第7話 マナトside 俺はストーカーではない
でも、本当に接点がないまま別れるのは絶対に嫌だった。
丁寧にお礼を言って帰るふりをした。跡をつけてマンションと部屋を特定した。
マンションの部屋の窓を見る事ができる所に単身者用の物件がないか探したら、彼女の部屋の中が見える立地に部屋が空いている。
よし。神様が味方して下さっている。
ありがとうございます。
この恋は押し進めろと掲示されている。
この日の会話の中で一人暮らしと言う情報を手に入た。1人で起きられて凄い。尊敬する。いつも何時起きなのかと聞いたら6:15と言った。
会社が遠いのか聞いたら電車ですぐだけど、お弁当を作ったり、シャワーを浴びてゆっくり朝ご飯を食べる時間だそうだった。
家を出る時間も聞いていたからその時間に駅で待ち、会社も突き止めた。
とてもいい旅だった。
幼少期からこれまでの事、親の会社の事、彼女との未来。今までにない程きちんと考えた。
旅行が終わって両親に色んな話しをした。
今までは、兄さんが親の会社を継いで、大学卒業したら俺も親の会社に就職かなぁ。と殆ど何も考えていなかった。
何も一生懸命してこなかったけど、彼女に認めて貰えるように、父さんの会社に勤めてくれている従業員の皆んなにもお得意先にも認めて貰えるように。
これから努力するから力を貸して下さい。と頭を下げた。
「真人が今まで本気を出してないのは分かってたけど、今までも十分頑張ってたと思うわよ?
でも、自分の意志でしたい事に取組むと、吸収するスピードも早いしとても良いと思うわ。お父さんもお母さんも協力するし、応援するからやりたいようになってみなさい。ね?あなた?
あ、でも犯罪はダメよ?」
「あぁ。そうだね。今まで欲しい物をねだったりしてくれなかった真人が、好きな人が出来て変わろうとするなんて何だか妬けるけど、真人の成長はとても嬉しいよ。自分が納得するまで頑張ってみなさい」
最初は驚いていたけど、2人とも喜んでくれていた。理解のある両親で良かった。
母さんはもうちょっと俺を信用してよ。
でも盗聴はするね。仕方ないよね?だってシアンが危ない目に遭ったり、知らない所に引越ししちゃったらいけないから。
それから父さんはすぐに彼女のマンションの様子が窓から伺える部屋を押さえてくれた。大学の休み中は、彼女のマンションの近くで彼女の事を見守りながら自分磨きに勤しんだ。
まず、運動する時に邪魔なので、高3の頃から怖くて拒否していたレーシックを受けて野暮ったいメガネを外した。
1度だけお昼休みに彼女は同僚とランチに出掛けた日があった。
もちろん彼女の真後ろの席を陣取り会話を録音して何度も聴いた。
とても近い距離で一緒に過ごせた最高の36分間だった。
当たり前の事だが一応言っておくと、その時の音声は、会話の内容や話し出すタイミング、息継ぎや相槌も笑う声の高さも何もかもを寸分違わず脳内再生できる。
彼女に求めて貰えるように勉強はもちろん身体を鍛え護身術、PCでも色んな分野を学んだ。
家事も何でもどんな分野でも役に立てる様に努力した。
彼女の隣りに胸を張って立てるように髪や肌のケアもしっかりと念入りにした。
触れたくなる頬に、ずっと触っていたい髪になるように。
特に護身術や格闘技は1年半程度では多少の付け焼き刃感はあるものの、それでも始める前とは心の在り方や視野、物の価値観が全く変わった。
とても自分に自信が付いた。
彼女の会社への就職が一瞬よぎったが、それは悪手だと思いやめておいた。
ゆくゆく親の会社の本社で働くにしても、地方の支社や営業所で経験を積んだり、現場を見ておきたい。
彼女の家から徒歩2分圏内に支社がある。なんて奇跡。彼女とは結ばれる運命なんだろう。
父さんにお願いしておいたので、当たり前だが、希望通りの勤務地に配属された。
定時で上がれた日は、彼女とすれ違えるまで駅のホームの階段の下で待ってみたりとかなり楽しかった。
ふわふわしながら階段を降りる彼女はまるで天使の様だった。
何とか仲良くなりたいが、ナンパなんてのは彼女の性格を考えると絶対に成功しないだろう。
彼女は会社のご飯会や飲み会、皆んなで行くBBQやお花見等にも全く参加していない。
あの時のたった一度きりのランチも寝坊してお弁当が作れなかったからだ。
ハンドメイドで物を作るのが楽しくて没頭していたら気付けば朝方だったと楽しそうに話していた。
最近ではハンドメイド作家として自分の作品をアプリなどで販売している。
もちろん俺はフォロワーだし、タイミングよく争奪戦に勝てた時には彼女の作品を買えている。
ただ、彼女のファンが多過ぎてなかなか手に入らない。彼女の手で作って彼女の手が触れた物なんだ本当なら全部欲しいのに。
そんな事より彼女と何とか自然な形で出会わなければ。
必ず彼女を手に入れる策を考えないと。
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