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保科照史は言っていた。
「最低でもその力を使いこなせるようにはなってもらいたい」
すっかり忘れていたこの言葉通り、誰も分からない未知の力を使いこなす訓練が始まった。
試行錯誤ではあったが進捗は早く、2週間程で自分の意思で力を、衝撃を操れるようになった。
全てはあの3人のおかげだ。
不本意に誰かを傷つけない為、そして誰かを本意で助ける為の訓練。
保科家の人たちの事もそれなりに分かった
もう少しで俺の中から未知が消える、そんな時、
実践と実戦が突然やってきた。
「ここから2kmほどの所で巨漢が暴れてる、文字通りの巨漢がだ」
覚醒者への対応、ここ最近の各国の最優先事項。
大した努力無しで力を持つと悪事に走る者がいる。
警察や軍が武力で対抗しているのだが、治安は悪化する一方だ。
この街でもついに覚醒者が現れた、悪人として。
「覚悟は?」
「...できた」
普通を求める諦めがつき、覚悟が出来た。
自分に何が出来るかが明確に分かった。
「じゃあこれ」
渡されたのはなんてことないカナル型のワイヤレスイヤホン、それも片耳だけ
「それを通してお前をサポートする、視覚的な情報は防犯カメラから得るから、壊さないようにな」
「うん」
この一家が俺に人助けをさせたがる理由、どうやら俺の為らしい。
異常の俺に普通は不可能、ならば少しでも有意義を、という事だ。
現状世間が柳陽翔という人間に対して持つイメージは最悪に近い。
ただでさえ良いイメージを持たれていない覚醒者という存在が、危険運転をしていたとはいえ車を爆破させしばらくの間その道路を使用不可にしてしまったのだ。
何処に行っても俺が俺であるとバレれば恐れられ、避けられ、蔑まれるだろう。
そこで人助けだ。
人助けは善人のする事であり、善人を嫌うのは悪人であり、悪人は世間に嫌われる。
至極真っ当であり最善の作戦だ。
しかし常人から逸脱した俺が行う人助けとなるとゴミ拾いや道案内だけでは済まされない。
言ってしまえばヒーロー活動。
悪人の成敗が最善となってしまう。
「もっと楽な方法無ぇのかな...」
こんな時にまでなって、こんな言葉が本音として漏れ出てしまう自分が情けない。
ワガママで、ダサい事この上ない、しかし仕方がない、そう思う。
これまた情けない。
「努力無しで得られる幸せなんてないよ」
現実的な真実が怠惰を刺し殺す。
「ったく、これだから人生は」
ため息と愚痴。
「ガキが分かった様な口利くな」
ニヤけた保科が言った。
「気をつけてね、陽翔くん」
「耳が切り落とされない限り君は1人じゃないから安心していいよ」
姉妹でもここまで激励に差が出るのか。
「夕飯は好きな物食わせてやるから、腹空かせてこい」
「はいよ」
靴紐をしっかりと結び、立ち上がってドアノブに手を掛けた。
諦めはイコールで覚悟と繋がる。
覚悟とは、我が身を行使し戦う事、見知らぬ者を救う事。
その成功に対する見返りは感謝と、人生の存続。
「いってきます」
2年ぶりのその言葉は、家族ではなく、年の離れた友人に。
そしてモノクロの人生に絵の具と筆をくれた恩人に。
「いってらっしゃい」
流石は血の繋がった家族、ピッタリと息が合った。
そんなわけで、色塗りの時間である。
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