注意×即席パーティー

「……という訳で、過去にも注意したことは何度もあるかと思うが、やはり訓練生でもひょんな事から他人の配信に乗ったりしてしまい、拡散されることがあるようだ」


 授業終わりに、鬼頭先生からこんな一言が送られた。


「当然、中にはそれが嬉しい奴もいるだろうが、不本意な奴もまたいるだろう。その上、一度出てしまった動画は、もはや消すことは不可能だ。だがだからと言って泣き寝入りする必要はない。こういったトラブルに関しては、俺達は全力で相談に乗るし、解決に力を貸すつもりだ。どんと頼ってくるように」


 「それから」と言葉が続く。


「俺達はプライベートチャンネルで君たちの冒険を見ているが、一部の訓練生は既に、外部の冒険者と組んで配信をしていることも当然知っている。外部の冒険者相手に辞めろとは言えんが、それでもお前らはうちの訓練生だ。そこをわきまえた上で節度のある行動をとってくれることを祈っている。それでは、解散!」


 授業が終わり、俺の場所に明野、四ノ原、佐野さんがやってくる。


「田中君、本当に大丈夫?」

「大変だったみたいだね、田中君。あれは確か、ファイトクラブのバッチだったろうか。大きなクラブだからね……トラブルに巻き込まれてはいないかい?」

「そんな事よりも、アンタあんなに強かったの!? だったらそうと先に言っておきなさいよ! もー!」


 真剣に心配してくれている二人に、何故か興奮気味にぷんぷんと怒る四ノ原。俺は心配してくれた二人の気遣いに嬉しく思いつつ口を開く。


「ファイトクラブに関しては、まあ謝罪も貰ったから大丈夫ですよ。動画が出回ったのは不本意ですけど、もう諦めました。炎上してるって訳じゃなさそうだし、害は……無ければいいなぁ、マジで」

「今後次第って感じだね。ああいうのは正直、どうしたって防御できない気がするよ。気にすることないからね田中君。人のうわさもなんとやらっていうし」

「そうだな。気にしすぎないようにする」


 さて、この話題についてはこれ以上触れられてもらちが明かないだろう。俺は話を変えるべく口を開いた。


「そうだ、佐野さん。試験ってもうありました?」

「ん? ああ、5等級ダンジョンへの挑戦資格の試験だね。私達はもう受けたよ」


 佐野さんが言うには、試験の日程や内容について、向こうから連絡が来るらしい。佐野さんが受けたのはつい最近のことで、同時期に報告をした俺ももうすぐ来るんじゃないかとのことだった。


 明野が悔しそうにする。


「くう、また差を付けられた……佐野さん、試験の内容ってどんなのでした?」

「筆記については、訓練校のテストの点数次第で免除されるらしい。実技に関しては、5等級ダンジョンで、プロの冒険者の監督の元冒険するという形だったね」

「5等級ダンジョンに入れるんだ! それで、結果は?」

「何とか、といったところだよ」


 照れくさそうに笑う佐野さん。


「うわー、うちテストの点数足りてるかな……」

「一緒に勉強したじゃないか。大丈夫だよ、きっと」


 俺も結構本気で取り組んだので、多分大丈夫だと信じたい。


 その後も、色々情報共有を行った。


 佐野さん曰く、5等級ダンジョンは文字通り6等級ダンジョンよりも難易度が一段階上がるらしい。出てくる冒険者も強いものが多く、中にはずっと上の冒険者が、休日にちょっとお小遣いを稼ぐために入ってくることもあるらしく、冒険者同士のトラブルに関しては慎重にならなければならないようだ。


「……」


 やいのやいのと話していると、不意に四ノ原が俺に何やら言いたげな目を向けていることに気が付いた。


「……四ノ原、俺に何か言いたい事でもあるのか?」

「……むむむ」

「小春、流石にむむむじゃ伝わらないんじゃないかな」


 明野が苦笑して四ノ原にそういう。


「……あのさあ、田中」

「お、おう。なんだ?」

「……一回、私とダンジョン潜ってくれない?」


 四ノ原はそう言って、俺に真剣な表情を向けてきたのだった。




「私、盗賊のジョブなんだけどさ……最近、ちょっと行き詰っちゃってて」


 四ノ原に話を聞くと、どうやらここ最近思ったように成長できず、焦っているらしい。


 それで、同じ時期に始めたのにソロで活動して前に進んでいる俺から、何か学びたいということだった。


「ツー訳で、お願いします! ……ダメ?」

「俺は別にいいけど……リーダーはどう思う?」


 俺は明野にさじを向けた。


「……そう、だね。小春にもしそれが必要だっていうのなら、僕としては、こっちからも田中君にお願いしたいくらいだよ」


 そこまで言って、明野は肩を落とした。


「小春がそんなこと思ってたなんて気づかなかった。リーダー失格だな、僕」

「えっ、ち、違うよ! ヤマト君は悪くないもん! ただ、ヤマト君に迷惑かけたくないし……迷惑かけるなら田中にかけた方がマシって言うか」

「おい」

「あっ。……えへ」


 可愛く舌を出しても騙されるわけないだろ。


「と、当然お礼は考えてるってば。アンタ、暗器使うんでしょ? 私実は二つも暗器手に入れちゃったからさ、それを田中にあげる。どう?」

「なるほどな。それなら一日くらいなら付き合うぞ」


 【暗器使い】のバフは、別に短杖じゃなくても発揮される。できれば他の暗器で具合を確かめたいとは常々思っていたのだ。


 でも、欲しい時に限ってドロップしないんだよな。買うにしても、安いものは大抵不用品扱いで、神殿に献上される。


 値の張るだけの半端なものは買いたくない。ドロップ品で具合だけ調べられるのであれば、それで済ませたいというのが本音だった。


「なら、僕も一緒に行きたいな。田中君の技術は動画だけじゃどうしても真似できないからさ。お礼は……後払いで頼むよ」

「なら、私も行こうかな。丁度今日は休日なんだ」


 という訳で、即席のパーティーでダンジョンに行くことになったのだった。


 

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