第22話 消えた猫神
文さんと俺が家に戻ると、美文さんが出迎えてくれた。
「よしよし、帰ってきたね。お帰り二人とも」
美文さんが心配している様子はなかった。
というのも、俺が文さんを見つけたという連絡を美文さんに入れていたのだ。
「ただいまです」
「ただいま、お母さん」
俺と文さんは、美文さんに挨拶をした。
「うん、おかえ……り」
おかえりと言いながら、美文さんは俺と文さんの間を見つめ始めた。
その目線の先を追うと、俺と文さんが繋いでいる手が見えた。
「……ふ~ん」
美文さんは、唇を上に突き出して、大きくにやけた。
「文。あんた、やったね」
「えへへ……やっちゃいました……」
美文さんにそう言われると、文さんは照れながら頭を手で掻いた。
「正樹くん。その子をよろしくね」
「あ、はい! 頑張ります!」
美文さんに文さんを頼まれてしまった。
……あれ? これってあれじゃないか?
親に彼氏を紹介するあれが、自動的に済んでしまったせいで、外堀が埋まっていってるような……。
いや、いい! 俺は責任を持って文さんの彼氏になるって決めたんだ!
今さら何を怖気ついているんだ!
「まあ、とにかく入りな」
「うん」
美文さんに言われて、俺たちは家に入った。
「え? 猫神様、帰ってきてないんですか?」
「そうなんだよねえ……」
食卓で漬物を食べながら、俺と文さんと美文さんは、猫神様が帰ってこないということを話していた。
どうやら俺と一緒に家を出てから、帰ってきていないらしい。
「持たせた携帯に連絡しても、全然でなくてさ……」
「そんな……」
文さんは、また少し暗い顔になった。
「あ、猫神から連絡来た」
「え」
美文さんはそう言いながら、スマホをポチポチと慣れた手つきで操作し始めた。
「……」
少し黙って、美文さんはスマホを注視した後、美文さんは俺たちに自分のスマホの画面を見せてくれた。
「だってよ。とりあえず読んでみな」
俺と文さんは、二人で美文さんのスマホに写っている猫神様からのメッセージを目で読んだ。
そこにはこう書かれていた。
文、美文殿、正樹。
僕は三人の協力のおかげで、すべての記憶を思い出した。
この二岬を、この地獄みたいな状況をどうにかする方法も思い出した。
だけど、時間が欲しいんだ。
一日でいい。
準備がしたいんだ。
この状況をどうにかする準備もあるけど、それ以上に心の準備がいる。
覚悟がいる。
だから、頼む。
一日だけ、待っていてほしい。
絶対帰ってくる。
だから、心配しないでほしいにゃ!
おいしいご飯でも作っておいてくれると、うれしいにゃあ!
「えへへ」
「まあ、大丈夫ですかね」
文さんは安心したのか、微笑んでいた。
俺も、安心して椅子にもたれかかった。
「私も、猫神様を信頼してる。だから今は待ってようか」
美文さんは、俺たちを見てそう言った。
「はい」
「うん」
俺たちは小さく頷いた。
猫神様は大丈夫だ。
きっと帰って、元気よく無邪気にただいまって言ってくれるはずだ。
それで俺たちは、お帰りって言ってあげればいいんだ。
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