襲撃×ーー

 ダンジョン発生の通知を見て、俺は走ってダンジョンまで向かう。河川敷の架橋下のすぐ真横に現れたゲートに飛び込む。


「地底ダンジョンか」


 中は洞窟が広がっていた。特に苦手とするモンスターが存在しないダンジョンだ。


 俺は全身に魔力をみなぎらせ、早速ボスモンスターの討伐へと向かう。早い者勝ちだからすぐに行かないとな。


 途中で出くわしたモンスターを全員一息に両断しつつ、前へ前へと進む。


 そして、ボスモンスターがいそうな広い部屋に辿り着いた。


「……何も、いない?」


 ここが一番奥だと思うのだが、ボスモンスターが存在しない。きょろきょろと周囲を見渡してみるが、影も形も無い。


 だけど……何かがいる。気配を感じるのだ。


「……」


 短杖を手に持ち、いつでも抜けるようにする。


 警戒したその瞬間だった。背後から何かが飛んできて、咄嗟に居合切りでそれを弾き飛ばした。


 それは投げナイフのダーツだった。弾き飛ばされ宙を回転していたそれは、不意に動きを止め、そして不可解な軌道で俺が入ってきた入口の方へと飛んで行ってしまった。


 そして、闇の中から冒険者パーティーが現れ、そのダーツをぱし、とメンバーの一人が手慣れた動作で回収した。


「悪いな。ここのボスは俺達がもう倒しちまった」


 前に出てきたのは侍だった。腰に刀を下げている。


 他のメンバーをざっと見ると、盗賊が一人に魔法使いが一人、そして最後に僧侶が一人。


 随分とバランスがいい。その上全員が装備の質が俺と同じかそれ以上だ。


「そうでしたか。俺が一足遅かったみたいですね……で、さっきの攻撃の意図は?」

「いやなに、随分と素早い動きをしてると思ったからな。ちょいと決闘でも、どうよ?」

「お断りさせてもらいます。こちらは不意打ちするような方と競い合う気はありません」

「そう言うなって。簡単に弾きやがった癖に、気の小さい奴だな。それとも、件のフードの中身はチキンでしたって落ちかい?」


 動画のことを言っているのだろう。面倒な奴らに捕まってしまったらしい。


 それにしても安い挑発だ。ルーキーだからって舐めてるのか? こちとら以前勤めてたブラック企業で、この世に存在する様々な罵詈雑言を味わってきてるんだ。この程度問題ない。


「これ以上話をする気はありません」

「じゃあどうする? 入口は俺達が塞いでるんだが」


 確かに、唯一の入口は彼らの背にある。俺は舌打ちをしたくなったが、何とか飲み込んだ。


「冒険者組合に報告しますよ?」

「はっ、その程度でビビるとでも?」


 鼻で笑われる。


 一体何が目的なんだ、こいつらは。


 冒険者同士の決闘は、ドロップ品を一つも落とさない。そりゃ個人間の約束でドロップ品や金を賭けたりは出来るが、それらも強制力はなく所詮は口約束に過ぎない。


 つまり、こんなことしても嫌がらせにしかならないのだ。


 まあ、中にはルーキーを潰したい性格の悪い冒険者がいるという噂もあるにはあるが……滅多に存在しない。そんなことをしてもあまり意味はないし、100%生かして返してしまうことになるのであっという間に評価が落ちていなくなるからだ。


 だが、こいつらが入口を占拠する理由はそれくらいしか思い当たらない。もしくはふあれみの動画で目を付けられたかだ。


 運が悪いな、俺も……。


「何を言われようが、俺に決闘する気はありません」

「御託はもういいよ。どうせアンタにはもう戦うしか道が無いんだ。ほら、剣を抜け。言っとくが俺らは一切手加減してやんねえぞ?」


 ああもう、どうしてこうなる!


 凄まじい速度で俺の前まで移動してきた侍の刀を、俺は居合切りで迎え撃っていた。


「『流撃』」

「お!?」


 ステータスでは完全に負けている。それは装備の質から見ても明らかだ。故に真正面からは受けず、受け流すことにした。


 『流撃』を使用した受け流し。いくら相手の力が強かろうが流してしまえばある程度は関係ない。


 その後、更に刃を動かして流れるような動作で首を狙う。だが、その動作をすぐに中断、その場を跳び退いた。


 俺の元居た場所にダーツがいくつも通り過ぎた。更に狙われる。いつの間にか壁を沿って真横に移動していた盗賊が、更に数本ダーツを投げてきた。


「『浮葉』」


 俺はそれに浮葉を使用した。『浮葉』は周囲に自分の魔力を放ち、そして相手の攻撃の魔力に反応させて身体を動かす回避術。それを、魔力操作を極めることで敵の攻撃の感知を行えるようにすることもできる。


 最低限の動きでそれをスルスルと避けた。


「俺の投げナイフをルーキーがあんなに簡単に。ありえねぇ……」

「『聖なる弾丸』!」


 入口を陣取った僧侶から光の弾が放たれた。魔力障壁でそれを分解し消し去りつつ、後ろに飛び退いて抜けてきた光の熱波から逃れる。


「いやー、強いなぁアンタ。ほれぼれするよ」

「……」

「無駄口も叩かないと。良いよ良いよ、今の所高得点だ……でも、まだまだ足りないよなあ?」

「『アースフォレスト』!」


 後ろの僧侶が長い詠唱の末、魔法を解き放った。すると、何もないボス部屋だった筈の大部屋に、大小さまざまな岩柱が現れ始めた。ご丁寧に入口まで岩で塞いでいる。


「さあ、ステージはこれで整ったぜ! もっと見せてみろ、暗器使い!」

「ちっ」


 俺はもはや隠すこともせず、舌打ちを鳴らしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る