2話:噂の入り口

あの事件が起こってから、俺は少しだけ浮いていた。

陸上部からも、クラスからも。

友達はいるし、いじめられているわけでもないが、一定数俺に突っかかってくるようになったのだ。


スパイクを隠されたり、廊下ですれ違いざま嫌味を言われたり。漫画か!?とツッコミたくなるくらいお手本のようなものばかりだったけど笑。


まぁ確かに、俺も負けず嫌いなものだから、嫌がらせをされるたびに睨みつけたりしていたのもよくなかったかもしれない。


いまならもっと上手くやってやるのになぁ。と思っても後の祭り。

生意気な元エース選手が、走れずに部活から逃げ出した。ときたら、火に油を注ぐように、有名人に人が群がるように嫌がらせがレベルアップしたのが3ヶ月前。


「あーっくっそ!」

どこだよ俺の生徒手帳!!心の中で思いっきりそう叫ぶ。

5限目の体育を終えて、制服に着替えるときに、ふと覚えた違和感。

学ランの左胸ポケットに入っているはずの生徒手帳がない。

わざわざ出したりなんかしないから、誰かが引っこ抜いたんだろう。こしゃくなやつめ。誰だか知らんが。


おかげでこうして、ため息ついたり叫んだりしながら校庭を彷徨う羽目になっているわけだ。

今まではそんなに被害がなかったけど、これは流石になぁ。別に生徒手帳は要らんっちゃ要らんが、明日は身体検査。なかったらなんて言われるのか。


そんなわけでしぶしぶ生徒手帳を探しているのだが、実は場所はわかっている。

勢いでどこだよ!思ったけど、俺の生徒手帳は東門の近く。ぼろい百葉箱の中にある。、、、らしい。


らしい。というのも、人から聞いた話だからだ。

っていうか、生徒手帳を盗んだ犯人がご丁寧にメモを残していた。

「お前の生徒手帳はヘンテコ箱に入れてやった」と。今思い出しても腹が立つ。



ヘンテコ箱。というのは、寺之坂中にある百葉箱のことだ。

昔から、寺之坂中にある百葉箱は異世界につながる入り口になっている、という噂がある。

ヘンテコな世界につながる百葉箱だから、ヘンテコ箱。


まぁなんてことない噂だし、人が消えたなんて聞いたこともない。

人の出入りがないから、草木が伸び放題で、ちょっと怪しげな雰囲気があるだけの普通の場所。取りに行く俺も面倒だけど、隠したやつも面倒だったろうに、、、。


頭の中でぶつぶつ文句を垂れていたら、いつの間にかヘンテコ箱にたどり着いていた。

「これが異世界の扉ねぇ、、」

改めて、ヘンテコ箱をまじまじと見つめる。白いペンキは剥がれかけ、穴も空いてる正真正銘のぼろい箱。とても異世界につながる入り口とは思えなかった。

ふと左下に目を向けると、コンクリートで四方を囲われた浅い池?のようなものがあって、枯れ葉やら藻がぷかぷかと浮かんでいる。


「はぁ〜あ」

俺は、もうほんとに何回目だよ、と言いたくなるため息を吐いて、ヘンテコ箱の扉に手を伸ばした。


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