンチに座るなんて、何年ぶりだろうか。
中学生になってから、公園に来ること自体、めっきり減ったのに。
蝉の大合唱と、大きな入道雲。
「塾、サボっちゃったな……」
夏休み、最終日。
カバンには、終わっていない宿題が入っている。
わたしは初めて、塾をサボった──と言っても、夏休みの宿題を終わらせるための、自習であって、授業があるわけじゃないんだけど。
「にゃあん」
公園に住み着いている野良猫が、わたしの横に座る。
この野良猫とは、雨で濡れているところに傘を置いてやった以来、仲良しだ。
頭を撫でてやると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「そんな毛皮で、暑くないの?」
気温は、三十度を超えていた。
真夏日だった。
……なんだか、頭がぼーっとする。
飲み物は持っていない。
スマホも置いてきた──塾をサボったことがバレて、親から連絡が来たら面倒だから。
そういえば、クラスメイトの乾くんから、メッセージが来ていた気がする。
返信しないで、出てきちゃったな。
「にゃん」
野良猫がベンチから降りて、どこかへと去っていく。
少し心細くなった。
額から汗が流れて、ハンカチで拭う。
……あ、やばい。
本格的に、熱中症かも。
人気のない小さな公園だから、誰もいない。
歩く元気どころか、立ち上がる気力もなくなっていた。
ちょっと横になったら、楽になるかな……。
頭の位置にハンカチを敷いて、わたしはベンチに横になった。
目をつむる。
……暑い。
「……大丈夫?」
声をかけられて、うっすら目を開ける。
同い年くらいの、知らない男の子が、わたしを覗き込んでいた。
……誰だろう。
「……大丈夫」
それだけ返事をして、わたしは意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます