職業×パーティー

 9月に入りクラス全員が何とか仮免許が取れた時点で、訓練校は平日週5のカリキュラムから、平日週3のカリキュラムへと変更された。木金土日が休みとなり、この間は自由にダンジョンへとアタックすることが可能になった。


 そして同時に、職業に就けるようになった。


 職業とは、『役割』の事で、攻撃に特化していたり、防御に特化していたりとそれぞれで違う強みを持つ。


 それらの力は神によって与えられる。


 正義の神からは『騎士』。


 戦いの神からは『戦士』。


 知恵の神からは『魔法使い』。


 プラスして、その他もろもろ。


 …と、このように神によって与えられる役割は変わってくる。


 職業には適性があり、神を象ったモニュメントに対して祈りを捧げて、反応があれば適性がある、ということになる。


 なお、これらの神々はダンジョンが現れたと同時に信託を下すようになった、神を自称する謎の存在である。人類に対して害がなく、逆にダンジョン攻略を助けてくれるので、今は共存関係を維持している状態だ。


 さて、俺の職業の適性はというと…なんと、『僧侶』だった。


 ステータスはこのように変化した。



―――――――――――――――

田中速人

Lv1

職業:僧侶

HP:18

MP:20

攻撃力:3

防御力:2

魔力:11

対魔力:8

《スキル》

【初級聖魔法】

―――――――――――――――



 【僧侶】は、信仰の神から与えられる職業で、回復特化の職業だ。


 他にも仲間を守る結界を張れたり、魔法により味方を強化したりもできる。


 正直、外れだ。


 というのも僧侶は単体で火力を出すことができず、仲間ありきの職業だ。


 俺の好みではないし、世間からの評価も割と低い。


 今は傷を負うよりも前に敵を倒せ!という、攻撃は最大の防御、と言った考え方が主流だ。


 当然強力なモンスターが現れたら唯一無二の役割をこなせるため重要ではあるのだが、普段のダンジョン攻略ではお荷物になる事が多い。


 だが、職業の適性は生まれつきのものだ。無い物ねだりは出来ない為、このままやっていくしかない。


「仮免許冒険者について説明するからよく聞くように」


 仮免許を取った時点で、鬼頭先生の説明が入った。


「仮免許冒険者は、一般的な冒険者と比べてできることが少ない。現時点では入れるダンジョンは初級ダンジョンだし、追跡カメラによる配信もプライベートチャンネルとして動き、一般公開はされずに、俺達指導員のみが閲覧できる。これらの制限は訓練生のお前らが、冒険者としての経験をゆっくりと、着実に積むための措置だ。まあ、冒険者は人気が欲しいからと無茶な行動をする奴も多いからな。そういうのを防ぐためでもあるが」


 なるほど。それは個人的にはありがたい。ただ、ダンジョン配信者を目指しているのであろう人は多く、少なくない数の残念がる声がそこら中から出てきた。


「どうどう。逆に言えば世間の目を気にせず冒険できるのは今位なもんだ。ゆっくりマイペースに強くなれるし、恥ずかしいミスしても知るのは俺達だけだからダメージも少ない。ま、とにかく今は初級に潜りまくって、ダンジョンという存在になれるところから始めてくれ。俺はここでお前らを見守ってるからな」


 と、説明は締めくくられた。


 さて、という訳で初級ダンジョンの攻略だ。


 ダンジョンはそこら中に現れる。難易度が低い程現れる数は多く、難易度が高い程たまにしか現れない。


 初級ダンジョンは文字通り履いて捨てる程現れるため、初心者にとっては絶好の練習の場だ。


 さて、ダンジョンに入るにはパーティーを組んだ方が効率がいい。


 というのも、職業…つまり神の加護は、人数によって干渉し合い、俺達冒険者に良い効果や悪い効果を運んでくるのである。


 この効果を共鳴効果と呼ぶ。


 ソロの場合は、取得経験値微アップ効果。


 2人の場合は、効果無し。


 3人の場合も効果無し。


 4人の場合は、攻撃力、魔力が微アップし、取得経験値微アップ。


 5人の場合は効果無し。


 6人の場合は、攻撃力、魔力が微かに弱化。


 …と、このように人数によってさまざまな効果が発揮される。


 特に6人以上の場合は殆どが悪い効果を発揮するようになる。


 例外は32人の中規模レイド。HPが上昇する。


 さらに、128人の大規模レイド。魔力、攻撃力が微アップし、ドロップ品が良くなる効果。


 大体の場合は4人でパーティーを組むことが多い。それが一番手軽に良い効果を引き出せるからだ。


「頼りにしてますぞ、田中氏!」


 俺は、池田含む4人パーティーを組むことになった。


 パーティーメンバーは俺、オタク友達である池田、佐藤、鈴木だった。


 それぞれデブ、ガリ、根暗である。俺もまあ根暗ではあるが…被ってしまったか? 


 職業としては、池田が戦士、佐藤が槍使い、鈴木が盗賊だった。


 前衛で固まってしまったが、結束力は強い。攻撃魔法も、数は少ないが僧侶の【初級聖魔法】で覚えるため、俺がこなせば問題ないはずだ。


「我ら四人集まれば、向かうところ敵なしでござる!」

「が、が、頑張ろう…ね…ふひ」

「ああ、よろしくな」


 装備も、訓練校からの支給品を身に着けている。


 職業によって適切な装備は変わってくる。例えば【僧侶】の俺は、短杖(メイス)がメイン武器となる。装備すれば魔力にボーナスが加算される。


 また、一応近接武器にもなるので自分から殴りに行けるのもうれしい。


 防具もまた種類によってボーナスが加算される。僧侶の場合はローブだ。こちらもHPにボーナスが加算されることになる。


 そういう訳で発足された『池田パーティー』は、ダンジョン攻略を開始したのだった。


 暫くは初心者ダンジョンが俺達の活動場所となる。


 そもそもダンジョンは難易度別に、下が6等級、上が1等級のランクで分けられている。


 難易度が下であればあるほど出現率が上がり、難易度が上がれば上がるほど出現率は少なくなる。


 初心者ダンジョンは6等級の中でも、更に難易度が低いダンジョンの事を指す。


 初級ダンジョンに現れるモンスターは、かなり程度の低いモンスターばかりだ。この辺りまでは、ステータスの無い人間でも勝利することが可能だ。


 攻撃も大体は体当たりのみ。特殊な行動は行わない為、前衛3人、加えて近接戦闘が無駄に得意な僧侶の手によって即座に殲滅される。


 仲間としての連帯感もどんどんと深まっていき、俺達は順調にダンジョン攻略を進めていった。


 そして、2月に入ったばかりのその日。


「悪い、田中氏!パーティーから抜けてくれないか!」


 池田にそんな事を言われて、俺は思わず呆気にとられた顔を浮かべてしまったのだった。

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