ボス×嫌な出会い
ダンジョンに入って、俺は周囲を観察する。どうやら今回も地底ダンジョンのようだ。早速走り出し、ラッドやバットを倒しながら俺は前へと進む。
今日の目標は、ボスへの挑戦だ。
現在俺は仮免冒険者なのだが、仮免冒険者が6等級以上のダンジョンへ…つまり、次の舞台へ上がるためにはボスの討伐実績が必須。
うちのクラスでボスの討伐実績があるのは、今の所佐野さんパーティーだけだ。だが、明野パーティーは言わずもがな、他のパーティーにも割とできる奴は多い。そろそろボス討伐を成し遂げ始めるだろう。
ソロであっても…いや、ソロだからこそ、その流れに遅れる訳にはいかない。やられた場合の数日のダウン期間が怖いが、多少のリスクを恐れて二の足を踏み続ける事だけは避けなければならない。
さて、その為にもまずは暗器に慣れなければならないのだが…一番安定する戦術は既に見つけてある。
それは居合だ。一瞬で切って一瞬で鞘に納める。そうすることで、僧侶の防御魔法と暗器状態の火力を両方とも使いこなすことができる。
まずは練習だ。丁度よく集団で襲ってきたラッド達を、『瞬撃』で一瞬でバラバラにしつつ、すぐに杖に暗器を収める。
「うん、良い調子だ」
呟いた直後に、残った最後の一体のラッドが体当たりしてきたが、それを光の盾でいなしつつまた居合切りを放つ。両断されたラッドが地面にぼとりと落ちて、溶けて消えていった。
攻防一体。それがソロの俺にとって最も安定する戦術のはずだ。
それに、居合の形を取ることで、斬撃を放つ直前に一気に集中することができる。お陰で魔力操作に更に集中することができて、それが火力アップにつながってる気がする。
俺はしばらく雑魚敵相手に居合の練習をしまくって、慣れてきたところで早速ボスへと挑むことにした。
高速移動で奥へ奥へと進んでいく。すると、一際大きな洞窟に出た。中央には黒い人影がある。
赤黒いオーラを身にまとった人型の影。『闇の使者』と呼ばれる、前戦った徘徊種のラッドマンと同程度の亜人モンスター。
「……----!」
奴は俺を認識した途端に、赤黒い魔法陣を浮かび上がらせて魔法を放ってきた。
確か『ダークサンダーボルト』。闇のパワーで雷を模し、ソレを放つ初級闇魔法だ。
「『魔力防壁』!」
俺はすぐに魔力防壁で防御した。虹色に光る魔力の霧が壁となって俺の前方を包み込む。黒い雷が激突するも、中和されて霧散していく。
魔力防壁は本来、魔法を分解する虹色の霧で仲間全体を包み込む魔法で、その効果は魔法の軽減だ。
だが、俺の場合は魔力操作で仲間全体を包み込む霧を全て自分ひとりに集中させ、無理やり魔法を完全に無効化するバリアとしている。
本来パーティーメンバー全員に盾を付与する『光の盾』も同じ理屈で運用している。
俺は一気に地面を蹴り、霧の中から飛び出し闇の使者へと接近した。
すると、奴の黒い腕が伸びてしなり、俺に向けて振り下ろされた。
奴は魔法の他にも、影で出来た若干不定形な腕を使い、鞭のように攻撃してくる特徴がある。初心者ダンジョンでも魔法も近接もこなすかなり厄介なボスとして有名だ。
俺は地面を蹴って進行方向を急遽変更し、その攻撃を避ける。そしてそのまま居合切りを放った。
「『瞬撃』…!」
「――――……!」
闇の使者の身体に、複数の切り傷が瞬時に走る。だが、すぐに再生。俺に反撃を仕掛けてくる。不定形な身体を変化させ、複数の針を突き出してきたのだ。バックステップで何とか避け、反撃に刃を出して針を粉々に砕いてやる。
「『剛撃』」
「――――……」
更に刃を走らせ、闇の使者の身体に一閃入れる。負けじと奴も鞭のように腕をしならせ攻撃してくる。ステップで避け、避けきれなかった横からの掌底を光の盾で受ける。
吹っ飛ぶが宙返りして体勢を整えて、地面に着地すると同時に突撃する。闇の死者はその間に魔法陣を新しく浮かべていた。
「届け!」
刃を走らせる。それは闇の使者の首の部分を一閃したが、魔法陣は止まらなかった。
黒い雷の範囲攻撃。俺はすぐさま刃を杖に収納し、魔力防壁を展開。だが、流石に軽減しきれずに貫通され、頬や胴体に当たり吹き飛ばされる。
「ぐっ…」
じゅうっ、と当たった部分から煙が出る。HPがガリガリと削られる不快な感覚。直撃してたら一撃で終わってただろう。
ゴロゴロと転がりながら、自分にヒールを使いすぐさまHPを回復させる。何とか体勢を立て直してずささと滑りながら着地し、闇の使者を見る。
「―――……、――……」
首の再生がうまく進まず、苦しそうに呻く闇の使者。どうやらさっきの一撃が効いたらしい。俺はすぐさま追い打ちを仕掛けるべく駆け出した。
「食らえ!」
「―――……」
はっと俺の接近に気付いたように顔を上げた闇の使者の胴体に、刃による袈裟切りを放ち、奴は地面に倒れ伏したのだった。
「はあ…はあ…」
闇の死者は動かず、そのまま地面に溶けて消えていく。
倒した。その実感がじわじわと湧いて出てくる。
「ははは…最初の一歩目、まずはクリアだな…ん?」
闇の使者が溶けて消えた場所に、何かが落ちていることに気が付いた。ドロップ品だ。
「『影の手』…杖カテゴリか。俺には使えないな」
長い柄の先端に、真っ黒な手の様なものが付いた魔法職用の杖。売れば5万は行くだろう。悪くない。
俺はそれを拾い上げ、踵を返して歩き出した。
ボスモンスターが消えた結果、このダンジョンの寿命は長くて1時間程。徐々に崩れていき、最終的に消えていってしまう。
最後まで中にいると、強制送還で外に帰らされることになる。当然デメリットはそのままだ。とっとと出るのが吉だろう。
という事で出口に向かって真っすぐ歩いていると、不意に曲がり角から見知った顔が出てきた。
「あれ? 田中氏じゃん。おひさ」
池田、佐藤、鈴木。そして後ろからは、まあ美少女といえなくもない、ゴスロリ衣装を身に着けた少女が出てくる。
「え~? もしかして、私の前任の人ですか~? うわ、結構タイプかも~!」
俺は面倒事の予感を察知して、小さくため息をついたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます