謝礼×情報入手

 俺に話しかけてきたのは、ふあれみチャンネルのリーダー、綾瀬文香だった。


「本当にありがとうございました!」

「いえいえ……こっちこそ乱入してしまってすみません。本当は引き返そうとしてたんですが」

「映像を見返してみて、あれは不可抗力だったと分かりましたので。それに、逆に迷惑行為を止めていただいて、助けていただきました。感謝しかありません!」


 お礼と称して連れてこられた喫茶店で、深々と頭を下げられて、俺は逆に委縮してしまった。


「逆に、配信内容が拡散されてしまって、ご迷惑をかけてしまったと思います。アーカイブは消そうと思ったのですが、家に帰る頃にはもう拡散され尽くしてしまってて……本当にごめんなさい!」

「特に困ったことは……まあ、無いので気にしないでください」


 一瞬嫌な顔が思い浮かんだが、俺はそれを飲み込んでそう言った。


「そう言っていただけて助かります。こんな事でお礼になるかは分かりませんが、ここは私のおごりですので! お好きなものをお頼みください!」

「そういう事なら」


 俺はとりあえずすぐに食べ終えそうなものを選んで頼んだ。


 その後は雑談……というか、向こうからダンジョン関連の噂や冒険者の情報をぺらぺらと聞かされる時間が過ぎた。最近のトレンド冒険者や、どの種類のダンジョンに行けばどの武器がドロップするかなどを饒舌に語られた。


 情報共有をしてくれているのかと思ったが、単純に噂話が好きなだけかもしれない。


「暗器、ですか? そうですねえ、この辺の地域だと、墓場ダンジョンで暗器が手に入ったはずですよ。後有名なのは北海道の杖ですよね! あれだけ取引価格が暗器の中で飛びぬけてるんですよ! 見た目重視の冒険者に人気らしくて~」


 ちなみにダンジョンは種類とは別に、地域ごとで若干特徴が異なる場合がある。ドロップの内容も変わる為、中には他の地域へ遠征に行く冒険者も多い。


 という訳で、いい機会なので暗器について一応聞いてみたが、ネットで調べたのと同じ情報しか出てこなかった。まあ暗器なんて本気で調べるのはコレクターか俺くらいだろう。


 だが最後に気になる言葉を聞いた。


「そう言えば、知ってますか? 隠しダンジョンの噂! 例えば山とか海とかで、ひっそり隠れるように現れるダンジョンがあるんです! そのダンジョンを攻略できれば、その人の望む種類の武器が確定でドロップするんだそうです。真偽不明ですけど、もし見つけたら入ってみるのもいいかもしれませんね~」


 隠しダンジョン。この情報は聞いたことが無かった。眉唾だけれど、一応後で調べてみるか。


 と、程々の所で食べ終わり、その後解散となった。


「あ、一応連絡先聞いておいていいですか? 冒険者フレンドになりましょうよ!」

「え? あ~……まあ、いいですけど」

「やった! これからもちょくちょく情報送りますね! それでは!」


 連絡先を交換し、綾瀬は颯爽と去っていった。


 これ、大丈夫なのだろうか。そもそも一緒にご飯をするというのも色々大丈夫か心配なのに。俺的には別に気にしないので、本人が大丈夫ならいいのか?


 さて、現在時刻は昼過ぎだ。もう何度かダンジョンに潜って帰ろう。ダンジョンが出てくるまでの間は……一応、さっき聞いた話を調べてみるか。


 『隠しダンジョン』について調べてみると、やはり噂レベルの話ではあるが、掲示板を中心に広がっているようだった。


 曰く、スマフォのダンジョン探知に引っかからず、木々の間や見えにくい洞窟の中に、ひっそりとたたずむように発生していたと。


 中はどの系統のダンジョンとも違う、特殊ダンジョンとなっており、攻略することで自分の望んだ種類のアイテムが手に入ったのだそうだ。


 ただし発見した人間は少なく、殆どは信じられていないようだった。


 しかしもし本当なら是非行ってみたいものだ。今の俺の装備は星1……つまり、初心者装備の枠を出ない。


 その上で暗器なので、通常状態の武器ステータスはそれはもう貧相この上ないものとなっている。『光の盾』や『魔力防壁』も、殆ど俺の素の力で発動しているようなものだ。


 上のランクの武器が手に入れば多少はマシになるはずだが……いかんせん暗器は需要がほぼ無く情報もあまりないし、入手できる機会も他の通常武器と比べて格段に少ない。


 武器の更新は俺にとって常に急務だ。


 ……早速、散歩にでも行くとするか。初心者ダンジョンが出てくるまでは暇だしな。


 俺は隠しダンジョンがありそうな場所を探し始めたのだった。

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