VSゴブリン×冒険者のパーティー戦
「っ……はあ!」
『ギャー!』
ゴブリンが追撃とばかりに跳び上がり、どこからか箒を取り出してぶん殴ってくる。
それに対して刃を放つが、箒に当たった刃が火花を散らした。切れ込みが入ったが両断できてはいない。すぐに横にそれて攻撃を避け、ゴブリンの横っ腹に回し蹴りを放って距離を取る。
「『ヒール』」
一瞬出来た隙を使って回復魔法を使う。あの爆発魔法で出来たダメージがそこそこ回復出来た。
『ゲギャー!』
直後に襲い掛かってきたゴブリンの攻撃を横に跳んで避け、短杖と光の盾で攻撃を防ぎつつ、俺は一旦攻撃するのを辞めて周囲を見渡した。
佐野さんが一体、明野と四ノ原が二体、俺に一体。見事に乱戦になってしまっている。
一体一体が6等級ダンジョンのボスクラス以上。この布陣はいささか不利だ。
俺自身は問題ない。ソロでダンジョンボスを倒したこともあるから自信がついている。でも、他の三人は明らかに動揺していた。
一対一ならともかく、一人でも減られると勝ちの目が途端に減ってしまうことになる。
少し考えて、俺は声を上げることにした。
ここは教科書通りやってみよう。
「明野、立て直すぞ! 四ノ原と佐野さんも合わせてくれ!」
その言葉に、ゴブリンの攻撃を盾で防いでいた明野が少し驚いた顔をするも、すぐに笑みを浮かべた。
「……了解!」
俺はゴブリンに居合切りをばら撒いて牽制し、明野の元へと向かう。佐野さんも俺の考えを読み取ってくれたのか、同じく明野の方へと向かった。
「えっ、え? 何何何!?」
目を回す四ノ原に声を上げる。
「四ノ原、牽制頼む!」
「わ、分かったわよ!」
四ノ原が投げナイフを取り出してそれを投げまくる。俺と佐野さんを追いかけていたゴブリンが足を止めた。
全員が明野の……重騎士の元に集まる。
「行くよ! 『騎士の宣誓』!」
重騎士の職業技だ。敵に強烈な敵対心を植え付け、敵を引き付ける効果がある。
『ゲギャー!』
ゴブリン達が明野に注目したその瞬間、俺はその場を埋め尽くす勢いで魔力障壁を展開していた。魔力の霧が周囲に立ち込める。
「後方に移動!」
「人使い荒いな!」
言いつつも、明野の盾に魔力が集まる。
「全員掴まれ!」
明野のブースト移動で、全員で霧から脱出する。そして霧が晴れると、そこには先ほどまで明野がいた場所に攻撃を仕掛けようとして、明野を見失って困惑するゴブリンが残されていた。
これで4対4の構図を作れた。
「うまくいった……!」
「いやぁ、助かった。あの奇襲は老骨には堪えたよ」
「目が回るぅ……」
どうやら全員無事のようだ。
「ふう……後はセオリー通りやろうか」
俺がそう言うと、頷きが返ってきた。
「2体までなら僕が受けられる」
明野の言葉に、佐野さんが頷いて俺に目を向けてきた。
「1体は任せても?」
「了解」
「……私は?」
不安そうにそういう四ノ原を、明野が笑って返事をした。
「何があっても僕が守るから、小春は好きに動いてみてくれ」
「……了解!」
明野の指示に笑みを浮かべ、ナイフを構える四ノ原。やっと調子を取り戻してきたらしい。
「合図をしたら一斉に仕掛けよう」
「あいよ」
明野の言葉に返事をする。後は相手の出方次第って感じだが。
『ゲ・ギャ・ギャ!』
奴らは遠距離攻撃を仕掛けてきた。初めにしたみたいに俺達をバラバラにするつもりなのだろう。
当然、それに何度も付き合ってやる程こちらも馬鹿ではない。
明野が前に出て、盾を構えた。
「来い! 『リフレクタシールド』!」
盾が鏡のように輝き、ぶつかった宝石弾を跳ね返した。若干威力が下がったが、自分が放った魔法がそのまま返ってきたゴブリン達は見事意表を突かれたらしく慌てた様子だ。
「今だ!」
明野の合図と同時に俺は駆け出し、瞬く間にゴブリンの目の前に移動していた。
『ギャッ!?』
ゴブリンが俺に攻撃をしようとしたその瞬間、背後で「『騎士の宣誓』!」という明野の声が聞こえた。ゴブリンの意識がそちらに強制的に向かわされる。
だが、ヘイトを向けさせる技は流石に目の前に敵が迫ってきている状態では不完全な効果しか発揮できない。すぐに効果が切れて俺に意識を向けるだろう。
だが、俺にとってはその一瞬だけで十分だ。
「……『同居切り』」
俺は短杖から刃を引き抜き、武器の効果を発動させた。意識を奪われた数秒の間に姿を消した俺に呆気にとられた表情を浮かべたゴブリンを、俺は真っ二つに両断したのだった。
「オオオオォォォ! 『ギガインパクト』!」
隣では、ゴブリンを叩き潰す佐野さんの姿があった。凄まじい威力で地面に3m以上あるクレーターができてしまっている。
さて、これで残り2体。ここまでくれば後は消化試合だ。後ろを振り向くと、明野に意識を奪われたゴブリンがばしゅっ、と瞬間移動して攻撃を仕掛けていた。
「死ね!」
『ゲギャッ……』
だが、それを四ノ原が狙う。上空に跳んだ四ノ原が、ナイフを取り出して投擲、それが一体のゴブリンの頭に突き刺さり絶命させる。
「『リターン』!」
そして、盗賊特有の魔法を発動。『リターン』は盗賊の基本的な技で、投擲物を自身の元まで引っ張る魔法だ。
「ここ!」
『ギギャー!?』
だが、本来ならそれだけの魔法なのを、四ノ原は戻ってきたナイフを『浮葉』の応用で受け流し、速度を増させて流れるように再度投擲した。先ほどよりもずっと威力の高い一撃がゴブリンの胴体を貫き、死亡させる。
「巧いな」
「これはお見事」
思わずつぶやいた。投擲物を自身の魔力の流れに乗せ、押し出すことで威力を上げたらしい。仮に俺が同じ事をしろと言われたら、そこそこの練習が必要になるだろう。
「いやったー! 倒せたー!」
着地した四ノ原が、途端に歓声を上げた。
「見てた? 今の技、考えてはいたけど全くできなくて諦めてたんだけどさあ、やっとできるようになった! 田中が教えてくれたお陰だよ、ありがとうね!」
「おう。おめでとう四ノ原」
四ノ原はどうやら自分の課題をクリアできたらしい。
「私の考えだと、今のを連続でやったら加速度的に威力が上がっていくから、悩みの種だった火力不足をどうにかできそう! 回数が増えるごとに難易度上がるけど、まあコツは掴んだし多分大丈夫、かな?」
「良かったね、小春!」
「ヤマト君……うんっ」
明野は四ノ原の頭を撫でて、本当にうれしそうに微笑んだのだった。
さて、これで出てきたモンスターはすべて倒したが……俺は周囲を見渡す。
ボスを倒せば、ダンジョンは徐々に魔力を失っていき消え去ってしまう。それは隠しダンジョンでも同じはずだ。
現時点で、今俺がいるこのダンジョンは、まだ崩壊の兆しを見せていない。
「……まだ何かありそうだな」
「えっ、まだあるの?」
「さっきのゴブリンは、ボスモンスターじゃなかったのか……」
明野が喉を鳴らした。
気持ちは分かる。普通にやられていてもおかしくなかった相手が、ただのモブモンスターだったという訳だ。
そうなると、このダンジョンは俺達の手に余る。早急に脱出する必要がありそうだ。
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