無職×新クラス
倍率は結構高かったが、何とか無事受かる事ができた。
試験の内容は…まあ、学校の授業で習うような、ダンジョンの歴史や冒険者の成り立ちなどについて。
それから高校レベルの基礎教養。これが一番難しかった。数学とか覚えてねえ。
後、実技では体力測定が行われた。これもしんどかったが、冒険者コースを目指すことを決めた日から毎日コツコツ体を鍛えてきたのでこなせない訳ではなかった。
そして、新年度。俺は街から少し離れた森の中にある、元小学校の校舎をそのまま流用してできた職業訓練校、『玉枝職業訓練校』の校舎へと足を運んでいたのだった。
森の中を突っ切る様に作られた道路を自転車で突き進めば、そこは見えてくる。
周囲を畑に囲まれた小さな校舎。学校への道の途中には石碑が建てられており、『玉枝小学校跡地 20xx年廃校』の文字が書かれていた。
農業コース、ITコース、そして冒険者コースが存在する職業訓練校。その新学期ということもあり、玄関は人でごった返していた。
玄関で靴を指定された靴箱へ入れて、そして持ってきていた学校用のスリッパへと履き替える。
「冒険者コースの方はこちらでーす」
そんな職員の案内に従って、俺は校舎の中を進んだ。
その教室は、本当に小学校の教室そのものだった。中に入ると学校の机と椅子がずらりと並べられていて、既にほとんどの席に人がついていた。
数は40人くらい。髪を染めた人が多い。中には紫色に髪を染めた女子もいた。殆どが若い人間だが、数人だけ渋いおじさんが混じっていた。
そんな中で、黒髪で中肉中背の俺は完全に浮いていた。
中には俺と同じタイプの人間もいた。
職業訓練校は様々な年代の人が集まると聞いていたが、本当にその通りだったらしい。
ほとんどは携帯を弄っているが、中には積極的に話しかけている人もいる。
貴公子みたいな金髪の青年や、オタクのカリスマみたいな良くしゃべる太った男。また、中年の落ち着いた白髭の男は柔らかい雰囲気で周囲とコミュニケーションを取っているようだった。
俺の周りにはそういうタイプはいなかった。こっちから話しかけられるほどのコミュニケーション能力は残念ながら俺にはない。
自分の席に座ってしばらく周囲を観察していると、無精ひげが良く似合う男が入ってきて教壇に立った。
「よし、それじゃあ始めるか。まず初めに、入校おめでとう!ここはプロの冒険者を目指す冒険者コースだ。3年間ずっと一緒になるかは分からないが、取り合えず1年目は俺が取り仕切る事になった。よろしくな」
どうやら彼が担任…というか、正しくはここでは指導員というが、とにかく担任らしい。
「という訳で自己紹介だ。名前は鬼頭伸介。3等級の冒険者だ。生憎配信とかには興味ないから知らねえ奴が殆どだろうが、一応プロ。自慢できる経歴と言えば、一度だけダンジョン攻略の折に一等級冒険者の『ナガマサ』さんと共闘したことがあるってことくらいだ」
その言葉にクラス中がざわついた。
『ナガマサ』と言えば、ダンジョン配信者の第一人者だ。登録者数は一千万を超える大物で、その上数多のダンジョンを攻略している実力派でもある。
俺でも知ってるビックネームだが、一回だけかあ…と、思った俺は少数派だったらしい。殆どの訓練生は目を剥いて驚いていた。
「すげー、あのナガマサさんと!?」
「俺達、当たりのクラスに入れたんじゃ!?」
「はは、よせやい。と、おっさんの自己紹介なんて長々聞きたくないだろうしな。次は一人一人自己紹介と行こうじゃないか。時間制限とかは付けないから、自由に自己紹介していってくれ」
という訳で一人一人自己紹介し始める。
「た、田中速人です。どうぞ、よろしくお願いします」
あっという間に自分の番が来て、俺は緊張しながらもなんとか自己紹介をこなして席に着いた。
「よし、時間内に終わったな。次は入学式だ。と言ってもうちは教室でやるんだけどな。備え付けのテレビに注目!」
黒板がある方の天井の隅に、大型モニターが取り付けてあった。鬼頭先生がリモコンを操作して電源を入れると、校長と思われる中年の男性が映った。
『ただいまより、令和xx年度、入学式を始めます――――』
入学式はつつがなく行われ、俺の新しい日常が始まったのだった。
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