訓練×グループ

 訓練校のカリキュラムとして、俺達はダンジョンにはいかず、座学と実技を中心に進んでいった。


 座学ではダンジョンの知識や冒険者として役立つ知恵、法律関係について、1日3時間行われた。


『夏を目標に、最大半年で冒険者の条件付き仮免許を取得する。ダンジョン攻略はそっからだ』


 そう言ったのは、鬼頭先生だった。


『この仮免許は訓練生に与えられる特別な免許で、本物の免許と違いランクが無い。取得したら最後、3年生になり卒業するまで仮免許のままだ』


 『ただし!』と先生は続けた。


『仮免許は、卒業と同時に本免許へと昇格を行うことができる。具体的に言えば、訓練校に所属していた頃の成績を鑑みて、適切なランクで本免許へと昇格することになる。全国で冒険者コースのある職業訓練校は4校あるが、過去に一番高いランクでプロになった奴は、なんと4等級からだ』


 冒険者のランクは6等級から始まり、最高の1等級まで存在する。この中でプロと呼ばれるのは4等級から上だ。その言葉を聞いて、教室は息を飲む声が響いた。


『逆に、一定以上の成績を出せなかった奴は『素質無し』…すなわち、本免許への昇格は却下されることになる。そうなったら、後で自力で再取得するか諦めるかの二択だ…ま、殆どは諦める』


 意味深そうに笑みを浮かべ、じろりと教室中を見た鬼頭先生は、こう続けた。


『去年卒業したクラスは、1年の時に40人から始まり、3年になって18人まで減った!そして実際に本免許へと昇格できたのはそのうちの8人だけ。この3年間は、冒険者を目指す訓練期間でもあり、同時に訓練生とはいえ容赦なくふるいにかけられる地獄の期間でもある。この意味をしっかり頭に刻み込んで、日々精進に励むことだ!分かったか、訓練生ども!』


 やっぱりそう簡単にプロになれる程甘い世界ではないらしい。俺は…というか、俺を含む訓練生は固唾を飲んで返事をしたのだった。


 残りの時間は実技だ。簡単な体術から始まり、訓練用の疑似ダンジョンを生成しての対人戦闘へと繋がっていった。


 疑似ダンジョンは体育館の中に特殊な装置を使って結界を張るというものだ。見た目で言えば、体育館の中にガラスの箱があるような感じ。その中では、モンスターが現れない以外はほぼダンジョンと同じ法則が流れている。


 つまり、『ステータス』が発動するのだ。


 俺のステータスはこんな感じ。



―――――――――――――――

田中速人

Lv1

職業:--

HP:--

MP:10

攻撃力:1

防御力:1

魔力:1

対魔力:1

《スキル》

【--】

―――――――――――――――



 とまあ、かなり低いように思えるが、これはまだレベルが1かつ職業に就いていないからである。


 レベルが上がれば成長し、職業に就けばステータスにボーナスが加算されるため、そこからが本番となる。逆に言えばレベル1で無職状態では誰であってもステータスはこれだ。


 職業は実際に就く時になったら説明するとして、一つずつ項目を説明するとこうなる。


 HP。ヒットポイント。ゼロになるとダンジョンの外へと強制送還される。強制送還された場合、一定期間ステータスが弱化する。職業に就くことで得られる為、現在は表記無し。また、持久力としても機能する。多ければ多い程疲れにくい。


 MP。使える魔力の事。


 攻撃力。正式名称は攻性干渉力。防御力をどれほど貫通できるかどうかの数値。


 防御力。防性干渉力。攻撃を防ぐバリアのようなもので、攻撃を受けてもダメージを軽減し、怯みにくくなる。また物理的な状態異常にも耐性を持つ。


 魔力。魔法全般の威力に関わる数値。魔力が高ければ高い程攻撃・回復魔法の威力が上がる。


 対魔力。魔法に対するバリアの様なもので、魔法を受けてもダメージを軽減軽減し、怯みにくくなる。また魔法によってもたらされる状態異常にも耐性を持つ。


 …という感じだ。


 まあゲームのステータスとほぼ同じ。


 ただ、一つだけ異色な点がある。それは、ステータスは俺達の身体能力の向上に『あまり関係しない』という点だ。


 ステータスが上がる事で向上する身体能力は、HPがもたらす持久力のみ。


 身体能力を上げるためには、自分で魔力を操作して身体を強化したり、後で手に入るであろうスキルを使用するしかない。


 つまり個人の技術によって差ができる。


 まあ、つまり冒険者業は運動音痴にはきついという事だ。


 さて、その点を踏まえて俺の成績はというと。


「田中は相変わらず筋が良いな、おい!」


 という評価だった。


 自分でも驚くことに、俺はどうやら才能があったらしい。魔力操作が人よりも得意らしく、特に近接戦闘の項目で上位組に食い込めた。


 今では上位組の一員として同じレベルの相手と組手をする日々を送っている。


「田中君、今日も組手の相手、お願いできるかな?」

「もちろん」


 そして、俺と同じように上位組に入った人間は当然ながら他にもいた。


 1人目は、入学式当日に積極的に人に話しかけていた貴公子みたいなイケメンの青年、明野大和。


「田中、ヤマト君に誘われたからって調子に乗らないように」

「…なんでそんなこと言われなきゃならないんだ?」

「ねー、ヤマト君、次私相手ね?」

「ああ、田中君との組手が終わったらね」


 2人目は明野と仲のいいギャル。紫色に染めた髪が特徴的な四ノ原小春。なんかいつも飴舐めてる。


「なるほどなるほど。じゃあ、明野君が空くまでは私がお相手しましょうか、お嬢さん」

「はーい、おじ様」


 そんな彼女に話しかけたのが3人目。ナイスミドルな男、佐野敬一郎さん。物腰柔らかな雰囲気が特徴的だ。


 俺を含むこの4人が、上位組となっている。


 さて、ついでに現在のクラスの雰囲気についてだ。


 今、クラスは大体4人組が作られており、更にその4人組がそれぞれの派閥に所属していた。


 一つは明野が率いる明野グループだ。女子のほとんどがここ。四ノ原さんも当然ここに所属している。


 そして次が佐野さんグループ。佐野さん以外の中年組や、大人しいタイプの人がここに所属している。


 そして最後。


「うおー!頑張れ田中氏ー!俺達オタクの希望の星よ!いけ好かないイケメンを倒すのだー!」


 結界の外で叫んでいるのは、ザ・オタクと言った感じの太った男だった。


 名前を池田雄大。三つ目のグループ、オタク組を率いているのがこの男だ。オタク組にはオタクだったり、根暗だったり、人と関わるのが苦手な人だったりが所属している。そして声のデカい池田がそのリーダーとして君臨しているのだ。


 俺はというと、何故かこのオタク組に所属している感じになっていた。


 と言っても佐野さんや明野ともよく話すのだが、この池田が良く話しかけてくるのだからメインはオタク組って感じになってる。


 まあ、俺もアニメや漫画はよく見るから話が合うしね…身の丈に合ってる感じはする。


 欠点と言えば、女子が一人もいない事だろうか。悲しいね。


「デブテメエ、ヤマト君に何言ってんだコラぁ!」

「ギャルめ、結界の中でいくら吠えようと怖くないもんね!」

「あ、あはは…池田君、相変わらず僕にだけ辛辣なんだよなぁ…」


 引きつった笑みで困惑顔を作る明野に、俺は何故か申し訳なくなった。


「なんかごめんな…」

「なんで田中君が謝るんだよ。それよりも、ほら、始めようか」

「ああ」


 全身に魔力を流して、身体を強化する。そして手に木刀を持って明野に対峙する。


 季節は夏も終わり。


 来週に筆記と実技試験があり、合格すれば即仮免許が取得できる。


 つまり、本格的な冒険者業が始まりを告げる時期だった。

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