3話:ヘンテコなうさぎたち

百葉箱の扉に手をかけようとした時、、。


「うおっ」

足元の石を踏んづけたせいで、左足を軸にくるり、と右回りするようにバランスを崩す。

綺麗な放物線を描く右足を眺めながら、コンパスみたいだなぁなんて呑気なことを思う。


くるりと半周した先、ゆらゆらと揺れる落ち葉が見える。

、、、ん?揺れてる、、、?地面なのに?風も吹いていないのに?


あ、水の上に浮いてるのか!と腑に落ちても時すでに遅し。

尻に感じる衝撃と、飛び散る水しぶき。次に視界に入ったのは雲ひとつない空だった。

「〜〜〜っだぁっ!!!!」


先ほどまで立っていた位置のすぐ横にある、浅い池に尻餅をつく形で空を仰ぐ。

池の中はかなりぬかるんでいて、着地に失敗したようだ。

両手足は泥水に浸かり、もにゅっとした感触が気持ち悪くて、さらにいらいらする。


踏んだり蹴ったりだ。盗られた生徒手帳を取りに来ただけなのに、なんで今自分は泥だらけで空を見上げているんだ、、、?転んだことすら、盗人のしわざか?と疑って、顔も見てない犯人に怒りが募っていく。


「もういい、さっさと終わらせてやる」

これまでは、何をされても大目に見てやっていたが、もう堪忍袋の尾がきれた。半分くらいは八つ当たりに近いが、生徒手帳を回収して、担任にチクってやる。


八つ当たりの怒りをやる気に変換して、ガバッと勢いよく立ち上がる。その勢いのまま、ぼろぼろの百葉箱をばんっと開く。


薄暗くて、埃っぽい百葉箱の中にチラッと生徒手帳らしきものが目に入る。

そのまま手を入れようとした時ー。


一瞬で目の前が真っ白になり、立っていられないほどの強い風が吹く。

「えっ、、はぁ!?なになになになに!!!」

何にもわからないまま、風に押されて、体が前に傾く。ぶつかる、、、!と思った瞬間、体がフワッと浮いた感覚がした。



「やぁやぁ、ほんとに来たよ」

『ほんとに来たね』

「都市伝説かと思ってたよぉ」

『僕らもその類だけどねぇ』


頭上で甲高い2種類の声が響く。

「彼、全然起きないよ」

『頭打ったんじゃない?』

「え〜、、、だめじゃん、、システム欠陥じゃん、、、」


うっすらと目を開いた先には、黒い影が2つ俺の顔を覗き込むようにしてあーだこーだ喋っている。うるさいな、、と抗議の声をあげようとして、驚きのあまり喉まで出かけていた文句の言葉が引っ込む。


「あっ、起きたよ!」

『起きたよ!』

嬉しそうにそうはしゃぐのはうさぎの耳を生やした2人の少年だった。

それぞれ白と黒の耳を生やして、耳の色と同じタキシードを着ている。


「、、、、???」

状況が全くわからなくて、一言も発することができない。

そんな俺を見て、2人?は心底嬉しそうに叫ぶ。


「『ようこそ!ナントカの世界へ!』」



「はじめまして、薬袋颯人くん!」

『はじめまして〜』

「僕らはうさぎ」

『ヘンテコうさぎって呼ばれてるよ〜』

「早速だけど〜、、、」

「ちょっっっっと待て。まって待て待て。」

『ちぇ〜』


なにも掴めていない中、うさぎ達は矢継ぎ早に話だす。その上2人が交互に話し出すものだから、余計に混乱してしょうがない。


「ちょっと待ってってなに〜?」

『なに〜?』

「いやなにって、ここどこ??俺、さっきまで学校にいた、、、はずじゃん。え、なに死んだ?ここ天国だったりする???っていうか誰。」


頭がはっきりしてきたは良いものの、余計に今の状況が意味わからなくなって、次から次へと言葉が出てくる。

目の前に見えるうさ耳ボーイズももちろんだけど、2人の後ろに広がる景色にも驚きが隠せない。

先ほどまで生徒の声が聞こえる学校にいたはずなのに、見渡す限りの緑。

座り込んでいる地点から先に一本の道が続いており、その左右は木々が生い茂って所々太陽?の光が差し込んでいる。林のような場所にいるようだ。


「あ〜確かにね」

『説明しなきゃだねぇ』


うさぎたちの話をとめると、ここは百葉箱の中の世界らしかった。

んなばかな、と言いたいが、先ほどまでの自分の状況を振り返るとそんなことも言えない。確かに百葉箱の中に吸い込まれるような感じがあったのだから。


あの都市伝説は本当だったのか、、、と思うのと同時に、ふとした疑問が頭に浮かぶ。

「うちの学校の百葉箱がほんとに異世界?の入り口だったのはわかったけどさぁ、、。こんな簡単に来れたら、伝説じゃないじゃん。」

少なくとも、俺はあの噂はデマ。と聞きながら育った俺にしてはなんとも納得のいかない話のように感じた。


黒うさぎの方がちっちっちと舌をならしながら、指を顔を前で左右に揺らす。

ちょっとドヤ顔なのが腹たつ。

『ここはねぇ、条件をクリアした人しか入ってこれないのさ』

白うさぎがずいっと身を乗り出してそう話す。

「そう、特殊なの!」

「、、、特殊、、?」

『百葉箱を開くだけじゃダメなのさ』

「まずね、百葉箱の前で右回転する。」

『次に横の池に落ちて、最後に百葉箱の扉を開けるんだ』

「条件が厳しすぎるよねぇ〜。だからここにくるのは、条件を知っている人か」

『よっぽどのうっかりさんだけなんだよ〜』

まぁつまり、選ばれしうっかりさんしか来ないね〜。と付け足す。


少し前の自分の行動を振り返ると、確かにうさぎ達が言った通りの動きをした、、、気がする。

「いや、なにそのピンポイント、、、、無理ゲーでしょ」






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