第6話 巨木伐採作業(?)

 俺たちがその巨大な木のような怪物に近づくと、その大きさが改めてうかがえた。その怪物は優に百メートルは超えているように見える。



 「クノイ…なんなんだこいつ!」


 「わからない…!ただひとつわかることがあるとすれば、こいつを今ここで始末しなければ、間違いなく王都は壊滅状態になるということだ。お前はここにいろ。俺は行かなければならない。」


 「クノイ…!」


クノイは俺を少し離れたところに降ろすと、一目散に怪物に斬りかかっていった。少し覗いてみたが、戦況はあまり芳しくないようだ。ゴクリョウさんは怪物から放たれる鞭のような攻撃から必死にみんなを守っている。ムナカさんは雷を剣にまとって攻撃しているが、ほとんど通用していないないようだ。オルは離れたところから指揮をとっている。そのそばにはメナさんの姿もあった。


 「クノイは…」



 俺がクノイを探そうと辺りを見渡すと、離れたところに倒れこむクノイの姿がうっすら見えた。



 「クノイ!」



 近づいてみるとやはりそれはクノイだった。クノイは全身からひどく出血していた。足の骨は折れていて立ち上がれないようで、手は肉が削げ骨が見えている。



 「大丈夫か!?いや、大丈夫じゃないよな。ひどいけがだ。今向こうで応急手当を…」



 俺はクノイを担いで後方へ連れて行こうとしたが、クノイはそんな俺の手を払いのけた。



 「大丈夫だ…まだやれるさ。」


 「無理するんじゃねぇよ!そんな体でどうやって戦うってんだよ!」



 クノイはどう考えてももう戦えるような状況ではなかった。しかし彼は微笑を浮かべて話す。



 「…俺が根拠もなしにこんなこと言うわけがない。メナさんはまだ生きてるんだろ。」


 「…あぁ…まぁ…」


 「んじゃ、そろそろ頃合いだ。全部丸く収まる。」



 俺はメナさんのいる方を向いた。するとそこには、宙に浮かぶ緑色の巨大な魔法陣と、それを操るメナさんの姿があった。



 「みんな…よく耐えたね。私はこのくらいの援助しかしてあげられないけど、もう一息…頑張ってください!」



 すると、魔法陣からは緑色のきらきらと光る鱗粉のようなものが俺たちのもとへ降り注いできた。降ってきた鱗粉はとても暖かく、俺たちをやさしくつつみこむようだった。そしてクノイを見てみると、鱗粉を浴びたクノイの傷はすっかり治っていた。クノイ以外の仲間たちも、再び活力を取り戻したようで、怪物に攻撃を再開していた。



 「なんだこれ…傷だけじゃなくて、体力も回復してるし、しかも力が湧いてくる。」


 「当たり前だ。これはサポート系魔法の最大魔法、セイクリッド・シャワーだぞ。この小隊では少なくともメナさんしかできない神業だ。何といっても彼女は、現在ナナト王国内に十名のみ存在している戦闘階級Sに分類される人間の一人なのだから。」


 「階級…S…?」



正直驚いた。こんな気の弱そうな女性が戦闘階級Sだというのだ。普通なら信じがたい話だが、こんな力を見せられた以上、認めざる負えない状況だろう。



 「お前は知らなかっただろうが、あの人はとんでもない人だ。性格に多少難ありというだけで、それ以外はほぼ完璧に等しい。さて、俺も行ってくるとしよう。」



 ここからの展開は速かった。隊員たちが傷つくたびにメナさんの魔法で回復されていたため、もはや恐れの感情を抱く者はいなかった。魔法で攻撃力が底上げされた攻撃は怪物から伸びる枝を次々と斬り倒していき、気づいた時にはムナカさんの渾身の一撃で怪物はまるで普通の木のごとく伐採されていた。その時のムナカさんの攻撃は凄まじいもので、立っている地面が激しく揺れるほどだった。王都は甚大な被害を被ることとなりはしたが、クノイの発言通り、すべてが丸く収まったのだった。しかし誰もが喜びに浸る中、俺は一人自分の無力さを嘆いていた。今回の戦いにて、俺の活躍は一切ない。むしろ足手まといになっていたのだ。俺は実は気付いていた。

クノイはずっと俺をかばうようにして戦っていたことに。クノイがあんな怪我をしたのも、すべて俺のせいだったわけだ。



 「みんな…」


 「ん?どしたの、ヤマト?」



 ムナカさんは笑いながらこっちを振り返った。



 「やっぱり…俺は…」


 「?」


 「……なんでもない。うん。気にしないで。」



 言おうとしたことを最後まで言い出すことができなかった。彼女らの今の笑顔を見ていると、そんな無責任なことを言うことはできなかった。


 基地に戻った俺たちは、途中で止まっていた会議の続きをやることになった。



 「まずはみんな、よくやってくれた。今回の成果は、上に必ず伝えておく。せて!気を取り直して会議の続きと行こうか。まずは先日の任務の結果を報告してもらう。それじゃぁ…まずはクノイとヤマト、報告してくれ。」 


 「それでは、報告します。先日のランドウルフ救出作戦及び、対ライテント戦についてですが…」



 正直思い出したくはなかったが、今回の件についてすべて話した。もちろん、例の『神』についても。 



 「神…か…。心当たりがある。この世界には、十六創生神と呼ばれる神々が存在するのだと前に王宮図書館で読んだことがあるんだ。どうせ神話上の話だろうからとあてにはしていなかったが、お前たちの話を聞く限り無視できなくなった。ひとまずこのことは、今後の重要課題に加えておくとする。」



 どうやら彼が言う神という存在は、世界の根源にかかわるもののようだ。もしかすると彼らとの接触は、この世界をより詳しく知るための手段となりうるかもしれない。それにしてもクノイは、神の話をするといつも表情が暗くなる。この間のことを思い出したくないからなのか、それともまた別の理由があるのかは定かではないが。



 「んじゃ、あたしたち三人の番だね。前回の魔獣封印作戦は無事に成功しました。詳しく説明すると…」



 どうやらムナカさんたちは魔獣の封印という高難易度の任務を行っていたらしい。さすがは精鋭部隊、やることが俺たちとはまるで違う。ムナカさんが言うには、この任務は郊外の森にて封印の解けかけている魔獣を一体再封印するというものだそうだ。そしてやはり、ここでもメナさんの活躍は突出していたらしい。この広い世界でS級に分類される人間が十人しかいないということは、それだけAとSでは雲泥の差があるということなのだろう。



 「よし。了解だ。さすがとしか言いようがないな。これからも励んでくれ。それではここからいよいよ本題に移るとしよう。今日集まってもらったのは、次の任務についてなんだ。そしてなんとこの任務は、小隊全員で行う共同作戦となっている。」



 俺たちは唾をのんだ。今回の任務は、この間クノイもたまにしかないと言っていた小隊全員での任務だ。 



 「…今回の任務なんだが、主役はお前だ、ヤマト。」 



 ゴクリョウさんはこちらを向いてそう言った。俺が主役とはどういうことなのか。



 「これからのベニテング小隊は、総合的な戦力を高めていく方針だ。そこで、…まずは一番弱いお前をそこそこ戦えるまでに鍛える必要があるってわけだ。というわけだからみんな、面倒だろうがこいつのために中級ダンジョンでスキルの書を強奪してきてほしい。もちろん俺も行く。さぁ、準備ができ次第出発するぞ。」



 なんだかんだ言ってゴクリョウさんが一番乗り気な気がする。その太く大きい脚はいつも以上に歩幅を広くして進んでいた。しばらくして準備を終えた俺たちは、足取りの軽いゴクリョウさんを先頭に例のダンジョンに向かった。その道のりは険しいものだった。ごつごつとした岩が転がる荒れた道を行き、雨上がりで滑る坂道を下り、何層にも重なった地層が目立つ高い岩肌を縄一本で登り、激流の川にかかる一本橋を渡った。田舎暮らしだった俺もこの長く険しい道のりにはさすがに気が滅入りそうだった。そして俺たちは何時間も歩いた末に、ようやく目的地へと着いたのだった。



 「…ついにたどり着いた。ここが、スキル習得で有名な中級ダンジョン、密林の遺跡だ。」



 ゴクリョウさんはなぜか得意げに紹介する。その遺跡は石のレンガのアーチが入り口になっており、中は地下へと続く階段がある、いかにもダンジョンという遺跡であった。



 「やっと暴れられるわね!さぁ出発よ、出発ー!」



 ゴクリョウさんが話し終えるなり、ムナカさんはダンジョンの中へ走り去っていってしまった。



 「待てってムナカ!お前はもっと慎重にだな!」



 今度はオルまでその後を追って行ってしまった。本当にこの世界の人はどこにそんなスタミナがあるのやら。若干前方二人に呆れつつ、俺を含む残された四人も、ダンジョンへと入っていった。そして俺は気付いていた。俺のほかにはもしかしたらゴクリョウさんなら察しているのかもしれない。俺たちの背後に、怪しい影が一つほど付いてきていることに。

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DK社長の異世界RPG 白宵玉胡 @tamagokunnanoda

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