PUSH BUTTON B TO SELECT A
あめはしつつじ
ゲーム機を返してもらうため、
ゲーム機を返してもらうため、
僕は通院している。
彼女は入院している。
病院の大きなベッドの上で眠っている、
側にお父さんが付き添っていた。
「どうも、です」
「私は少し席を外すよ」
お父さんの座っていた椅子に、
僕は座る。
沈黙が二人を包んだ。
言いたいことがあるんだ、
彼女は身を起こし、
ベッドの足元まで寄せてある、
ブラウン管のテレビの電源を入れる。
静寂の中に、
ぶうぅん、と
音が響く。
テレビに接続してある、
古いゲーム機の電源を入れた。
無音。
ゲームのタイトル画面。
コントローラーを握り、
彼女はスタートボタンを押す。
TIMEが表示され、
カウントダウンが始まる。
軽快でコミカルなBGM、
多分、彼女は死ぬ。
あっけなく、
3、
2、
1、
真っ黒な画面に、
GAME OVERの文字。
「もうちょっと、うまくなりたいな、
ねえ、また、やって見せてよ」
僕はうなずいた。
彼女と違い、
一面を難なくクリア。
二面に入り、
BGMが、がらりと変わる。
言いたいことがあるんだ、
それは変わらない。
二面をクリア。
僕は、
三面は一面と同じBGM。
僕は、
クリア。
四面、
ボス面。
プレイヤーを焦らせるBGM。
僕は、僕は、僕は、
動く床のタイミングをはかっている間、
無意味にBボタンを連打する。
ファイアは出ないのに。
ボスの手前まで行って、
彼女にコントローラーを渡す。
「ちょっと、いきなり、」
彼女はBボタンを連打する。
ああ、
そこは、
Aボタンを押さないと、
敵の吐いた炎に当たる。
彼女はまだ、Bボタンを連打している。
もう、
意味がないのに。
彼女は死ぬ。
「なんで、死んじゃうんだろうね、」
僕は、言った。
「しょうがないじゃない、
下手なんだから」
彼女は言った。
3、
2、
1、
GAME OVER
ゲーム機は、お父さんから返してもらった。
PUSH BUTTON B TO SELECT A あめはしつつじ @amehashi_224
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます