光明×目標

 一瞬にして、勝手に動くがらんどうの鎧…リビングアーマーが両断される。


 2体目のリビングアーマーも同じように上半身と下半身を両断。


 俺は黒い両刃の細剣を一度払って、杖へと収めた。


「…想像以上に悪くない」


 ファミレスを出て真っすぐ向かった初心者ダンジョンで、俺は試し切りを繰り返していた。


 神殿に続いていそうな神秘的な回廊が無限に続く。たまにある窓からは外は見えず、白い光で埋め尽くされている。


 聖域ダンジョンだ。6等級だと朽ち果てた自動戦闘鎧や、羽の付いた小さめのマリオネットなどが良く出る。


 さて、試し切りの結果だが、先ほどのつぶやきの通りだ。想像以上に悪くない…というか、想像以上に手ごたえがある。


 移動して、新しい試し切り相手を探す。すると簡単に複数体のリビングアーマーを見つけることができた。


 朽ち果てた鎧は打撃に弱く斬撃に強い。彼らは緩慢で、しかし錆びついた剣を手に持っている為舐めていると痛い目を見る相手だ。


 俺は短杖を手に持ち、そして取っ手として機能する飾り部分を掴んで引き抜き刃を見せ、一体目を出会い頭に斬った。


 スキル【暗器使い】の効果で攻撃力がブーストされた一撃は、簡単に金属の鎧を斜めに切り裂く。


(攻撃力ブーストが思った以上に働いてくれてるな)


 『暗器状態の場合、通常状態のメインステータスを参照して暗器状態のメインステータスを大きくブーストする。』、だったか。


 武器のメインステータスとは、武器種ごとの参照するステータスの能力値の事である。


 短杖(メイス)の場合は、魔力のステータスを参照している。魔力の値が大きければ大きい程、回復魔法や防御魔法の威力を底上げしてくれるのだ。


 そこで、現在の俺のステータスは以下の通り。



―――――――――――――――

田中速人

Lv7

職業:僧侶

HP:36/36

MP:52/52

攻撃力:12

防御力:9

魔力:23

対魔力:19

《スキル》

【初級聖魔法】

【暗器使い】

―――――――――――――――



 魔力は23ある。


 ここで、俺の今の武器である『夜の短杖(暗器) 星1』を、暗器状態…つまり、刃を抜いた状態に変えてみると、ステータスは以下の通りに変動した。



―――――――――――――――

田中速人

Lv7

職業:僧侶

HP:36/36

MP:12/52

攻撃力:12(+23)

防御力:9

魔力:23(-23)

対魔力:19

《スキル》

【初級聖魔法】

【暗器使い】

―――――――――――――――



 つまり、刃を抜いた時だけ、俺の攻撃力は35になるという事だ。大体3倍ものバフである。


 暗器状態の場合、武器種は『剣』になる。剣のメインステータスは攻撃力なので、攻撃力が上がる形となった。


 これが『通常状態のメインステータスを参照して暗器状態のメインステータスを大きくブーストする』という事なのだろう。


 いくら暗器系の武器の素のステータスが弱いからといって、このバフ量は十分にその弱さを補ってくれる。このことはメリットの一つとして数えていいだろう。


 その上使い勝手も悪くない。


 仲間を倒されたリビングアーマーが2体、緩慢な動きで俺に切りかかってくる。俺はそれを、刃を鞘に納めて通常状態にして、僧侶の魔法を使う。


「『光の盾』」


 俺の目の前に魔力で作られた盾が展開され、2体の攻撃を余裕で受け止めた。


 これがメリット二つ目。そもそも僧侶は仲間をサポート、回復する役割があるが、短杖状態の時はそれを自分に使うことができる。


 つまり一人で二役をこなせるという事だ。僧侶としての能力で自分を守り、回復し、そして暗器として解き放って敵を一気に殲滅できる。


 僧侶は火力が足りないことが一番の弱点だったのだが、このスキルはそれをおおいに補ってくれた。


 というか、そもそも訓練時の俺の得意武器は剣だったのだ。それが思いっきり使えるのも気持ち的にうれしい。


 当然魔力量の制限はあるが、そこは俺の唯一の十八番である魔力操作でやりくりできる。


 あれ? これ、マジでソロでやっていけるのでは…?


 俺はリビングアーマー達を切り倒しながらそう思い始めていた。


 これで初心者ダンジョンのボスまで倒せたら、もはや文句なしだろう。なお、徘徊種はボスクラスの実力を持っているが、この前の徘徊種は手負いだったし数に入れないことにする。


 うん、次の目標はボス討伐だな。


「――――!」

「…なんだ?」


 そんな風に新たに目標を立てていると、不意にダンジョンの奥から微かに悲鳴が聞こえてきた。


 ダンジョンで悲鳴か。別に死ぬわけでもないし、変に介入する方が迷惑がられるのだが…。


 一応様子だけでも見に行ってみるか。そう判断し、俺は迷わず駆け出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る