第20話 宇宙駆ける翼

 炎に包まれる教会で、その最後を悟り目を瞑る僕の下に、瓦礫の雪崩音と鳴き声が聞こて来た。

 聞き慣れた鳴き声に、僕は思わず音のするほうに目を開く。

 視線の先。教会の壁に風穴が空いており、その向こうには白い翼をはためかせるアイツがいた。


 「あ、アンブレラ……!?」


 教会の外で待っているはずの天馬がそこに立っていた。


 「な、なん!?」


 佇むアンブレラにそう言いかけた時、天井からゴゴゴッと大きな音が聞こえてきた。どうやらアンブレラの空けた穴が教会の倒壊を加速させたみたいだ。

 僕は転がるようにして壁に空いた穴を通り抜け、教会の崩落から難を逃れた。


 「ありがとうアンブレラ。それよりなんでここに!?」


 転がった先、教会を囲うように生える木々の一本に背中を預ける。信じられない状況を目にする僕にアンブレラは、その顔を近づけてくる。

 アンブレラと僕の頬が触れ合う。僕はアンブレラの顔にそっと手を添える。

 天馬は天使の言葉を喋らない。アンブレラは人の言葉を口にしない。けど触れ合うその手から、頬から、……解る。


 「そっか、そうなんだね。アンブレラ」


 こんな虚に寄り添ってくれる天馬かれの頬を撫でる。


 「ありがとうアンブレラ。……もう少し付き合って欲しい」 


 僕は決意を秘めたその眼でアンブレラの眼を見つめる。


 「狭いけどごめんね」


 手に抱えていた白い花を胸ポケットで守り、僕は翼を畳んでいるアンブレラの背に跨る。

 手綱を掴み合図を送るとその咆哮と共にアンブレラと僕は宇宙そらへ羽ばたく。

 教会の真上。駆け上がった宇宙には逃がしたと思っていた例の堕天使が佇んでいた。

 堕天使は宇宙に上がってきた僕らを目にすると少し驚いた表情を浮かべた。


 「あの状況からまだ生きてるなんて!?」


 アンブレラに乗る僕に堕天使はそう口にする。


「信じられない。僕もだよ。とっくに逃げ去ってると思った」


「ペガサスに跨ったくらいで調子に乗るんじゃないよ!」


 僕からの挑発に堕天使は血相を変えると、右手を構えさっきの戦いと同じ様に枝を伸ばしてきた。

 向かってくる枝から逃げるよう僕はアンブレラに指示を送る。

 アンブレラはその軽い身のこなしで追ってくる堕天使の枝を避け、捕まらないよう逃げ続ける。

 アンブレラに回避を任せ、僕は堕天使を捉えつつやつを殺す方法を思考する。

 手持ちはポケットに入れておいたナイフが二本。背中に結んでおいた一本の槍。ただこれは折れて持ちてのところしか無い。


 アンブレラに任せてる分、力は使える。ただ何の力を使う?


 空中じゃ下手に接近戦は仕掛けられない。剣も無いから筋力増加のカウントAにする必要はない。

 ナイフで羽を切ってもいいけど、やつ相手は意味がなさそうに見える。そう考えるのも枝を伸ばしている堕天使の右手だ。切放したはずの腕が再生している。というよりも生やした枝で義手を形成したみたいだ。

 ナイフを投げて、さっきみたいに位置替えをするか?いや、駄目だ。アンブレラから離れて、やつに捕まったら同じだ。

 そうこう考えていると、アンブレラの動きが急に荒くなった。振り下ろされそうになりながらもしっかり手綱を握り周囲を確認すると、追ってきている枝が二本に変わっていた。

 堕天使に目をやるも二本目が左手から伸びている訳ではない。追ってくる枝をよく見ると、どうやら一本目から伸びた枝が別方向から迫ってきていたみたいだ。

 右往左往に攻めてくる枝から必死に回避を続けるアンブレラ。回避に集中できるよう僕も枝の軌道を見るが、これじゃ一向にやつを殺す方法を編み出せない。

 逃げるしかない僕らに堕天使は安心の笑みを浮かべる。


 くそ!どうすれば、


 考えるも防戦一方の状況が続く。

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