レアドロップ×進級

 あの後、俺は流石に黙っていられず冒険者組合に事の詳細を報告することにした。ダンジョンに関わる情報は共有するのが冒険者の義務だ。利益の為に黙秘すると、バレた後に業界の信用を失うことにも繋がりかねず、結局損をすることになるというのもある。


 当然、内容によって報奨金が凄まじくなるので、それもあるが。


 俺の情報を受け取って、冒険者組合は俺の情報に1千万の価値を付け、その上で俺にやんわりと新しい情報を共有してきた。


 なんでも、俺と似たような事例が最近世界中で頻発しているらしい。


 妖精王ティターニア、雷神ゼウス等の伝説や神話の長を模ったダンジョンボスが複数確認されているようだ。


 現場の混乱を避けるため、時期を見ての公表となるようで、やんわりと口止めされた。ただ、結局こうして漏らすのは、俺みたいに関わった人間に噂として流してもらい土壌を作ってほしいのかもしれない。


 まあ、もしそうだとしても俺は噂を流すような趣味はない為期待には応えられない。それに、噂は既にかなり広がっている。俺以外に遭遇した奴らが匿名で漏らしているようだ。


 結局、隠しダンジョンはただのレアダンジョンではなく、もっと別の、ダンジョンの意思で作り出された何かだったらしい。


『試用期間は終わった』


 ぬらりひょんは最後そう言った。どういう意味なのかは知らないが、嫌な予感はビンビン感じる。


 大変なことに巻き込まれた気がするが、まあ俺は所詮はただの新人冒険者だ。今回はたまたま関わってしまったが、後は上の冒険者が何とかするだろう。


 そう結論付けて、俺の中で今回の件は一応終止符と相成ったのだった。


 さて、そうしてごたごたしている間にも、時は進む。


 まず、俺は2年生に進級した。ここから先は週に2回が必須の半日授業で、それ以外の時間を冒険者として活動するか校舎で勉強するかを選択できるようになった。


 勉強する場合は週五で勉強してもいいらしい。冒険者の方はかなり放任主義のように見えるが、きっちりノルマを課されることになる為、ずる休みして何もしないのはちゃんと許されないようになっている。


 一部以外は冒険者として活動するらしい。俺も負けていられないが……俺は折角ソロなんだ。気ままにやらせてもらうつもりではある。


 という訳で、まず俺は装備の新調をすることにした。


 元々隠しダンジョンを探したのもそれが理由だったからだ。そして、その狙いはおおむね達成できてしまった。


 『霞の木杖/同居切り(短杖/暗器) 星3』。それが、今回のダンジョン攻略の報酬だ。地味な木の杖だが、抜くと片刃の隠し剣が現れる。抜いた瞬間、一瞬だけ使用者の身体が霞に紛れるという珍しい能力も持っているようだ。


 どうやら攻略者の望んだ武器がドロップするというのは本当のことだったらしい。


 ちなみに、同居切りとは暗器状態のことを指す名前らしい。同居の読み方は『どうい』だ。ぬらりひょんという妖怪を彷彿とさせる名前で、若干変な気分。


 性能は当然、『夜の短杖』よりもずっと上。暫くはこの武器を使い続けることになるだろう。


 さて、武器の新調には成功したので、後は防具の新調だ。武器だけ新調して防具はいつまでも初期装備のままというのも格好がつかないだろう。


 折角1千万も臨時収入が手に入ったのだ。今回は店で仕入れてみることにした。


 とはいっても、冒険者用の装備専門店は至る所に存在している。どこがいいか頭を悩ませていると、佐野さんパーティーが装備を一斉に新調していることに気が付いて、思わず話しかけてしまった。


「鬼頭先生におすすめのお店を教えてもらったんだよ。もし気になるのなら、田中君も紹介してもらうと良い」


 ……まあ、経験者に聞くのが一番手っ取り早いか。俺はその助言にありがたく従わせてもらい、鬼頭先生に話を持ち掛けてみた。


「そろそろ来る頃だと思ってたぜ?」


 鬼頭先生はそう言って、装備専門店のパンフレットに、おすすめの場所に赤ペンで丸を付けたものを俺にくれた。


「ま、俺のオススメの店だ。ドロップ品扱うから、装備専門店の品ぞろえの質は店主の力量で左右される。お前も本気で冒険者目指すなら、いくつかお気に入りの専門店を見つけておいた方がいい。眺めるだけでも割と楽しめるし、休日とかに遊びに行くのも悪くないぞ」


 と、そんなありがたいアドバイスも聞き、俺は早速パンフレットの丸を付けてある店に行くことにした……のだが。


「あ! 田中さん! お久しぶりです」


 店に入った途端、知った声がしてそちらの方を向くと、そこには綾瀬さんの姿があった。今日は一人ではなく、パーティーで行動しているらしく、他のメンバーもいる。


「えっと、文香の知り合い?」

「誰?」

「ちょっと、何言ってるの? この人がフードの人だよ?」


 綾瀬さんがそう言うと、他のメンバーは目を丸くして「えー!?」と驚きの声を上げたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る