また勝っちゃった
「はーあ。初めての男の子からの告白があんな感じだなんて、ガッカリしちゃった」
結局あたしはまた、まこちゃんと一緒に野球部の試合を観に来る羽目になってしまった。
おまけにせっかく観に来たのに、投手の野村くんの出番は今日はまだないみたいで、今はまこちゃんのお兄さん、
野球のこともそんなに詳しくなくて、試合中暇を持て余してるあたしは、まこちゃんと一緒に野球のグラウンドのバックネット裏の観客席なんて場所で、恋バナでもすることにしたのだった。
「こないだのあの告白、まこちゃんも見てたよね。ひどい内容だと思わない?」
「うーん、まあ確かに変わってるよね。勝利の女神、だなんて」
「あたしだって、野村くんにグラウンドの
「でも野村くんって、確かにイケメンオーラみたいなのはあんまりないけど、明るくて面白いから、隣のクラスでは結構人気者みたいだよ? ほら、あそこにも野村くんのクラスの女子がちょっとだけ来てるし」
まこちゃんの指さす方を見ると、同級生の女子が数人、観客席の中にいた。
「あ、ホントだ」
「それに野村くん、野球の実力はなかなかだよ。お兄ちゃんも、一年後には間違いなくエースになるだろうって言ってたし。もし一年後、背が伸びたりしたら突然カッコよくなったりして、結構モテるんじゃないかなぁ。せっかく告られたんだしさ、今のうちに付き合っとくのもいいかもよ?」
そう言われてあたしはこないだ見た野村くんの顔を思い出す。確かに野村くんって目とかくりくりしてて大きくて、顔は結構見れる感じだからそうなるかもしれない。でも……
あたしは思わずため息をつく。
「あたしだって彼氏欲しいし、普通に好きだって告白されてたら、感動して思わずはいって答えてたかもしれないよ? でも、なんとなく真剣じゃないというか、試合に勝つためにあたしと付き合いたいみたいな感じでさ。あたしのことはただ試合に勝つためのラッキーアイテムとして欲しがられてるみたいに感じちゃって……。だいたい勝利の女神って何よ。そんなのただの偶然だっつーの」
「確かに
まこちゃんはそう言った後、ぼんやりとグラウンドを眺めて呟く。
「……そういえば今年、まこのお兄ちゃんは中学最後の年なんだよね。だから、勝利の女神の
「まこちゃん……」
こないだ野村くんに試合に来るよう頼まれても行く気にならなかったのに、あたしは今、まこちゃんの言葉には思わず心が動かされた。
「……しょうがないなぁ。野村くんのこともあるし、それにまこちゃんも喜んでくれるなら、これからも試合一緒に観に来てあげる。でもその代わり、あたしが坂本先輩の試合観に行くときは付いてきてよね!」
まこちゃんはそれを聞いてパッと顔を輝かせる。
「うんっ! あたし他のスポーツ観るのも好きだし、お兄ちゃんの試合ないときは行ったげる!」
まこちゃんはそう言ったあと、打者をセンターフライに打ちとってベンチに戻ってくるお兄さんの
「お兄ちゃーん! ナイスピッチング! 今日もカッコイイよ!」
まこちゃんもまこちゃんで、お兄さん大好きすぎて困ったものだ…なんて思いつつも、あたしはそんなまこちゃんの嬉しそうな横顔を微笑ましく見ていた。
試合は一点差でうちの学校がリードしてるまま進んで……野村くんは最終回になって、ようやく登場した。
「野村くんもナイスピッチング! あと一人だね」
そう言うまこちゃんの声を横で聞きながら、あたしはマウンドに立つ野村くんの姿を見つめていた。
真剣な表情でボールを投げる野村くんの姿を初めてじっくりと見たあたしは、こないだ喋った時の印象とのギャップに驚き、なんだか圧倒されてしまっていた。
(確かに、試合に出てる野村くん見ると、真剣な眼差しで、ちょっとカッコいい……のかも?)
野村くんがマウンドからボールを投げる。そのボールはキャッチャーのミットにストンと吸い込まれてゆく。バッターボックスに立つ打者のバットが空を切る。
「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」
審判の声が大きく空に響く。
(なーんだ、結局今日も勝っちゃったじゃん)
あたしはそんなことを思いながら、マウンドから降りて仲間の元に駆け寄る野村くんを見つめる。
野村くんはだんだんこっちに近づいてきて……ふとこっちを見て、あたしに気が付くと、にかっと満面の笑みを見せる。
そんな野村くんの笑顔はなんだか、サッカーで華麗にゴールを決めた時の坂本先輩の笑顔と同じくらい……あたしには
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