第五章 オーバーカウント
第21話
この状況が続けばアンブレラの体力もいつかは切れる。そうなったら反撃することなく僕らはお終いだ。
駄目でも、危険でも、とにかくやってみるしかない。
「アンブレラ。難しいと思うけど堕天使に近づいてくれ」
左右から攻めてくる枝を避けるだけでも大変なアンブレラに僕は無茶なお願いをする。けれど、アンブレラは無理と首を振ることは無く。「わかった」と言うように声を鳴らす。
それから逃げていた状況から反転し、アンブレラは枝を上手く回避し堕天使の下へ突っ込んでいく。
「カウントA」
堕天使との距離が近づく中、僕は力を使用すると共にポケットから取り出しておいた一本のナイフをやつへ投擲する。
正面から迫ってくるナイフを堕天使はひらりと容易く躱す。ナイフは堕天使の横を通り過ぎところで、
「カウント8!」
その単語を叫び。アンブレラの上にいた僕と通り過ぎたナイフの位置が入れ替わる。
右手に拳を作って放つ構えをした僕の目に堕天使の背中が見えると、その背中目掛け拳を放った。
筋力増加を受けた容赦のない一撃が堕天使の身体を揺らす。
背中に受けた衝撃に嗚咽を漏らすような声を出す堕天使。しかし怯む様子を見せながらもやつはくるりと身体を回し、伸ばした左手で僕の首を掴む。
「苦しむ貴方の顔にさっきは少し手を抜いたよ。けど今度はこのまま首の骨を折ってあげる」
左手を外そうとする僕に堕天使は狂気のような笑みを浮かべる。
首を掴む手に力が入る時、堕天使の向こう側で羽ばたくアンブレラが目にはいる。
対象の位置を入れ替えるカウント8の力。アンブレラの背には入れ替わりで置かれたナイフがある。
そのナイフを認識した僕は絞めつけられる首の中、僅かな声を上げる。
「か…カウント、8」
直後、僕の身体は堕天使の手を離れアンブレラの背に跨っていた。入れ替わったことでナイフを力強く握ってしまった堕天使。やつの悲痛な叫び声が僕らの耳を劈く。
「ふぅ〜、ありがとうアンブレラ」
お礼を言いつつアンブレラの首元を撫でる中、その視線は丸くなっている堕天使の背中へ向く。
今のでナイフを一本使った。残りは一本と折れた槍の持ち手。……変に考えるな、このまま仕留め切るんだ。
蹲る堕天使の背中を前に僕は背中に縛っていた折れた槍(折れた部分が鋭いだけのただの棒)を構え、やつへ向け突進するようアンブレラの手綱を引く。
合図を受けたアンブレラが堕天使へ向け一直線に駆ける。背中にある羽の根本を傷つければ少しの時間でもやつは飛行できなくなる。その隙を突いて一気に殺す!
そう考え、あと少しで突き刺さるところでやつが一気にこちらを向いてきた。振り向きざまに斬り掛かってくるやつの爪に思わず僕とアンブレラはそれぞれに回避行動を取る。
空中を落下する僕をアンブレラが回収しにくる。しかし今の一瞬で思わず槍を手放してしまった。
カウント2を使ってれば刺せたか?いや、あの反応はわざと引き付けたのか。ギリギリ見えた左手も右腕と同じ様に植物化で治してた。それにあの目……
アンブレラと共に堕天使の周りを飛びながら一瞬の出来事を思い返す。
完全にキレてる感じだ。と言うか本能的な敵意か?……どうする?ポケットの中はあとナイフとライターだけ。
……ん、ライター?
その単語にふと何かを思い出す。教会内で首を絞められた時、なんでやつはそのまま絞め殺さなかったんだ?
僕は堕天使へ向けていた視線を下の教会へ移す。教会は既に炎で包まれており、その火は周囲の木々へと広がっていた。
もしかして……?
その光景に僕の中である可能性が生まれる。もしこれが当たっていれば、僕はまだ堕天使を殺せるかもしれない。
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