即席パーティー×戦術共有
「っ、こうっ?」
「魔力の流れにムラがあるな。もっとスムーズに動かせるよう意識してみてくれ」
「分かったわよ……!」
四ノ原が俺に向かって二本のナイフを振りかざしてくる。『流撃』を使った流れるような連撃を、俺は同じく『流撃』を使って全て弾いて流した。
しばらくそれを続けていると、徐々に動きが雑になっていき、最終的に肩で息をし始め動きを止めてしまった。
「はあ……はあ……す、少し休憩……」
「了解。それじゃ休憩するか」
「お疲れ、二人とも」
明野がスポドリを二本持ってきてくれたので、遠慮なく受け取る。体力がなくなり白くなり、ぺらぺらの紙みたいにふらふらしていた四ノ原は「ありがと、ヤマト君……」と言ってスポドリを受け取り、ごくごくと喉を鳴らした。
「疲れるってことは、魔力の流れに無駄があるってことだ。まだまだだな」
「ぜえ……ぜえ……田中、意外とスパルタだったぁ……」
四ノ原は隅の方まで言って、洞窟の壁に背を付けて座り込んでしまった。
俺は今、明野、四ノ原、佐野さんの三人とダンジョンに来ていた。そこで、モンスターが沸かないスポットを見つけて四ノ原の特訓に付き合っている状態だ。
そして、件の四ノ原だが……十分に動けているし、火力の乏しい『盗賊』という職業についているにもかかわらず、同格相手なら何とかしてしまえる程の火力は持っている。流石はクラス内トップ勢といった実力だ。
だが、それでも本人は今の自分に満足できていないらしい。そこで俺に型を教えてもらい、基本を再確認してほしいというのが彼女のやりたい事だったらしい。
今はそれに付き合って、彼女の型を見ている所だ。他の人よりかは洗練されているが、やはり俺から見たら無駄は多い。そこを指摘するのが俺に求められていることだろうという事で、遠慮なく指摘しまくっている。
「大丈夫ですか、四ノ原さん。タオルもどうぞ」
「おじ様、ありがと~……」
四ノ原の介抱をする佐野さんを後目に、明野が俺に話しかけてきた。
「さて、小春が回復するまで暇だし、僕と軽く模擬戦でもどうかな?」
「お、良いね。もちろん良いぜ」
頷くと、明野は特異な笑みで武器を構えてきた。
「僕は重騎士だ。守りだけは一級品だよ」
手には巨大な盾、そしてもう片方の手に幅が広い鈍器のような片手剣。守りと瞬間火力に特化したレア職業の一つだ。
こう言っちゃなんだが、動きの遅い重騎士は、高い機動力を出せる俺からすればかなり有利な相手だ。明野もそんなことは分かっているだろうが、自信はありげ。
これは何かあるな?
「いくぞ!」
俺はそう言って明野に切りかかった。盾で守られるも、即座に真横に移動して流れるように追撃を放つ。
「甘い!」
だが、それも剣で受け止められた。カウンターが放たれる。重騎士のカウンターは高火力で有名だ。俺は一旦後ろに下がって距離を取ることにする。
だが、それを見て明野はにやりと笑った。そして、盾に魔力を流したかと思うと、そこから謎の推進力を得てロケットのように突っ込んできやがった。
「おわっ!?」
高機動で突っ込んできた明野の振り下ろしに、俺は驚きながらもすぐにその場から跳んで避ける。
だが、明野は今度は剣に同じように魔力を流して、推進力を得て俺に追いすがってきた。そして剣を振り下ろそうとして、途中で動きを止めた。
「――――という訳で、これが僕の編み出した『ブースター』って技だ。魔力を流して、それを『浮葉』の応用で押し出して、一気に移動する。重騎士の機動力を解決するためのものさ」
「お、おお……いや、すげえな。なんというか」
「原理としては、この間の君の出ていた動画でやっていた、霧のカタパルトと同じなんだけどね。それを若干コンパクトにしたものがこれだよ」
「へえ」
「まあ、後はスキルと組み合わせてちょちょいとするんだけども……僕だけの基本の型だね」
自分の魔力をカタパルトにするのは、実はかなり神経を使う難易度の高い技だ。俺の場合は魔法で使った魔力に加え、相手が放ってきた魔法の魔力も使って無理やりやってたが、明野の場合は完全に自分の魔力だけで行っていた。
練習すれば俺もマネできるか? もしかしたら戦術にも取り入れられるかもしれない。
……というか、なんでコイツは急に俺に自分の技術を見せびらかしてきたんだ?
「さて、次は私からも一つお見せしようかな」
「佐野さん」
今度は佐野さんがやってきた。奥で一人になった四ノ原がぬぼー、とこちらを眺めているのが見える。
「よっと……」
少し離れた場所で佐野さんが取り出したのは、戦槌だった。
佐野さんは『戦士』のジョブだ。ハンマーや斧といった武器を得意とする、バリバリの戦闘職である。
「はあ!」
そう言って、佐野さんは地面にそれを振り下ろした。
すると、不思議なことが起こった。戦槌は地面に思いっきり突き刺さり、巨大なクレーターを作った。そして、更に少し遅れて、二発目のインパクトが地面を吹き飛ばしたのだ。
「ふう……これは私の編み出した技で、『二重の槌』というものです。武器に纏わせた魔力を、武器の先端で思いっきり圧縮させ、それで攻撃を強化する……まあ、『剛撃』で威力の高い技を放ち、『浮葉』の応用で、自分ではなく相手を吹き飛ばす、攻撃に特化した技だね」
俺は喉を鳴らした。なんて威力だ。
って言うか、避けるための型である『浮葉』を攻撃に転用しようとか、発想すらなかった。これは中々、見習える点が多い。
「当然、私のこれもスキルと組み合わせることで実戦で使っているね」
「凄い。本当にすごいんだけど……」
俺はついに疑問を口にした。
「なんで二人とも、急に俺に自分の技を見せてきたんだ?」
俺の問いかけに、明野と佐野さんはにやりと笑った。
「私達はライバルだろう? 一方的に相手の情報を知っているというのはフェアではないからね」
「機会を見つけたらこうしようと思ってたんだ」
なんだ、そんな事気にしてたのか。別に気にすることなかったのに、律儀な人達だ。
「へえ、なるほどな。でも良かったのか? 魔力操作は俺の十八番だからな。敵に塩を送ったようなもんだろうに」
「奥の手は別にあるしね、問題はないよ!」
「もちろん私も同じく。むしろ、こちらもこちらで技術は日々取り入れているからね。もしかしたらずっと強くなっているかもしれないよ?」
俺達はにやりと笑い合った。
「久しぶりにやりますか、1対1対1のサバイバル試合」
「良いね。そろそろ自分がどれだけ強くなれたか確認したかったところなんだ」
「若い子たちのお遊びに付き合うのも、紳士の務めだよ」
ヒートアップする俺達だったが、四ノ原が慌てたように声を上げてきた。
「ねえ、私の特訓は!? っていうか、私もトップ勢の1人なのに、何3人だけで熱くなってんの!?」
あ、忘れてた。
「すまんすまん。もちろん忘れてないぞ」
「一瞬で分かる嘘つくな、田中!」
「あはは、ご、ごめんね、小春。試合は次の機会にしようか」
「それがよさそうだねえ」
喚く四ノ原を何とかなだめ、その後特訓を再開させた。
そうしてしばらく経った後、不意に地震が俺達を襲い、ダンジョンが揺れ始めたのだった。
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