第3話 とりあえず生での人は尊敬に値する。






 駅前の遅く(始発近く)までやってるチェーン店の居酒屋さんに入った。


「ほぉーーー。最近の居酒屋さんはタッチパネルなのか…。ひぇー。」


「タッチパネルで注文出来るお店増えましたよねー。俺とりあえず生で」

 

 おー須藤氏『とりあえず生で』の人だ。



「そうなんですね。最近飲み会とか全く参加してなかったから知らなかったです

 須藤さん生ビールですね!

 私はとりあえずの…ジントニックにします。


 お料理は一旦2人でつつけそうな物を適当に少し頼みますね!欲しい物があったら言って下さい。

 シーザーサラダと和風サラダならどちらがイイですか?」


「どっちも好きですが、今はシーザーサラダの気分ですね」


「やった!私もシーザーサラダの気分です!

和風もめっちゃ好きなんですけどねー。


 あとは、若鶏の唐揚げ…

 明太ポテトチーズ焼き…

 サイコロステーキ…

 ほっけの一夜干し…


 あ!食べられない物とかありますか?

 後、須藤さんは何か決まりました?」


「アレルギーとか食べられない物はないです!

 んー。まだ決まってないので後で注文します。


 凄いですね!今楠木さんが選んで下さったメニュー全部大好物です!楠木さんと食の好みが合うの凄く嬉しいです」


 と少年のようにニコニコしている。


 なんと言う事でしょう…たらしです。


「ホントですか?ならよかったです。とりあえずこれで頼んでしまいますね」とにっこり返す。


「須藤さんって…モテるでしょう。」


「……………いやいや楠木さんこそ。」


 間がありましたぞ。間が。


「はは。んな訳ないでしょー。」

「楠木さん凄く可愛いですよね。」


「あー。分かります。その可愛いはパグ犬とかフレンチブルが可愛いと同じ可愛いですよね。分かります。マスコット的な可愛いですね。ありがとうございます。ゆるキャラになります。頑張りますのでこれからも応援よろしくお願いします」


「いや違いますって。自己評価低過ぎません?楠木さんは「お待たせ致しましたー」


 というやり取りをしていたら愛想の良い店員さんが飲み物を運んで来た。

 

「「ありがとうございます」」


 男の子なのに店員さんにお礼を?マジか。天然記念物や。


 では乾杯のアレをやりますか…。


「ごほんっ。ちゃっ。えーーーお集まりの皆さん本日はーーー。私のせいで終電に「宴会部長ー!話が長いぞー!口をちゃっちゃ鳴らすなーかんぱーい」」


「え!須藤さんツッコミも出来るんですか?あはは!野次だった!楽しー!」と2人で笑いながら乾杯した。喉が渇いていたようでお互いほぼ一気飲みだった。


「次は何飲みますか?

 須藤さんビール飲めるんですねー。心から尊敬します。私はまだビールの美味しさが分からなくて…。」


「ビール飲めないんですか?」


「そうなんですよぉ。まぁビール飲めなくても問題なく生きて行けますし、わーーー。空きっ腹だったからめっちゃ回る…足が…足が…足の付け根が溶けそうです…」


「足の付け根ですか…?」


「うー。味とニオイが苦手なのと…ビールを飲むとね…。

 何故か笑いが止まらなくなるんです。めちゃめちゃうっとーしがられるし、ぞんざいに扱われて実は本気で傷付くので封印しているのもありますね。あはは…」


「笑い上戸になるんですね!良いじゃないですか!飲みましょうよビール!俺は楠木さんをぞんざいに扱ったりしませんよ?

 これでもかってくらい甘やかします。

楽しそうに笑いながら飲む楠木さんが見たいです!」


 んー。須藤氏は私が笑い転げても不機嫌にならないのかなぁ?


「あー。楽しくはなるんですが味も苦手なんで…」


「どこのメーカーのを飲んでましたか?メーカーによってビールの飲み易さは全然違いますよ?最後に飲んだのはいつくらいですか?チャレンジしてみませんか?ひと口飲んでみてやっぱり無理だったら俺が飲みますよ?」


 圧が凄い。でも試してみたいかも。どーしてもムリだったら、こー言ってくれてるし、須藤氏にごめんなさいして飲んで貰ったらいいか。


「なるほどぉ確かに。以前に比べたら味覚も変わってるかもですもんね!

ビール飲みます!

久しぶりに飲んでみたいです!


 あ、そうだ須藤さんは…ひぇっ!来たビール」


「お待たせ致しましたー」

 

 来るのやたら早い。

送信する前に来たんじゃ…。


「では…久しぶりのビール…乾杯」


 ひと口飲んで味わう。くっさ


 笑う。めっちゃくっさ

何となく出来心で舌を伸ばして上唇を舐めて唇を尖らせてニオイを嗅いでみた。

くっさ!!!!!笑う。やば!!!くっさぁ!


「ちょっと一瞬メールすみません」


 須藤氏は何やら携帯を操作し始めた。


 暇になった私は何度も上唇を鼻にくっ付けてクスクス笑い出した。


 須藤さんは携帯を操作しながら私を気にして微笑んでいる。


 テンションが上がってきたので、須藤さんが写真を撮ってると見立てて、昔ながらのビールのポスターの真似をしたり、色々ポーズを取ったり変顔してふざけて1人でケタケタ笑いながら遊んだ。


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