第12話 猫神様、初めてのゲーム

 十一日。

 毎朝のルーティンを済ました後、昼前ぐらいから雨が降ってきたので、今日はゲームでもしようという話になり、猫神様と文さんは、俺の部屋に集まってきた。

 どうやら、俺が寝泊りさせてもらっているこの部屋のテレビ台の下には、一昔前のゲーム機がいくつか置いてあり、今日はそれで遊ぶらしい。

「なんでこの部屋にゲーム機があるんですか? お父さんが好きだったとか?」

 俺はゲーム機の準備をしている文さんに尋ねた。

「うん。お父さんがゲーム好きでさ」

 文さんがゲームの準備をしているのを、猫神様は興味深そうに見ている。

「で……二人はやりたいゲームとかある? 大体ストーリーものしかないけど」

 文さんはコントローラーを持ちながら、俺と猫神様にやりたいゲームがないかを聞いてきた。

「俺は……おすすめがあれば……それでいいですけど……」

「あれがいいにゃ! 恋! 恋したいにゃ!」

 俺がおすすめをお願いした後に、猫神様は恋がしたいと叫んだ。

「恋かあ……」

 文さんはつぶやきながら、またテレビ台の下を眺め始めた。そこにはゲームのディスクが入った本のような容器がたくさん置いてある。

「猫神様は恋したいの?」

 俺は、わくわくしているのかずっと小刻みに動いている猫神様に尋ねた。

「なんとなくだにゃ。恋したい気もするし、なんとなく恋してるやつらを見ていたいというのもあるかもにゃ」

 猫神様はどうやら恋への関心があるみたいだ。

 これももしかすると、猫神様が忘れていることに関係しているかもしれない。

 も、もしかすると、俺と文さんがいちゃいちゃしてるのを見て、恋に関心を持った……というのもあるかもしれない。

「じゃあ、これやろうか。有名な恋愛シミュレーションゲーム」

 文さんは、ヒロインだと思われるかわいい女の子が何人か描かれているパッケージのゲームを俺たちに見せてくれた。


「おお……これが今どきの高校かにゃ」

「今どきって言っても……今から大体十三年前のゲームだけどね……」

 猫神様が今どきの高校のことを言っているが、文さんによるとどうやらこのゲームはちょっと昔のゲームみたいだ。

「とりあえず、ヒロインを決めるところまでは来たけど、どのヒロインにする?」

 コントローラーを持った文さんは、俺と猫神様に尋ねてきた。

「正直、僕は誰でもいいにゃ」

「う~わ。淡泊」

「誰でも平等に愛せるということにゃ。神だから」

「ああ。なるほど」

 猫神様に、文さんは感心している。まあ、神ってそんなもんなのか?

「ほら正樹くん。誰が好み?」

「えっと……」

 文さんは俺に、ヒロインの情報が書かれた冊子をくれた。

 俺はさらっと読んで、適当にお淑やかそうなお嬢様を選んだ。

「じゃあ、これで」

「え? なんか適当じゃない? もっとちゃんと選びなって」

「ええ……」

 文さんは、俺が適当に選んだというのを感じ取ったらしい。

「じゃあ、しっかり、ちゃんと選ぶんで、二人とも少しお待ちを」

「は~い」

「はいにゃ」

 俺は改めてしっかり冊子を読み込み始める。

 主人公は二年生で、後輩が一人、同学年が四人、先輩が一人か……。

 どうやら先輩キャラは、勉強アレルギーらしい……少し興味がある。

 見た目もスタイルがよくて、主人公とどうやら幼馴染らしい。この人にしよう。

「じゃあ、この人にします」

「お~。年上だにゃ」

 猫神様は、俺が決めたヒロインを見ている。

「なんでこの子にしたの?」

 恐る恐る、文さんが俺に尋ねてきた。

「勉強アレルギーってのが気になりました。スタイルもいいみたいだし、幼馴染みたいだし、このヒロインがいいかなって」

「……そ、そっか。じゃあこの子を中心に進めていこっか」

「はい」

 文さんはなぜかわからないが、少し照れているみたいだった。

「おお! なあ文! 僕にもそのカチャカチャ触らせろにゃ!」

「うん。いいよ!」

 猫神様は、座っている文さんの膝の上に座り、コントローラーを一緒に握り始めた。

 そして俺たちは、このヒロインとの夏休み後の高校生活を始めた。


「なんなんだにゃこいつら」

 猫神様は腕を組み、いぶかしげな顔をしていた。

「こいつら?」

「この主人公とヒロインだにゃ」

 俺が聞くと、猫神様は画面に映っているヒロインを指さしながら言った。

 今の画面では、ヒロインと主人公が教室で抱き合ってじゃれついている場面が写っている。

「どうしてこんな人前でイチャイチャできるのにゃ?」

「……確かに……」

 俺は猫神様の意見に納得してしまった。

 ほかのクラスメイトがいる中で、どうして堂々とイチャイチャできるのだろうか。

「確かに、なんでなんだろうね」

 俺だけじゃなくて、文さんも猫神様の持った疑問を聞いて、同じ疑問を持ったみたいだ。

「あれ? お前らわからないのかにゃ?」

 猫神様は俺と文さんを見て、首を傾げた。

「俺はわかんない。文さんはわかりますか?」

 俺は全くこの疑問を解消できる気がしなかったので、文さんにこの疑問の答えを委ねた。

「私もわかんない……って、なんで私と正樹くんに聞いたの?」

 文さんは、自分の足の上に乗っている猫神様に尋ねた。

「へ? だってお前らも僕の前とか、美文殿の前とかで堂々とイチャイチャしてるからにゃ。だからわかるかなって思ったにゃ」

 猫神様は、至極真顔で言った。

「イチャイチャしてないぞ!」

「そうだよ! みんなの前ではイチャイチャしてないよ!」

 俺が否定すると、文さんも否定してくれた。

「ん? ホントかにゃ~?」

 猫神様はニヤニヤしている。

 ん? 今、文さんみんなの前ではしてないって言ってたよな?

 ……つまり、誰も見ていないとこなら、イチャイチャしてる意識はあるってことになる。

 意図的にイチャイチャしてきてる? いやだってこの前、文さんは自分の胸を俺に触らせてきて……。

 いやいや、考えるのはやめよう。よくわからない。

 だって生まれてこの方、女性を好きになったことなんて恐らくない。

 恋なんてしたことがない。

 だって、勉強とスポーツとゲームをしてるだけで、満足していたから。

 でも今、明らかに文さんのことを、俺は意識してしまっている。

 気が付いたら、文さんのことをいつも考えてしまっている。

 だってだって、もう大体二週間は同じ家に住んでいて、毎日一緒にラジオ体操に行って、ご飯を食べて、出かけて……そんなの意識しないわけがない。

「……おい正樹。聞いているかにゃ?」

「え?」

「ほら、ここの会話。話題どうすればいいと思うかにゃ?」

「ああ……じゃあ……ファッションかな」

 いつの間にか、思考に気を取られていたみたいで、俺は猫神様と文さんの声が聞こえていなかったみたいだった。

 やっぱり、ちょっとずつ、自分の気持ちを整理していかないといけないかもしれない。

 人をここまで好きになったのは、初めてなんだから、よく考えないと。

 その後、主人公とヒロインは、夏休み明けから徐々に親密さを深めていき、学園祭にて無事にお互いの気持ちを交換し、勉強アレルギーと向き合って勉強を始めて、超難関大学にヒロインは合格したらしい。

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