壱対多×ファイトクラブ
俺は岩の柱を高速で蛇行し、敵の攻撃を何とかしのいでいた。
「『ファイアボール』」
火力役は主に魔法使いだ。飛んでくる細かな火の弾丸の絨毯爆撃。
分かりやすいこの攻撃に気を取られれば、即座にダーツが飛んでくる。また、たまに僧侶からの攻撃魔法も不意打ち気味で飛んできていやらしい。
爆撃を避けてダーツを弾き飛ばしながら移動していると、前方の岩陰からぬっと刀を持った侍が出てきて斬撃を放ってきた。俺はそれを光の盾でガードし、刃で刀を受けてつばぜり合いになる。
「しっ!」
「うぉっと!」
流してカウンターを返そうとすると、避けられて逆に攻撃を貰う。刃で受けて斬撃は免れたが、勢いそのまま吹き飛ばされる。
「『五月雨』!」
刀が連続で閃き、そこから飛ぶ斬撃が無数に放たれた。俺は光の盾で防ぎながら岩陰に逃れる。
「はあ……面倒だな」
どうしたものか。流石に多勢に無勢が過ぎる。
その上、何故かは知らないが動画で俺の動きを研究されているらしく、ほとんどの手が封じられている。魔力障壁による目くらましも高速移動による連撃も全て対応されてしまうのだ。
おかしい。悪意を持った突発的な行動ならいざ知らず、流石に準備が万端すぎる。いやらしい限りだ。
まず、魔法使いか僧侶をどうにかしなければにっちもさっちもいかない。
その為には侍と盗賊を抜けなければならないが、侍が前に出て、盗賊が死角を補助する形で堅実に立ち回ってくる。面倒この上ない。
「まさかここまで生き延びられるとはな! 最近噂されてるだけあるぜ、アンタ!」
そんな言葉に眉が寄る。俺は思わず口を開いた。
「……貴方達は一体何なんですか? 何が目的でこんなことを?」
「お、やっとおしゃべりする気になったか? よく聞け、俺達は……ファイトクラブの会員だ!」
……ファイトクラブ?
知らない言葉だ。
「なんだ、知らないのか……冒険者の集まりみたいなもんだよ。全国に会員が2万人以上いるでけえクラブさ! 大手企業からスポンサーがついて、冒険者同士の決闘の様子を、会員専用のプライベートチャンネルで配信することで、ファイトマネーが得られるって寸法さ。で、当然俺らも別個で配信ができる。名を挙げるには最高の舞台だろ?」
「……了承した覚えはありませんが」
「頭固い事言うなよ! アンタにも利はあるぜ?」
「俺は職業訓練生です。配信には出れませんよ」
「ちょっとぐらい大丈夫だって。ほら、それよりももっとやろうぜ! 観客を飽きさせちゃ金が減るぜ?」
こっちの都合は完全無視か。面倒な奴らに目を付けられたものだ。
その上俺が負けたら、その様子が配信に乗ってしまうってことだろう。こんな形で戦うのは嫌だが、負けるのはそれ以上に嫌だ。
絶対倒してやる。俺はフードを被って、『霞の木杖』を強く握った。
短期決戦だ。対策取られてる以上、これまで見せた事の無い手でせめて、それに相手が慣れる前に倒す。それ以外ない。
俺は呼吸を整えて岩陰から一気に飛び出した。その瞬間ダーツと『聖なる弾丸』が飛んできたが、それらを流れるような動作で全て紙一重で避けて侍へと切りかかる。
「真っすぐ突っ込んできやがって、自棄になったか!?」
刀を振るって俺の刃を受け止める。その瞬間、俺は『魔力障壁』による霧で周囲を包み込んだ。
「その手はもう見たぜ。『ウィンドスラッシュ』!」
盗賊が手に持ったダーツを振るい、風の刃を飛ばしてくる。それは魔力の霧にぶち当たり軽減されたが、目くらましの為に広範囲に広がっていた霧をばしゅっ、と吹き飛ばした。
それを待っていた。
「『浮葉』」
「は? おわっ!?」
次の瞬間、俺の身体は掻き消えていた。正確に言えば、散り散りになって吹き飛んでしまった霧に乗って身体を空中へと凄まじい速度で吹っ飛ばしていたのだ。
ついでに『同居切り』の効果で姿を消し、侍の肩を切り裂いて、俺は天井すれすれに上空へと飛んだ。
やったことは単純。散らされた霧に『浮葉』で乗って、霧をカタパルトにしてすっ飛んだだけだ。
だが、これなら岩柱を無視して邪魔な後衛へと突貫できる。俺は即座に体勢を取り直して、短杖を構える。
「さ、させるかよ!」
盗賊がダーツを構えて俺を止めようと突っ込んでくるが、俺はそれを『流撃』を使って流れるような動作でフェイントをかけて両腕を切り落とした。
そのまま横腹を蹴り飛ばして退かし、ノンストップで地面に着地し高速移動で魔法使いと僧侶に突っ込む。
「ひっ、『ファイア――――」
女魔法使いを両断し、そして『流撃』によってさらに動きを繋いで僧侶を切り飛ばした。
「……ふう」
何とか賭けに勝った。ぶっつけ本番でやった事のない技に手を出すのは心臓に悪いな。
「マジ、かよ……」
侍が唖然とした表情で俺を見ている。完全に怯んだ表情だ。
「ち、畜生、やられた……はは、マジで強―――」
盗賊の身体を切り裂いて、HPを吹き飛ばす。
そして、踵を返して、入り口をふさいでいた岩を居合切りでバラバラに切った。
「このことは冒険者組合に報告しますので、悪しからず」
「えっ……ちょ、待てよおい!」
入口は既に確保した。もう戦う理由はない。
俺は侍を無視して、その場から移動したのだった。
『配信見てたぞ! 大丈夫だったか?』
『はい、問題ありませんでした。今組合に寄って報告してるところです』
『そうか……とにかく、書類が必要だったらすぐに言えよ。準備しといてやるから』
『ありがとうございます。動きがあったらまた連絡します』
鬼頭先生からメッセージが着て、それに返事をしていると、組合の職員がやってきたのでスマフォを置く。
「ただいま確認が取れました。そのパーティーは『リトルファング』と呼ばれる、冒険者との決闘を中心に活動を行うPVP専用パーティーですね。確かにファイトクラブにも所属しています」
「そうですか」
「今、ファイトクラブに向けて問題報告を行ったところです」
職員の言葉にとりあえず頷いて、俺は口を開いた。
「ファイトクラブという名前を初めて聞いたのですが、そこはああいう活動が普通なんですか?」
「いえ、そんな事はありませんよ。ファイトクラブ自体は組合にも認められた、スポンサーがついた歴とした組織です。ただ、どんな団体にも迷惑な方というのはいらっしゃるので……」
まあ、言わんとしていることは分かるが……。
という微妙な態度が筒抜けだったのか、職員はぺらぺらと説明を始めてしまった。
「ファイトクラブは、チャンネル登録者数200万人のソロの冒険者、『ルーニー』が中心となって組織された歴とした組合登録の正当な団体です。中身は冒険者同士の決闘を促し、戦闘技術の共有と向上を目的とした互助会なのですが、一番の特徴は決闘の中身を審査し、適切なファイトマネーを出すことなんです。他にも配信したりたまにイベントで大会を開いたりして、大きなお金が動いたりもします」
「へえ、そうなんですね……」
「ちなみに、普通に組合にもチラシが置いてたりしますよ。本当に普通の団体なんです」
そう言って職員がカウンターに置かれたチラシから一枚とって見せてきた。確かに普通の内容、普通の組織のようだ。
「割とファンとかも多いんですよ。実は私もその一人でして……だから、今回こうして起こった事に関しては、本当に悲しい思いでいっぱいなんですよね……そもそも、ファイトクラブは会員以外の決闘に関しては慎重になるよう伝えてますし、決闘も同数VS同数を基本ルールとしています。今回のは完全にルールから逸脱しています」
「そうでしたか……まあ、今の説明でファイトクラブ自体に思うことはもうなくなりましたよ。俺としては、彼らにしっかりとペナルティを与えてくれればそれでいいので」
「あ、すみません……田中さんは被害者なのに、配慮がありませんでした」
「いえいえ。クラブについては本当に無知でしたので、勉強になりましたよ」
「そう言っていただけると助かります……」
本当に気にしてないのだが、自分の行いに気が付いて頭を下げてきた。
「……あ、丁度今ファイトクラブから連絡が来たようですね。えっと……該当する配信動画は削除、また該当パーティーはファイトクラブから永久追放、という事です。組合からは悪質な決闘という事で評価が大きく下がります。もしかしたら納得できないかもしれませんが、どうかこの内容でご了承ください」
「はい、問題ありません」
まあ、これで冒険者としての体裁は保たれただろう。冒険者はやはり舐められたら活動しにくくなるからな。迷惑かけてきたら、しっかりと対応するぞという意思を表示できればこっちはそれでいいのだ。
「また、今回の決闘で発生したファイトマネーは、相手の分も含めて全額田中さんに、という事です。組合経由での支払いとなりますので、税金関係も勝手に処理されますし……お受け取りになりますよね?」
「まあ、もらえるというのであれば」
「畏まりました。では手続きはこちらで行います。本日は本当にご苦労様でした。またのご利用をお待ちしております」
最後にマニュアルであいさつされて、やり取りは終わったのだった。
その後、俺は鬼頭先生に連絡を取って問題ないことを伝えた。
『とりあえず何もなくてよかったよ。これからももし他にもトラブルがあったら、遠慮せず連絡してきてくれ。出来る限り力になるからな』
ふう……こんなもんかな。全く、最近碌にダンジョンに潜れてない気がするな。
組合から外に出ると、不意にスマフォが鳴った。
『田中さん! なにしたんですか!? 新しい動画が拡散されてるんですが……!?』
『田中君、何か悩みがあるんだったら相談に乗るからね……((((;゚Д゚))))』
『田中、昨日からこれどういう事!? これってアンタよね?』
綾瀬さん、明野、四ノ原の順でメッセージが飛んできていた。
「……ああもう……」
俺はため息を吐き出して、どう説明したものか頭を悩ませたのだった。
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