第18話 殺意の一振り

 しまった……。まともに受けた


 堕天使の蹴りを受けた左脇腹を抑え、覆い被さっている瓦礫を避ける。

 今ので相当な気力が持って行かれた。余計に力を行使しづらくなった。

 筋力上昇してるとは言え、それを貫通してくるなんてどんなバケモンだよ。あいつ本当に元天使か?ゴリラじゃないのか?

 頭の中で堕天使に対する愚痴を零しつつも僕は自身が飛ばされた部屋の周囲に目を配る。

 部屋には幾つも棚やラックがあり、その殆どに剣や槍、ナイフに弓といった武器類が保管されていた。

 近くに転がっていたナイフを手に取るが、使われていなかったのか?ナイフには汚れや錆などの目立った劣化は見られなかった。他の武器類も目で確認できる限りは、同様に銀色を光らせる綺麗なモノばかりだった。

 使わずして教会が捨てられたのか?それ以前になんで教会内に武器庫があるんだ?何かに備えてたのか……。

 教会内にある武器庫の存在に思考していると破損した部屋の入口に徐々に伸びてくる影が見えてきた。

 余裕があるのか?堕天使がゆっくりと近いてきている。

 それを目にしながらも部屋で膝を着く僕は部屋の中の妙な暑さに気づき、ふと部屋の角に視線を移すとそこには炎が小さく揺らいでいた。どうやら一階から伸びる火の手が予想よりも早いみたいだ。

 一階にはもう戻れそうにない。とりあえず武器を見繕う。やつが来る。

 ナイフは何本か持って、この縄で縛れば剣と槍は一本ずつ背負えるか。あとは何を持つか?

 堕天使が近づきつつある中、部屋の中で目にしたそれに僕はある策を閃いた。

 時間はもうない。僕は部屋の入口へ向け、すぐに弓矢を構える。

 チャンスは一回。外せば、この閉鎖空間で殺し合いになる。

 タイミングを逃さぬよう集中する。弓矢を持つ手に力が入る。


 「見つけた。あら?まだくたばってな……」


 今だ!


 入口に立つ堕天使。部屋に立つ僕を見つけると口を開き出した。

 僕は堕天使のその余裕そうな瞬間を見逃さず、やつの口が回るのを見て真っ直ぐ狙っていた矢を放った。

 矢はその高さから堕天使の胸目掛け放たれるもやつの胸を射る直前、矢はピタリと止まった。

 堕天使の指二本が矢を止めたのだ。


 「こんなモノであたしを殺せると思ったの?これだから虚は、」


 堕天使は掴んだ矢と僕を交互に見ては呆れた表情を浮かべる。そしてやつは掴んだ矢を自分の右隣、部屋の角へ投げ捨てた。


 「カウント8!」


 その一瞬に僕はその単語を叫ぶ。

 僕の身体は部屋の奥から堕天使が矢を捨てた入口右側に移動した。

 堕天使と僕の距離は僅かに、その状況にやつは驚く。

 直前まで矢を持っていた堕天使の手が僕の前にくる。背負っている剣を抜き思いっきり振り下ろしと、剣はやつのその腕を両断した。

 切り離された腕から黒い液体が噴き出す。

 斬られた自分の腕に堕天使の目が向く。僕はやつの動揺を逃さず、その場で一回転し剣の腹で堕天使を部屋の外へ吹っ飛ばす。

 今度は廊下のほうで土煙が上がる。

 僕は吹っ飛ばした堕天使の跡を追い部屋を出る。

 部屋を出た僕の耳には「う、うぐぅ」と涙声のようなものが聞こえてきた。

 その涙声の主は堕天使であり、腰を落としたまま斬られた自分の腕を見つめていた。


 「腕が……、あたしの腕がぁぁぁ……」


 堕天使の泣き叫ぶ声は教会全体に響き渡るほどで、その証拠に教会内の壁は揺れ天井から土塊が降ってきた。

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