決闘×普通の冒険者

 彼は、どこにでもいる承認欲求の強いただの青年だった。冒険者になって有名になる。そんなありふれた夢を持ち、今日も冒険者として活動していた。


 そんな彼が、ダンジョンに潜る一団を見つけて固まった。


「あれって、この辺の有名配信者のふあれみじゃん。え? 男と一緒に何やってんの?」


 男はにやっと笑ってダンジョン内用のカメラを取り出した。


「大スクープじゃね? バズりそう!」


 男は離れた場所から追跡を開始したのだった。







 俺はふあれみと一緒に、適当なダンジョンに入る。入る直前にスマフォに『決闘目的で潜行』のチェックを入れた。


 少し潜って、道から外れた場所を探して俺はレイナと対峙していた。


 さて、決闘だ。決闘自体は冒険者であれば、レベルが近い相手同士であれば逆に推奨されている。冒険者同士の戦闘は、普通に戦闘力の向上に繋がるからだ。


 だが、今回の相手が女子の配信チャンネルで、そこそこ有名だというのが若干問題かもしれない。


 新装備の購入で気が大きくなっていたことに今更気が付いた。


 とはいえ配信もしていないし、本人たちも平気な顔をしている。恐らく大丈夫なのだろう。俺は彼女たちの危機センサーを信じることにした。


「レイナ、なんで決闘なんか言い出したの?」

「私、型マニアだから」

「何それ?」


 準備運動をしているレイナに綾瀬さんが話しかけた。その返答に、綾瀬さんは首を傾げる。


「型……それは最も美しい基本の中の基本。全ての冒険者の根幹に関わる戦闘の骨子じゃん?」

「いや、じゃん? って言われても」

「あの時の田中さんを見て、私も最初は理解できてなかったんだけど……動画を何度も何度も見返してやっとわかった。田中さん。あの高速移動は、『瞬撃』の応用だよね?」

「そうですね。後『流撃』の応用も使ってます」

「二つも応用してたんだ。道理で速いはずだよ! 燃えるな~!」


 レイナが片手剣と盾を構えた。相手は騎士か。


「私だって、型に関しては沢山練習してるんだから! 腕試させてもらうよ、田中さん!」

「こちらこそ、クラス以外の人と戦うのは初めてだからな。手は抜かないよ」


 俺は短杖を構えて戦闘態勢に入る。


「え~……じゃあ、ふあれみのリーダーである私、綾瀬文香が審判をさせていただきます。両者、見合って見合って」

「お相撲?」

「レイナ、頑張れ!」

「――――はじめ!」


 合図とともにレイナが凄まじい速度で距離を詰めてきた。見覚えがある。俺が良く使っていた高速移動だ。ただ、動きが真っすぐでまだぎこちない。


 話の流れ的に、動画を見て俺の動きを真似ようとしたわけか。良い腕してるけど、確かに『流撃』の応用を使っていないようで俺みたいな変則的な動きは出来ていない。


「『シールドバッシュ』!」


 牽制に放ってきた、盾から放射状の衝撃波を叩き出す技を、俺は『光の盾』で防ぎ、更に盾を目くらましにして懐に入り、様子見の居合切りを放つ。


「うわっと、『バックディフェンス』!」


 高速で移動した後で防御をする移動技。その後、魔力操作で硬直を最小限に抑えたレイナはまた高速移動をし始めたので、俺も後からそれを追いかける。


「ちょちょちょ、速いって!」

「攻撃行くぞ」


 直線で移動するレイナに絡まる蛇のように蛇行し追走しながら、思わず口角を上げて宣言し、俺は『瞬撃』を使用した連続の居合切りを四方八方から放つ。だが、相手は恐らく俺よりも経験が長い冒険者で、その上戦闘職だ。足では負けていても俺の居合切りを盾と片手剣で弾き続ける。


「『魔力障壁』」


 着地の瞬間を見計らって、俺は魔力の霧を生み出して目くらましをした。二人を包む霧の中、火花と鋼と鋼を打ち付け合う音が響き、レイナが中から吹き飛ばされるように出てくる。


「そんな使い方あり!?」

「ありじゃないか?」

「無しだよ! わっ」


 最後に『光の盾』で膝かっくんをして、俺はレイナに迫る。だが、レイナが最後に片手剣を横に大きく伸ばして溜をした。


「『ジャッジメント・スラッシュ』!」

「『浮葉』」


 迫る刃をくるりと回転することで、小葉のようにするりと避け、レイナの首に刃先を向けた。


「……審判?」

「……あ、えっと……そこまで! 田中さんの勝ち!」


 俺の呼びかけで、ぽかんとしていた綾瀬さんが慌てたようにそう宣言したのだった。


「うっそー! 凄すぎ、何今の!?」


 そして、綾瀬さんが俺に詰め寄った。


「私も僧侶なんですけど! 『魔力障壁』と『光の盾』にあんな使い方があったなんて知らない……って言うか、普通できませんよね!? そりゃある程度は調整できますけど、一人に一人分の魔力を自動で消費されるから、一人にはここまで! っていう上限があるのが普通だし……どうしてそれが、田中さん一人分にパーティー1つ分の強度を持つ盾を生み出せてるんですか!?」

「魔力操作で無理やりごり押しすればできますよ」

「できませんよ! って言うか、さらっとやってるけど最後の『光の盾』の使い方、あんなの人間技じゃ無くないですか!? 魔法は決まった事象を決まった分だけ発生させるもので、あんなにアレンジできて良いものじゃないんですけど!?」

「練習しましたから」

「練習でどうにかなるかなあ!?」


 今度は尻もちをついていたはずのレイナが横から綾瀬さんを押しのけて出てきた。


「そんな事より何今の! なんで『浮葉』で斬撃避けれるの!? 『浮葉』の性質上、斬撃に使うには物凄く難易度高いのに!」

「ああ、斬撃に使えないのって不便じゃないですか。だからめっちゃ練習してできるようにしたんです」

「って言うか、高速移動も! なんであんなにスルスル動けるの!? 蛇なの!?」

「それも、小回り効かないと不便じゃないですか。だからめっちゃ練習してできるようにしました」

「できる訳なくない!?」


 まあ、確かにそう簡単にできるとは俺も思っていない。魔力操作に才能があるからこそできているのも理解している。だが、あまりの圧力に思わず俺は引いてしまった。


「でも、こうしてできてる訳で……」

「「普通は出来ないって言ってるの!」るんです!」


 残りの二人も、驚いた表情で近づいてきた。


「いやぁー、想像以上だったわ。って言うか、まず職業の補正もない僧侶が、騎士に速度で勝ってんのが意味わかんなくない?」

「おにーさん、凄いー」


 アコが呆れた表情でそう言って、ミリアが目を輝かせて拍手してきた。


「もはやそう言うスキルだって言われた方が気が楽だよ……」

「スキルは職業スキル以外持っていませんよ」

「尚たちが悪い」


 いうに事欠いてたちが悪いなんて言われるとは思わなかった。


「……っていうかぁー、なんでお兄さん、敬語に戻ってるの? さっき普通に話してくれたのに」

「試合中は流石に敬語じゃおかしいでしょう」

「一度変えたのをまた戻すのって変だよ!」

「……分かったよ」


 凄い圧力でそう言われて、俺は手を上げて降参した。


「あの、また決闘してくれる? うちとフレンドになろうよ」

「もちろん。決闘なら喜んで相手になるよ」

「あ、私もついでに!」

「ミリアも」


 それぞれと連絡先を交換したが、果たして使う時は来るのだろうか。


 その後、俺はふあれみと別れた。ふあれみはそのままダンジョン攻略に乗り出すつもりらしい。


 流石にそこまで一緒になるつもりが無かった俺は、そこで辞退してお別れをしてダンジョンから出た。


 さて、俺も俺でダンジョン探して攻略するか。



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