救援×決闘

「やっぱりボス強いよ~!」

「大丈夫、私達ならいけるよ!」


 少し走っていると、戦闘音が徐々に大きくなっていき、最終的に俺はボス部屋の入口までたどり着いた。


 そこでは少女4人のパーティーが、巨大な動く鎧…グレイト・リビングアーマーと戦っている光景が広がっていた。


 入口は複数あるらしく、俺はそのうちの一つから顔を出している状況だ。


 彼女たちは俺のような職業訓練校に通う仮免冒険者ではなく、普通の冒険者のようで、配信をしているようだった。後ろに配信用の魔道具が付いて回っている。


(…やっぱり救援の必要はなさそうだな)


 悲鳴もただのリアクションだったのだろう。そう判断した俺はすぐに踵を返す。その瞬間だった。


「大丈夫かああああ!」


 不意に男の声が乱入したのである。思わず足を止めて後ろを振り返ると、そこにはさっきまでいなかったはずの男冒険者が4人、横合いからボスを攻撃している姿があった。


「え、ちょっと…」

「私達が先に戦ってたじゃん! 横やりはマナー違反なんですけど!?」

「悲鳴を聞いて駆けつけてきてやったんだ! 俺達が一緒に戦ってやるから、頼っていいぞ!」

「だから、邪魔だって言ってるんです!」

「はっはっは! 女の子だけで戦わせるわけにはいかない! 俺達に任せろ!」


 物凄い良い笑顔でそんな事を言う彼らは、女子パーティーの話を全く聞いていないようだ。


「ええ?」

「なにこれ…」


 予想外の事態に白けた空気が流れている。女子パーティーのリーダーだろう子の額には血管が浮き出ていた。はたから見るととんでもない修羅場だ。


 当然である。冒険者としてステータスを得て、職業にまでついている限り、そこに男女差は一切存在しない。差ができるのは個人個人の思考のセンス、才覚や努力によってのみである。


 つまり見知らぬ男パーティーのやっていることは完全なお門違いだということだ。


 その上、彼らは実力的には女子パーティーよりも下だった…というか、張り切って活躍しようとしているようで連携が一切取れていない。お陰でフィールド全体に混乱が広がって女子パーティーも戦い辛くなっており、戦況はがたがたになっていた。


(とんでもない場面に出くわしてしまった。とっとと退散しよう…)


 単純に関わりたくない面倒事の匂いを察知して、俺はそそくさとその場から逃げようとした。が、次の瞬間だった。


 ボスであるグレイトリビングアーマーが装備している大剣による攻撃が、こちらにまで飛んできたのである。


「おわっ!?」


 俺は咄嗟に身を屈めて『光の盾』を展開。朽ちた大剣は重量で俺のいる入口を押しつぶした。


 大剣は『光の盾』で防いだが、上から瓦礫が落ちてきたので俺は思わずボス部屋に転がり出た。


 さっと身に着けていた僧侶用のローブのフードを頭にかぶり、顔をできる限り隠す。


 視線が突き刺さる。女子パーティーがうんざりした顔でこちらを見ていた。


「は? また男?」

「なんなの、もう!」


 凄まじい歓迎である。言いたい気持ちは分かるが誤解だ。


 ただ、この状況で男の俺が何を言っても恐らく無駄だろう。


 さて、場は混迷を極めている。どうしたものか。


「あ!? なんだお前、邪魔すんな!」

「もう俺らがいるんだから、余計な茶々入れてくるなよ!」

「そうだそうだ!」


 男パーティーからもそんな声が飛んできて、俺はうんざりした気持ちになった。


 …もう面倒だ。俺はため息をついてメイスを胸の前に掲げた。


「余計な茶々だと? 本当に余計な存在はどちらなのか教えてやる。決闘だ!」


 俺は大きな声でそう告げた。


「な、何だと?」

「この状況で何を…」

「先に喧嘩を売ってきたのはお前らだ!」


 俺はその場から一気に駆け出した。魔力操作による応用、高速移動だ。


 そして抜刀。まさか僧侶が暗器を持っていて、ソレで攻撃してくるなんて思いもしていなかっただろう男冒険者達の首を一瞬で切り落とした。


 攻撃力がブーストされた斬撃は、彼らのHPを一気に全損させる。彼らの身体が光り輝き、ばしゅっ、と音を立ててその場から掻き消えた。


 そして、そのままグレイト・リビングアーマーから距離を取る。


「邪魔者は消したぞ! 悪いがこれ以上関わり合いになるのはごめんだ! 離脱するが良いな!?」

「えっ、は、はい! ありがとう…?」

「さっきの決闘、非があるのはあちらだと申告してくれると助かる。では!」


 俺は困惑している女子パーティー達を置いて、ボス部屋を脱出したのだった。


 さて、先ほどの俺の一連の行為は、『冒険者同士の決闘』である。


 ダンジョン内では割と冒険者同士の戦いが行われている。そして冒険者組合もそれを推奨してたりする。


 決闘を宣言して戦った場合、冒険者はHPを全損させてダンジョンから帰還したとしても、ステータスが動かなくなったり、体調不良になったりなどのペナルティを負う事はない。


 決闘が行われる理由は様々だ。意見が対立した場合や、実力を競い合いたい場合、経験を積ませる為など…まあスポーツ感覚で行われる事が割と多い。


 そして、時にはマナー違反を行った冒険者へ、制裁として行われる場合もある。


 決闘の理由や結果は、神々へ伝わり、そこから冒険者組合へも伝わることになっている。もし決闘があまりにもマナーに違反していたり、公平なものでなかった場合、決闘を吹っ掛けた冒険者には制裁が下されることになる。


 今回の場合は、横やりを行った奴らへの第三者の制裁という形を何とか取れるようにしたのだが…どうなるかはぶっちゃけ分からない。


 何せ彼らはボスと戦闘中だったのだ。そこに無理やり決闘を吹っ掛けたのだから、俺が悪くなる可能性もある。


 相手は確実に俺に対して怒りを持っているだろうし、冒険者組合に申し立てられるかもしれない。


 その時は女子パーティーも意見してくれたら楽なんだが、人生そう上手くいくとは思えない。特に女子なんて大体が気分屋だ。頼っていい事なんて一つもないだろう。


 俺は救援に向かう前とは打って変わって、暗澹とした思いになりながら、ダンジョンから脱出したのだった。


 ちなみに、外には例の男パーティーはいない。当然だ。強制送還の向かう先は、冒険者組合が管理している神々の教会なのである。


 とは言え世間は狭い。会わないように祈りつつ、今日はもうこの辺でいいだろうと見切りをつけて俺は家へと帰った。


 次の日の朝。スマフォを見ると組合から連絡が来ていた。


 どうやら昨日の決闘は、こちらには非が無いと判断されたようだ。


 女子パーティー…名前は『ふあれみチャンネル』というらしい。どうやら彼女たちが申告しておいてくれたみたいだ。


 世の中まだまだ捨てたもんじゃない。


 とりあえずほっとしつつ、俺は朝の支度を始めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る